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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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071・湖畔の2日間

 白蛸の討伐から2日が経った。


 宿屋の窓から見える湖には、たくさんの漁船が浮かんでいる。


(……うん)


 その光景に、僕は青い瞳を細める。 


 そして、この2日間のことを思い返していた。


 …………。


 まずは当日。


 港に帰還した僕らは、ルクセン町の人々に大歓迎で迎えられた。


「ククリィ~!」


 ポポも大喜び。


 思わず、少女に抱き着かれてしまう。


 これには、ティアさんもギョッと目を丸くしていたっけ。


 もちろん、彼女はそのままお姉さん組2人にも抱き着いていた。


 話を聞くと、実は遠いながら町からも戦いは見えていたそうで、炎や水が爆発し、氷山が出現する凄まじい戦場に、見物した人々は戦々恐々となっていたらしい。


 だからこそ、僕らの勝利に大歓喜となったとか。


 当日は、そのまま町中総出で祝宴が開かれた。


 ただ、僕の記憶はそこまでで。


 疲れていたのか、祝宴中に眠ってしまったらしい。


 …………。


 次の日、宿屋で目を覚ます。


 起きたのは、もう昼過ぎ。


 3人も気を遣って、僕を起こさなかったみたい。


 それから、色々と話を聞く。


 湖面に浮かんでいた白蛸の死骸は、湖周辺の町の漁師が協力して解体し、素材と魔石を回収、残りはそのまま湖の魚の餌となるそうだ。


 そして、『白蛸の魔石』は討伐者のシュレイラさんに譲渡。


 だけど、


「それが馬鹿でかくてね」


 と、赤毛のお姉さん。


 直径が5メード近い巨大魔石だって。


(それは凄いや)


 僕も驚きだ。


 さすがに持ち運べないので、後日、王都まで冒険者に依頼して輸送するように町長に頼んだって。


 それが正解だと思う。


 シュレイラさん曰く、


「多分、王家に買い取られる」


「うん」


「だから、その買取額の3分の2を、ククリとティアの2人に渡すからね」


「え……?」


 思わず、目を見開く。 


 いや、いやいや……。


 ティアさんはともかく、僕は『魔法の矢』を1回、射ただけだよ?


 なのに、僕にも3分の1って。


 遠慮すると、


「阿呆」


「…………」


「アタシら3人は、それぞれの役割があった。その役割をククリは立派に果たしただろう」


「…………」


「なら、正当な報酬さ」


 赤毛のお姉さんは、断言する。


 ティアさんも頷き、


「あの時、私は危険な状況でした」


「…………」


「ですが、ククリ君の機転に助けられたのです。まさか、空中で白蛸を射抜くなど……本当に感服です」


「ティアさん……」


「さすが、ククリ君ですね」


 と、はにかんだ。 


 その紅い瞳は、少し潤んでいる。


 僕らのやり取りを見ていた見習い商人の少女も言う。


「もらえる物はもらいなよ」


「ポポ」


「ククリもがんばったんでしょ? なら、自分を褒めてあげるためにもさ」


「…………」


「ね?」


「うん、わかった」


 3人の言葉に、僕もようやく頷いた。


 彼女たちも安心したように笑う。


 それに、僕も少しだけ笑ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 で、その初日の夜の話。


(イテテ……)


 脇腹の痛みに、僕は少し表情を歪める。


 気づいたティアさんが、


「どうしました、ククリ君?」


 と、心配そうに聞いてくる。


 その声で他の2人も気づき、僕に視線が集まった。


(わ……)


 注目され、少し気恥ずかしい。


 僕は小さく笑い、


「実は、昨日から脇腹が痛くて。2、3日で収まると思うんだけど……」


 と、告白する。


 あとで、自家製の薬草湿布を貼っとこう。


 と、気楽に考えてたんだけど、


「ふむ、少し診てやるか」


「え?」


「服をあげろ、ククリ」


「え、わ……ちょっと、シュレイラさん!?」


 ガバッ


 強引に、上着をまくられた。


 ポポは「きゃっ」と悲鳴を上げ、赤くなる。


 ティアさんも驚いた表情で、でも、僕の体調優先なのか、赤毛のお姉さんを止めなかった。


 ツンツン サワサワ


 色々、触られる。


 く、くすぐったい。


 そして、やっぱり痛い……。


 あと、3人もの女の人に見られてるのが、すっごく恥ずかしい。


 やがて、診察が終わる。


 赤毛の女医さんが言う。


「肋骨、折れてるぞ」


 って。


(……え?)


 僕は、ポカンとした。


 後ろで見ていた2人も唖然とした表情だ。


 赤毛の女医さんは、困った顔で見解を述べる。


「多分、波で船が揺れた時に、強くぶつけたんだね。肋骨2本にヒビが入ってるよ」


「そうなの……?」


 ただの打撲だと思ってたよ。


 正直、びっくりだ。


 見習い商人の少女は、痛ましげに僕を見る。


 そして、黒髪のお姉さんは顔色を青くして、


「ク、ククリ君!」


 ガバッ


 突然、僕をお姫様抱っこで抱きあげた。


(……へ?)


 驚く間もなく、僕は宿屋のベッドの上に寝かされてしまう。


 え?


 あ、あの、


「ティアさん?」


「大丈夫です、ククリ君」


「え?」


「この私がすぐに痛みを消します。ククリ君の怪我を治しますから。だから、安心してください」


「…………」


 ポカンとする僕に、力説する黒髪のお姉さん。


 他の2人も唖然としている。


 と、ティアさんが僕の上着を、再びめくりあげる。


(わ……っ?)


 少しだけ、青紫に腫れている脇腹。


 彼女は、痛ましげにそれを見つめ、


「失礼します」


 と言うと身を屈め、


 チュッ


 そこに、柔らかな唇を押しつけた。


 …………。


 ほわぁああ!?


(何、何っ!?)


 ティアさん、どうしたの!?


 慌てる僕。


 ポポも顔を真っ赤にしながら、両手で顔を隠し……でも、ちゃっかり指の隙間から覗いている。


 そして、赤毛のお姉さんは、


「おお、回復魔法か」


 と、呟いた。


 え……?


(あ、そ、そっか)


 ティアさん、回復魔法が使えたんだっけ。


 ようやく思い出す僕の肌に、けれど、彼女は真剣な様子で口付けている。


 ……その息を感じる。


 綺麗な黒髪もこぼれ、僕の肌を撫でていく。


 ドキドキ


 鼓動が早くなる。


 そして、


の傷よ、治れ……我が愛しい人を守り給え、月の女神よ」


 ティアさんが祈る。


 同時に、彼女の唇の間から白い光の吐息が溢れ、僕の肌に当たる。


 ヒィィン


 当たった肌が光る。


 優しい、月光みたいな白い光。


 脇腹が、とても温かい。


(あ……痛みが……) 


 ゆっくり消えていく。


 やがて、彼女は唇を離した。


 僕の脇腹にあった青紫色の内出血の跡は消え、綺麗な肌色となっていた。


 見ていたポポが、


「……凄い」


 と、呆然と呟いた。


 赤毛のお姉さんも、何かに納得したように頷く。


 ティアさんも、


「よかった……」


 ホッと息を吐く。


 その表情は、回復魔法の余韻か熱っぽく、どこか色っぽい。


 ドキドキ


 まだ、鼓動が収まらない。


 視線が合う。


 僕の真っ赤な顔に、彼女も気づく。


 途端、


「あ……わ、私」


「……え?」


「な、なんて、はしたないことを……ご、ごめんなさい!」


 彼女の白い美貌も赤くなる。


 少し泣きそうな顔。


 でも、それも可愛くて……。


 僕は慌てて、


「う、ううん、大丈夫!」


「…………」


「もう痛くなくなったよ。本当にありがとう、ティアさん」


 ニコッ


 と、安心させるように微笑んだ。


 彼女も僕を見る。


「……ククリ君」


「うん」


「…………」


「…………」


 お互い、まだ赤味を残した顔のまま、見つめ合う。


 と、彼女はうつむく。


 長く美しい黒髪が表情を隠し、


 キュッ


 でも、恐る恐る伸ばされた白い指が、僕の手を握る。


(……ん)


 僕も微笑み、ティアさんの手を握り返した。


 熱い指と手だ。


 すると、その時、


「ふわぁぁ」


「お前ら、アタシらがいること忘れてないか?」


「!」


(!)


 僕らは、ビクッと手を離す。


 わ、忘れてた。


 水色の髪の少女は赤い顔で目を輝かせ、赤毛の美女は苦笑している。


 僕とティアさんは、再び赤面。


 お互いの顔を窺うように見て、


 クスッ


 やがて目が合うと、小さく笑い合ってしまうのだった。


 …………。


 と、まぁ、そんな1日目だったのである。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そして2日目、つまり今日だ。


 昨日は、町の人みんな、白蛸の解体作業で忙しかったらしい。


 けれど、今日は違う。


 そう、窓の外、湖にたくさんの船が出ている景色が示すように、今日から休業していた漁業が再開したのである。


(……うん)


 通りを歩く人々の表情も明るい。


 漁は、早朝から。


 赤毛のお姉さんは、


「そろそろ、第1陣の漁船たちが戻ってくる時間だね」 


 と、口にした。


 僕は「うん」と頷く。


 戻った漁船には、きっと目的の『虹煌魚』も積まれているはずだ。 


(楽しみだなぁ)


 少しワクワクする。


 僕の表情に、隣のティアさんも微笑み、


「どんな見た目と味の魚なのか、私も楽しみです」


「そっか」 


 僕も笑う。


 見習い商人の少女は、


「よし! じゃあ、私、買い付けに行ってくるわね」


 ピョン


 座っていたベッドから立ち上がる。


 そして、少女は赤毛のお姉さんを振り返り、声をかける。


「炎姫様」


「ん?」


「買い付け、一緒に行きませんか?」


「アタシもかい?」


「はい。きっと、炎姫様が食べる分って言えば、漁師の人もいい魚を安く売ってくれると思うんで」


 と、片目を閉じる。


 シュレイラさんは、少し驚いた顔。


 すぐに笑い、


「あはは。なるほど、そうかい」


「駄目ですか?」


「いや、いいさ。全く、商魂逞しいね。このアタシをダシにするなんて、お前さん、いい商人になるよ」


「えへへ、やった」


 ポポも嬉しそうに笑う。


 2人は僕らを見て、


「じゃ、行ってくるよ」


「薬草少年は、料理の準備しておいてね」


「あ、うん」


 笑顔での言葉に、思わず頷く。


 2人も満足そうに笑い、「よし、行くか」「はい」と部屋の扉を開け出ていった。


 …………。


 残された僕らは、顔を見合わせる。


 そして、苦笑した。


(やれやれ)


 早速、料理させる気ですか。


 でも、僕も食べたいし、まぁ、いいけどね。


 僕は頷き、


「宿の調理場、借りれるようお願いしなきゃ」 


「はい」


「美味しく作れるかな」


「ふふっ、ククリ君なら大丈夫ですよ。私も手伝います」


「ありがとう、ティアさん」


「いいえ」


 黒髪のお姉さんと笑い合う。


 そして、僕らも部屋を出る。


 宿の人に頼むと、白蛸を討った炎姫様の弟子として快く調理場の使用を許可してもらえた。


 また宿の料理人に、調理法を聞く。


 ふむふむ……。


 …………。


 そんなこんなで、約40分後。


 見習い商人の少女と赤毛の美女が、1尾の虹色の輝く魚を手に宿へと戻ったんだ。

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