表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/97

059・村に来た冒険者

 やがて、光が見えた。


(ああ……出口だ)


 安堵と共に、僕らは坑道の外に出る。


 太陽の明るさが暗闇に慣れた目には眩しくて、少々、瞳を細めてしまう。


 ティアさんも、隣で息を吐く。


「出られましたね」


「うん」


 僕も頷く。


 そして、2人で後ろを振り返る。


 廃坑の入り口。


 土砂が流れ込んだ穴は、今も大きく口を開け、奥の闇を覗かせている。


 それを見つめ、僕は呟く。


「入り口、塞げないかな」


「え?」


「冒険者が来てくれるまで、中の何かを閉じ込めておきたくて」


「ああ、なるほど」


 納得するティアさん。


 僕は考える。


(いい方法、ないかな) 


 近くの木を倒すとか、難しいけどやってみようかな……?


 そう思っていると、


「私がやりましょう」


「え?」


「しばらく、この穴を塞いでおけば良いのですよね」


「あ、うん」


「では……」


 ガシャン


 黒髪のお姉さんは『氷雪の魔法大剣』を前方に構える。


 紅い瞳を閉じ、息を吐く。


 剣の魔法石が光り、


 ヒュオッ


 途端、周囲に冷気が広がった。


「はっ」


 彼女は、青白い大剣を横薙ぎに振るう。 


 ボヒュウ


 瞬間、魔法の氷雪が放射状に吹き荒れ、坑道の穴のある崖にぶつかった。


(う、わ……)


 見る間に、崖が凍りつく。


 透明な氷が形成され、坑道の入り口を塞いでしまう。


 陽光が白く反射する。


 彼女は「ふぅ」と息を吐く。


 僕を見て、


「これで、どうでしょう?」


 と、微笑んだ。


 どうって……うん、


「大丈夫だと思う」


「そうですか」


 僕の答えに、彼女は嬉しそうだ。 


 僕は氷に近づき、


 コン コン


 軽く叩くと、硬く澄んだ音が響く。


 厚さは、多分、1~2メードはありそう。


 入り口部分は、更に氷が詰まっていて、その3倍はありそうだった。


(こんなの、並大抵の魔物じゃ砕けないよ)


 しかも、魔法の氷。


 普通の氷のように、簡単には溶けない。


 ほんの数秒。


 それだけで、これほどの魔法現象を引き起こすなんて……。


 僕は言う。


「ティアさん、凄いね」


「ふふっ」


 彼女は、くすぐったそうにはにかむ。


 僕を見つめ、


「ククリ君のお役に立てたのなら何よりです」


 と、紅い瞳を細めた。


(うん、凄く助かってます)


 僕も笑ってしまう。 


 とりあえず、封鎖はできた。 


 僕らはもう1度、その氷漬けの廃坑を見る。


 ……うん。


 きっと中の何かは出てこれないと信じて、村への報告のため、僕らは帰り道を急いだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夕方、村に着いた僕らは、村長の家を訪問する。


 報告を聞いた村長は、


「ほうか……廃坑の中さ、やはり魔物が入ってたかぁ」


 と、嘆息する。


 ……気持ちはわかる。


 僕とティアさんも、何とも言えない表情だ。


 村長は、腕組みして考え込む。


 やがて頷き、


「ま、早く気づけたんは、不幸中の幸いだぁ」


「うん……」


「はい」


「2人とも、今回は危険なこと頼んですまんかったの。ありがとぉな」


「ううん」


「これぐらい平気ですよ」


「ほうか」


 ティアさんの返事に、村長もようやく笑った。


 僕らも微笑む。


 それから村長は、


「ククリたちの言う通り、冒険者に依頼を出すかの。さすがに素人には荷が重そうじゃ」


「うん、その方がいいよ」


「はい」


「ま、1ヶ月以内に解決できればええかの」


 1ヶ月……か。


 依頼を出すために、冒険者ギルドのある王都まで、早馬でも約5日。


 その後、依頼が受注されるまで、何日かかるか……。


 そして、冒険者が村に来るまでの日数。


 広い坑道内の探索日数。


 合計したら、


(確かに1ヶ月ぐらいかかるかなぁ)


 と、僕も思った。


 でも、廃坑は封鎖してあるし、村に危険もないはず。


 ここは、気長にやるしかない。


 それに、今年は出稼ぎで村の財政にも余裕があるし、ここはプロの冒険者にお任せした方がやはりいいと思う。


 そんな風に、話はまとまる。


 そして、僕らは村長宅をあとにしたんだ。


 …………。


 我が家への帰り道で、


「どんな冒険者が来るのでしょうね?」


 と、黒髪のお姉さんが呟いた。


 村の用心棒。


 その自分に代わり、村の安全を任せるのだから気になるのかな。


 僕は考え、


「仮に、赤猿を倒せる冒険者を求めるなら、多分、第7級が3人からかなぁ」


「7級3人、ですか」


「うん」


「…………」


「ま、実際は、ギルドが難易度を判断するから、誰が来るかわからないけどね」


「そうですか」


「うん」


「確かな腕の冒険者が来てくれるといいですね」


「うん、そうだね」


 その通りだと、僕も頷いた。


 やがて、家に着く。


 その日は、夕食を食べ、就寝する。


 翌日からは何事もなかったように、僕らは山に入り薬草採取の日々を続けたんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 7日が経過した。


 あれから3日に1度、僕らは廃坑を訪れている。


 理由は『氷壁』の確認だ。


 もし氷に何かあれば、大変だ。


 なので本日も、片道5時間かけて、僕とティアさんは氷漬けの廃坑前にやって来ていた。


 陽光に煌めく氷壁。


 目視で確認し、


(ん、特に問題なし)


 氷が溶けたり、ひび割れたり、中から破壊しようとした痕跡もない。


 さすが、魔法の氷だ。


 ティアさんも、


「大丈夫そうですね」


「うん」


「感覚的には、破壊されない限り、永遠に凍り続けていると思いますが……」


「そうなの?」


「多分ですが、はい」


 驚く僕に、彼女は微笑む。


 本当なら、凄い。


 これも、元勇者様の魔法だから?


 よくわからない。


 でも、ティアさんが言うと、本当にそうなんだろうという説得力を感じる。


 ただ、


(廃坑の中に何がいるかわからないし……)


 やはり、確認は必要だろう。


 でも、村から遠い分、移動に時間がかかる。


 その日は、薬草集めもほぼできないから、3日に1度だけになるんだけど……。


(ま、そこは仕方ないよね)


 割り切りも大事だ。  


 僕は頷き、


「今日も問題ないし、帰ろっか」


「はい、ククリ君」


 彼女も頷く。


 そして僕らは、村に向かう。


 しばらくの間、そんな日々が続いたんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 更に5日が経過した。


 今日の僕らは、村周辺の山々で薬草を集めた。


「今日は、たくさん採れたね」


「はい、本当に」


 春も本番。


 気温の上昇に伴い、薬草の収穫量も増えている。


 背負うリュックの重さに、僕とティアさんは笑い合いながら下山する。


 やがて、村が見えてくる。


(ん……?)


 村の広場に、大勢の村人が集まっている。


 何だろう?


 ザワザワ


 村の皆のざわめきが聞こえる。 


「何かあったのでしょうか?」


 長い黒髪を揺らして、ティアさんも小首をかしげる。


 僕も「うん……」と曖昧に頷く。


 やがて、村に到着。


 僕は、近くにいた村人に声をかけた。


「ね、どうしたの?」


「ああ、ククリか。おかえり」


「うん、ただいま。――何かあったの?」


「ああ、いや、実はよ。たった今、依頼を受けた冒険者が村に来てくれてな」


「え……冒険者が?」


 もう?


 僕らは驚く。


 確かに廃坑の件を報告をした翌日に、村長は、冒険者ギルドへ依頼の早馬を出していた。


 でも、まだ12日目だ。


 冒険者が来るには、あまりに早い。


 想定だと、20~25日はかかる予定だった。


 なのに、


(ずいぶん早過ぎない……?)


 僕も少々困惑だ。


 黒髪のお姉さんも少し驚いた表情である。


 けど、先に立ち直り、


「どんな冒険者が来てくれたのですか?」


 と、聞く。


(あ、うん)


 僕も、我に返る。


 村人が笑いながら、


「それがよ、とんでもねえ人が来てくれたんだべ」


「とんでもねえ人……?」


「ですか?」


「んだ。あ……見ろ、あの人だ」


 と、前方を指差す。


 僕らも視線を向ける。


 視線の先には、村人の人垣ができている。


 そして、その人垣の向こう側で、村長ともう1人(・・)……赤い槍を持った『赤毛の美女』が話していた。


 …………。


 …………。


 ……え?


 僕は、ポカンだ。


 ティアさんも、目と口を丸く開けている。


 見間違うはずもない。


 炎みたいな独特の形状の穂先の槍。


 結ばれた長い赤毛の髪。


 真っ赤な鎧。


 左目に眼帯をした、隻眼の金色の瞳……それが今、こちらを向き、僕らの存在に気づく。


 その美貌が、明るく笑う。


 軽く手を上げ、


「おう、ティア、ククリ! 今回の依頼、アタシが引き受けてやったぞ」


 と、言った。


 村人たちは、興奮し、喜んでいる。


 でも、僕らは呆然。


(……ああ、そうか)


 あの人なら空飛べるもんね。


 そりゃ、日数の計算が合わない訳だ。


 僕は、ようやく納得する。


 だけど……まさか、ね。


(……うん)


 まさか、炎龍殺しの王国の英雄が。


 あのシュレイラさんが直々に、王国の端にある僕らの村まで来てくれるなんて、さすがに想定外だったよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ