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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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093・7日間の余暇

 その日の夕方、僕らはアルジィム魔法薬店に帰還した。


 そして、


「これよ、これ!」


 元宮廷魔法薬師の美女――アルマーヌさんは、黒い鱗を手に歓喜の声を店内に響かせた。


 鱗の表面には、緑の苔。



 ――黒幻竜の苔霊草だ。



 希少な素材に、彼女は頬を紅潮させている。


 一方で、店主のジムさんと手伝いのポポは、顔を見合わせている。


 僕を見て、


「この苔か?」


「うん」


 彼の問いに、僕は頷く。


 少女の方も「ただの苔みたい」と呟く。


(まぁね……)


 特殊な薬草とはいえ、結局は、植物の1種だ。


 柔らかそうな苔の先端に魔力の結晶が水滴みたいに光ってるけど、それ以外、特別な見た目という訳でもない。


 だけど、


「竜の魔力を吸った苔だよ」


「…………」


「…………」


 僕の言葉に、2人は黙る。


 アルマーヌさんも、


「いい、ジム? 私の魔法薬を扱う店ながら、こういう希少素材も覚えておきなさい」


 と言う。


 ジムさんは「へ、へい!」と返事。


 親戚の兄を見て、ポポも頷く。


 そして、緑髪の美女は、炎姫様を見る。


「感謝するわよ、シュレイラ」


「ああ」 


「ところで、やっぱり黒幻竜の相手は大変だったんじゃないの?」


「そりゃね」


 認める炎姫様。


 肩を竦め、それから、僕とティアさんを見る。


「けど、2人がいたからさ」


「…………」


「作戦を考えたのはククリだし、黒幻竜の動きを封じたのはティアの魔法だ。結局、アタシは鱗剥がしと、2人と荷物の運搬役になっただけさ」


「へぇ……?」


 アルマーヌさんも僕らを見る。


 感心したように、


「貴方たちも、意外とやるのね」


 と、言う。


 僕は「ありがと」と苦笑する。


 黒髪のお姉さんは、


「まぁ、竜自体は大した強さではありませんでしたが、損傷なく苔を採取するのが面倒でしたね」


 と、澄まして答える。


 アルマーヌさんは「は?」となる。


「……黒幻竜が大した強さじゃない?」


「ええ」


「…………」


「……何か?」


「貴方、何者?」


「ただのククリ君の婚約者ですが?」


「…………」


 不思議そうなティアさんに、彼女は沈黙してしまう。


 ジムさん、ポポの2人は、顔を見合わせる。


 赤毛のお姉さんもおかしそうに笑った。


 友人に向け、


「言ったろ? ティアは、アタシより強いんだって」


「…………」


「な? 本当なんだよ」


「そ、そう……」


 彼女は半信半疑といった顔で頷いた。


(えっと……)


 僕は、話題を変え、


「これで『万能霊薬』、できる?」


 と、聞く。


 魔法薬師の美女は、僕を見る。 


 大きく頷き、


「ええ、もちろん!」


 自信満々に笑った。


(そっか)


 僕も安心。


「じゃあ、ジムさんのお店で売りに出せる?」


「そうね」


「……よかった」


 そのために、がんばったんだ。


 僕はジムさんを見る。


 彼も、僕を見て、


「ククリ……」


 と、感動したように瞳を潤ませていた。 


 少し照れ臭い。


 誤魔化すように、僕はグッと親指を立てる。


 彼も笑い、


 グッ


 突き出すように、親指を立て返してくれた。


(うん)


 僕らは笑う。


 そんなジムさんとの様子を、女性陣も優しい表情で見守っていた。


 やがて、


「よし」


 パン


 上流階級の美女は、膝を払って立ち上がった。


 僕らを見回し、


「じゃあ、私は今から自宅で調薬に入るわ」


「あ、うん」


「他の特殊素材の準備もあるし、完成まで1週間は時間をちょうだい」


 と、言う。


 店主のジムさんは、「へい」と頷いた。


 僕らも異論はない。


(でも、1週間か……)


 2~3日で村に帰るつもりだったんだけどな。


 村のみんな、困るかな?


 と、アルマーヌさんは僕を見る。


 そして、


「報酬も、その時、渡すわ」


「え?」


 報酬?


 驚く僕に、


「依頼した『黒幻竜の苔霊草』を採取して来てくれたでしょ? 当然、払うわよ」


「あ、うん」


(そっか)


 ジムさんの開店祝いで、無料のつもりだったけど。


 でも、依頼自体は、彼女からなんだ。


 なら、もらってもいいのかな?


 そう思う僕に、


「1人300万でいい?」


「…………」


「安い? なら、500万でもいいけど」


「う、ううん! 300万でいいです」


 値上げする彼女に、慌てて言う。


 彼女は「そう?」と頷く。


(さすが元宮廷魔法薬師さまだ……)


 金銭感覚が違うよ。


 僕は、唖然。


 赤毛のお姉さんは、楽しげに笑い、


「ククリ、アタシが受ける依頼の相場は、ま、そんなもんだよ?」


「……そう」


「そうさ」


「…………」


「覚えておきな。本来、竜を相手にするってのは、それぐらい大変なことなのさ」


「……うん」


 僕は頷いた。


(まぁ、確かに)


 ティアさん、シュレイラさんがいなかったら、絶対に受けたくない依頼だったよね。


 僕も何となく、納得だ。


 ティアさんは、


「よかったですね、ククリ君」


 と、無邪気に笑う。


 彼女の笑顔に、僕も肩の力が抜ける。


 息を吐き、


「うん、そうだね」


 と、笑った。


 思わぬ、900万の臨時収入。


 これなら王都に1週間、滞在しても、村のみんなも許してくれる気がしたよ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 万能霊薬完成までの1週間は、シュレイラさんの屋敷に泊まることになった。


 平穏な時間である。


 豪勢な料理を食べたり、フカフカの天蓋付きのベッドで寝たり、たまにシュレイラさんの要望で、僕が料理を作ることになったりもしたけれど……。


 あと僕は、使用人の方に、プロの調理技術を少し教わったりもした。


 例えば、お肉をヨーグルトで漬け込むと、柔らかく、美味しくなるとかね。


(勉強になるなぁ)


 と、しっかりメモしたよ。


 また、彼女の家にはたくさんの武具もあって、


「まぁ……」


 と、武器好きな黒髪のお姉さんは、目を輝かせていたっけ。


 炎姫様曰く、


「第1級冒険者になると、こうしたご機嫌取りの品が結構、届くのさ」


 とのこと。


 彼女自身は『炎龍の槍』があれば、他は要らないらしいけど。


 それを聞いたティアさんは、


「では、私が全てもらっても……!?」


「いいけど」


「!」


「けどさ、ククリの家に置けるスペース、あるかい?」


「……ぁ」


 しょぼん。


 最後は、落ち込むお姉さんなのでした。 


 ごめんね、小さい家で……。


 ま、そんなこんなもありながら3日が過ぎて、僕は、あることに気づいた。


(贅沢すぎる……)


 今の生活が。


 何もしなくても、食事が出て、掃除されて、遊べて、1日の最後に眠るだけ。


 何だろう?


 悪いことはしてないんだけど……。


 でも、落ち着かない。


 むしろ、これに慣れたあとの自分の今後が心配になる。


(……うん)


 決めた。


「薬草採取、しよう」


「え?」


「あん?」


 その日の夕食の席で、僕は宣言した。


 2人のお姉さんは、キョトン。


 僕は言う。


「明日から冒険者ギルドに行って、薬草採取の依頼を受けてくるよ」


「まぁ」


「本気かい?」


「うん、本気」


 このままだと、駄目な人になる気がする。


 ティアさんは微笑み、


「わかりました。では、私も一緒に」


「ティアさん」


「ふふっ、出稼ぎの時みたいに、また2人でがんばりましょうね」


「うん」


 僕は頷く。


 シュレイラさんは、


「2人とも、真面目だねぇ」


 と、呆れ顔。


「じゃあ、アタシは、冒険者や王都の知り合いたちとゆっくり会ってくるかな」


「うん」


「貴方は働かないので?」


「……アタシは基本、年数日しか休めない立場なんだよ。そのせっかくの休みにまで、働いて堪るか!」


「…………」


「…………」


 な、なるほど。


 じゃあ、あとの4日間は別行動だね。


(ま、夜には帰るから、この家で毎日会えるのは変わらないんだけどさ)


 そんな風に、今後が決まる。


 やがて食事を終え、客室に戻る。


 その夜は、


 カチャカチャ


 ティアさんと2人、薬草集めの道具を用意したり、手入れをしたり、翌日の準備をした。


 作業しながら、


「何だか明日が楽しみですね」


 と、黒髪のお姉さんが笑う。


(おや?)


 彼女もすっかり、薬草採取の人だね。  


 僕もクスッと笑い、


「うん、そうだね」


「はい」


 と、2人で笑い合った。


 やがて、就寝。


 同じベッドで、婚約者のお姉さんは、僕を背中側から抱き締める。


(ん……)


 僕も、すっかり慣れたもの。


 その温もりに、ドキドキしつつも、安心も感じてる。


 薄闇の中、


「おやすみ、ティアさん」


「はい、ククリ君。おやすみなさい」


 と、言葉を交わす。 


 目を閉じる。


 彼女の存在を感じながら、明日を楽しみに、僕は眠りに落ちていったんだ。

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