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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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042・隠蔽

 10日目の朝となった。


(ん……)


 テント内で、僕は目を覚ます。


 外を見ると、昨日と違い、今日は快晴の青空だった。


 うん、気持ちがいい。


 隣を見ると、ティアさんが眠っている。


「すぅ……すぅ……」


 規則正しい寝息で、綺麗な黒髪が頬にこぼれ、テントの床に広がっている。


 その寝顔も美人さんだね。 


 僕はほっこり、微笑む。


 音を立てないようにして、テントの外へ。


「んん~っ」 


 両腕を広げ、伸びをする。


 昨日痛めた足は、労災として支給された回復ポーションで即日、治ってしまった。


 魔法薬は、やっぱり凄い。


 薬草もいいけど……即効性はやはり負けちゃうね。


 ま、その分、お高いんだけど。


 …………。


 ……でも、昨日、か。


 足首を見ながら、思い出す。


 調査隊として森の奥に行き、氷雪の巨人に遭遇した。 


 恐ろしい氷魔法を使ってきて、あのシュレイラ・バルムントでさえ手こずる相手だった。


 なのに、


(ティアさん……倒しちゃったね)


 あれには、びっくり。


 調査隊の皆も驚いていたっけ。


 本部のある野営地に戻った時に、


「すまないが、今日の出来事は、本部からの正式発表があるまで全員、他言無用だよ」


 と、赤毛のお姉さんが釘を刺した。


 特に僕に、


「下手すると、面倒事になる。ティアのためにも、わかったね?」


「あ、うん……わかった」


「よし、いい子だ」


「わっ?」 


 クシャクシャ


 と、乱暴に頭を撫でられた。


 ちなみにこの時も、ティアさんは魔力切れで熟睡中である。


 そのあと、調査隊は解散。


 シュレイラさんと王国騎士2人が報告のため本部に向かい、残された僕らは別れの挨拶をし、皆、自分たちの天幕などに戻った。


 僕らも、出稼ぎ組の天幕に戻る。


 眠っているティアさんは、王国兵の方が運んでくれた。


 天幕では、村のみんなに、


「おお、おかえり、2人とも」


「どうだった?」


「調査、何かわかったんか?」


「ん、ティアはどうかしたのけ?」


「ククリも、大丈夫か?」


「なんや疲れてるんなら、話はあとだべ」


「んだんだ」


「ほれ、今日はもう眠れ」


「話は明日、聞いたるけの」


「ん~、ありがと」


 皆の厚意に感謝して、僕らは即、テントで就寝。


 疲労もあって、すぐに眠ってしまった。


 で、今朝である。


 周囲を見ると、皆、朝餉の用意をしている。


 同時に、荷物の整理や天幕の回収など、撤収準備をしている人も多かった。


(あぁ、そっか)


 昨日で、雪羽虫の駆除は終わり。


 氷雪の巨人も倒したし、今日で全員、王都に帰ることが決定したのだろう。


 ん~、長い10日間だったなぁ。


 何だか、感慨深い。


 と、その時、


 ガサッ


(ん?)


 背後の物音に振り返る。


 すると、ちょうどテントから出ようとしているティアさんの姿があった。


 あ、起きたんだ。


 でも、まだ少し眠そうかな?


 寝起きの感じ。


 彼女は、長い黒髪を押さえながら、


「あ、ククリ君」


 と、僕を見つける。


 その美貌が、安心したように微笑む。


 僕も笑った。


「おはよう、ティアさん」


「はい、おはようございます」


「うん」


「あの……私、いつの間にテントに戻ったのでしょう? その、昨日のこと、途中からあまり記憶がなくて……」


「あ~、うん。そうだよね」


 僕は頷く。


 そして、昨日のことを彼女にも説明する。


 黒髪のお姉さんは「まぁ」と驚き、少し恥ずかしそうに笑う。


「では、私、ずっと眠っていたんですね」


「うん、だね」


 僕も微笑んだ。


 クスクス


 2人で笑い合う。


 そして、ティアさんは、


「昨日は、大変でしたね」


「うん」


 しみじみした彼女の言葉に、僕も頷く。


 氷雪の巨人に、雪羽虫の大群……そして、凄まじいティアさんの『魔刃』の威力。


 どれも、印象深い。


(…………)


 ティアさんの強さは、何なんだろう?


 聞いてもいいのかな?


 でも、記憶がないなら、わからないか……。


 少し迷う。


 見つめる僕に、


「?」


 と、彼女は微笑んだまま、首をかしげる。


 その長く綺麗な黒髪が、サラリと肩からこぼれる。


 その時、


「なぁ、知ってるか?」


「ん?」


「昨日、調査隊の連中、氷雪の巨人に遭遇したんだと」


「氷雪の巨人!? マジか!」


 と、僕らの後ろを、2人組の冒険者が通りかかり、その会話が聞こえた。


(お……?)


 僕は、耳を澄ます。


「マジだよ。一昨日、森の奥に行った連中は、皆、やられたらしい」


「うわぁ……」


「雪羽虫が大発生したのも、奴の魔力の影響だったらしいぞ。そう本部から正式発表があったわ」


「マジかぁ」


「ああ、マジだよ。――んでな」


「おう?」


「その氷雪の巨人、あの『炎姫』様が倒したらしいぜ」


「おお、姐御がか!」


「おうよ。さすが、我らの姐さんだぜ」


「かぁ……本当、この国に姐御がいてくれてよかったぜ」


「だなぁ」


 2人は、そのまま通り過ぎていく。


 ……ふぅん。


(シュレイラさんが倒したことになってるのか)


 少し驚く。


 本当は倒したのは、ティアさん。


 だけど、その事実は秘密にされたみたい。


 あの赤毛のお姉さんの性格だと、手柄を奪う、なんてことはしないと思う。


 だから、


(ティアさんを守るため、かな)


 と、感じた。


 氷雪の巨人を倒せるなんて、結構、凄いこと。


 良くも悪くも、その影響は大きい。


 そして今回は、悪い影響の方が大きいと判断して、ティアさんのことを隠したのだろう。


 彼女を守るために。 


 チラッ


 僕は、隣のお姉さんを見る。


 理由はどうあれ、成果を隠されたのは事実。


 彼女は、どう感じているだろう? 


 その黒髪のお姉さんは、


「どうやら、彼女が倒したことにされたみたいですね」


 と、頷いた。


 ……気にしてないの?


 僕の視線に、


「ククリ君?」


「あ、えっと、いいの? ティアさんはそれで」


「はい」


「…………」


「私は、ククリ君さえ守れたなら、それだけで満足ですから」


 と、微笑んだ。


 曇りのない笑顔。


(ティアさん……)


 何だか、胸が熱くなってしまう。


 僕の表情に気づいて、彼女も少し恥ずかしそうに笑った。


 お互い、照れた感じ。


 と、その時、


 ザワッ


 周囲がざわめいた。


(ん?)


 視線をあげると、


「あ」


「おや?」


 話題に上っていた赤毛のお姉さんが、こちらに歩いて来ていた。


 彼女は、片手をあげ、


「よう、ティア、ククリ、おはようさん」


 と、白い歯を見せた。


 朝から眩しい笑顔だ。


 驚きつつ、僕らも「おはよう」「おはようございます」と返す。


 シュレイラさんは頷く。


 それから、


「足の調子はどうだい、ククリ」


「うん、大丈夫」


「そうかい。ティアも……もう平気そうだね」


「おかげ様で」


「ああ、よかったよ」


「ん」


「どうも」


 僕らも頷く。


 そして、黒髪のお姉さんが聞く。


「それで、何か用ですか?」


「ああ。ま、正式発表の件で、詫びを入れておきたくてね」


「ああ……」


「すまなかったね」


「別に構いませんよ」


「……いいのかい?」


「必要なことだったのでしょう?」


「まあね」


「なら、いいです。ククリ君も気にしていませんし」


 言われて、


「うん」


 と、僕も頷いた。


 赤毛のお姉さんは、そんな僕らに微笑む。


「そうかい」


 少し安心した顔だ。


 それから彼女は、周囲を見る。


 周りには何人か、僕らの会話に聞き耳を立てている人もいた。


 彼女は、僕らを見て、


「場所を変えようか」


「うん?」


「…………」


「昨日のあれこれについて、確認したいこともあってね。3人だけで話したいのさ」


「あ、うん」


「構いませんが」


 僕らは頷いた。


 赤毛のお姉さんも、


「よし、じゃあ行こうか」


 と、歩きだす。


 その声には、少しだけ重い真剣さがあった。


(…………)


 その背中を、しばし見つめる。


 そして、僕とティアさんは視線を交わし、先を行く赤毛の美女を追いかけたんだ。

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