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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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041・魔刃一閃

(……あれ?)


 覚悟した痛みや衝撃は、いつまで待っても来なかった。


 僕は、青い目を開く。


 生きて、る……?


 無事な自分に驚きながら、両手を見る。


 そして、周囲には、砕けた氷塊の残骸が散らばり、バラバラと落ちてきていた。


 顔をあげる。


(え……?)


 視線の先には、白く輝く長剣を振り抜いた姿勢で、黒髪のお姉さんが立っていた。



 ―――その黒い前髪の間から覗く額には、紅い紋様が光り輝いている。



 神々しい光。


 紅い瞳も爛々と輝き、艶やかな黒髪も揺らめいている。


 もはや、人外の気配。


 皆も驚愕したように、彼女を見ている。


(ティア……さん?)


 僕も呆然と、そんな彼女の姿を見つめてしまった。


 ヒィィン


 額の紅い紋様が、美しく輝く。


 無事な僕に、


「よかった、ククリ君……」


 と、彼女は呟く。 


 その手の長剣は、白く光っている。


 僕は、彼女の放った『魔刃』が氷塊を斬り裂き、破壊してくれたのだと悟る。


 ティアさん……。


 見つめる先で、


 ニコッ


 彼女は微笑む。


 そして、黒髪の美女は、ゆっくり後ろを振り返った。


 視線の先には、氷雪の巨人と炎の天使が激しい戦いを繰り広げている光景があった。


 冷気と熱波が荒れ狂う。


 その余波が、ティアさんの黒髪を揺らす。


 スッ


 紅く輝く瞳が細まった。


「ククリ君を危険に晒すとは、あの女……」


 低く呟く。


 同時に、


 カシャン


 両手に握った光る長剣を下段に構える。 


 表情が消える。


 元々が美しい顔だからこそ、余計に神々しく、人を超越して見えて……。


 ヒィィン


 紅い紋様が輝きを増す。


 長剣の放つ光が眩く、僕と調査隊の皆を照らす。


 次の瞬間、



「――はっ」



 彼女は、下段から美しく剣を振り上げた。


 リィン


 白い光の剣閃が空間を走る。


 神々しい白刃の輝きは、途上の森の木々を切断し、雪羽虫の群れを斬り裂きながら、遠い『氷雪の巨人』に命中した。


 音もなく、


(あ……)


 巨人の上半身が、斜めにずれた。


 遅れて、紫色の血が噴き出す。


 ずれた上半身は地面に落ち、盛大な雪煙が舞い上がった。


 ズズゥン


 遅れて、地響きが届く。 


 残った下半身も、ゆっくりと倒れる。


 雪煙が、また舞う。


 …………。


 遥か遠方にいる炎の天使は、驚きの表情だった。


 そして、こちらを見る。


 氷雪の巨人を倒した黒髪の美女は、静かに長剣を下ろした。


 剣の白い光が消えていく。


「…………」


 僕は、言葉もない。


 いや、その場の全員が動けなかった。


 そんな中、


「ふぅ……」


 彼女は、息を吐いた。


 熱そうな息だ。


 見れば、ティアさんはこの寒さだというのに、その額に大量の汗を滲ませている。


 と、その時、


 ヒィン


 額の紅い紋様が消える。  


 途端、操り人形の糸が切れたように、彼女のバランスが崩れた。


 あ……。


「ティアさん!」


 僕は、足の痛みも忘れて走った。


 飛びつくように彼女を支え、


 ズキン


(ぐっ)


 足首の激痛に耐え切れず、尻もちをつく。 


 腕の中に、彼女がいる。


 長く綺麗な黒髪は汗に湿り、触れる白い肌は驚くほどに熱い。


 その頬は、赤く上気している。


 まるで、熱病に侵されているみたいで……でも、その儚い姿は妖しく美しかった。


「ティアさん」


 僕は、その名を呼ぶ。


 彼女は、かすかに首を動かす。


 潤んだ紅い瞳が、僕を見た。


 汗に濡れた美貌が、優しく綻ぶ。


 その唇が、


「これでもう……危険はありませんよ、ククリ君……」


 と、言葉を紡いだ。


 そのまま目を閉じ、僕に頭を預ける。


(…………)


 ギュッ


 僕は、そのお姉さんの頭を長い黒髪ごと強く抱きしめたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 調査隊の人たちは、僕らを遠巻きに見ていた。


 誰も声をかけてこない。


 その時、僕らの上空から赤い輝きが降ってくる。


 見上げると、


 ボパァン


 真っ赤な炎の翼を羽ばたかせながら、『炎龍の槍』に立つシュレイラさんがこちらに降下して来ていた。


 周囲の雪羽虫が、次々と燃えていく。


 彼女は、約3メードほどの高さから飛び降り、地面に着地。


 炎の翼が消え、落ちてきた槍をキャッチする。


 ボヒュッ


 周囲には火の粉が舞い、静かに消える。


「……ぁ」


 調査隊の誰かが呟いた。


 でも、それ以上、言葉が続かない。


 シュレイラさんは静かな表情で、けれど、だからこそ圧迫感のある雰囲気だった。


 いつもの明るさがない。


 金色の隻眼は、ゆっくりと周囲を見回した。


 そして、


「…………」


 僕と、僕の腕の中の黒髪の美女で止まる。


 今のティアさんは、魔力切れの症状を起こして、半分眠っているような状態だった。 


(…………)


 キュッ


 無意識に、彼女を抱く僕の腕に力が入る。


 赤毛の長い髪が、吹く風に横になびく。


 彼女の唇が開き、



「――今のは、ティアの仕業かい?」



 と、静かな声で問う。


 調査隊の皆は、誰も答えない。 


 だから僕が、


 コクン


 代わりに頷いた。


 数秒間、赤毛の美女は僕ら2人を見つめた。


 僕も黙ったまま、その独眼の金色の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。


 やがて、彼女は小さく笑う。


 息を吐き、


「そうかい」


 と、呟いた。


 僕らに近づき、


 ポン ポン


 その白い手が、僕の頭を2度、軽く叩く。


(……ぁ)


 重苦しかった彼女の雰囲気が、いつもの明るく、大らかなものに戻っていた。


 調査隊の人たちも、知らずホッと息を吐く。


 彼女は、周囲を見る。


 僕らの周りに森の木々には、まだ数百万の白い綿毛が集まっていた。 


 ガシャッ


 赤毛の美女は『炎龍の槍』を構える。


 再び、穂先から炎が噴き出し、周囲を赤く照らした。


 前を見ながら、


「みんな、よく耐えたね。あとは任せな」


 彼女は言った。


 次の瞬間、


 ボパァアアン


 振り抜かれた炎龍の槍から、凄まじい炎の輪が僕らを中心に360度、全方向に広がった。


 見える世界が全て、炎に包まれる。


(!)


 その熱波に、僕は硬直。


 真っ赤な炎は、雪羽虫の群れを焼き払う。


 長いような短いような時間が過ぎ、やがて、恐ろしい魔法の炎は消えた。


 動く白い綿毛は、1匹もいない。


 代わりに、黒焦げの何かが大量に、地面の上に積もっていた。


「……すげぇ」


 調査隊の誰かが呟いた。


 僕も同感だ。


 言葉が出ない。


 赤毛のお姉さんは、さすがに疲れたのか、槍を支えに大きく息を吐いた。 


 僕らを振り返り、


「さっ、帰るよ」


 と、笑った。


 その明るい笑顔に、ようやく死地は去ったのだと、皆が感じた。


 僕も笑顔で、


「――うん」


 と、大きく頷いた。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、僕らは帰路を辿る。


 足を挫いた僕、意識のないティアさんと第5級の魔法使い――動けない3人は、調査隊の仲間に背負われることになった。


 僕は、一般兵の人の背に。


 魔法使いの人は、仲間の冒険者に。


 そして黒髪のお姉さんは、赤毛の美女の背中に負われていた。


 揺られながら、隣を見る。


「すぅ……すぅ……」


 穏やかな寝顔。


 その様子に、僕は安心する。


 と、その時、


「まさか、世界中の探し人(・・・)がこんな場所にいるなんてねぇ。さて、どうしたものか……?」


 赤毛のお姉さんが呟いた。


 どうやら、独り言。


 だけど、悩ましそうな声だった。


(???)


 何のことだろう?


 僕は、小さく首をかしげる。


 赤毛のお姉さんは、自分の肩越しに、眠るティアさんの顔を見て……ふと、隣の僕と目が合った。


 彼女は、苦笑する。


「ま、何とかするよ」


「? うん」


 意味もわからないまま、言われた僕は頷いた。


 その時、ふと光が降ってきた。


 見上げると、曇天の冬空の雲の切れ目から太陽が見えていた。


 木々の隙間に、光が差し込む。


 その1つが、眠れる黒髪の美女を照らす。


(……うん)


 僕は、自然と微笑む。 


 …………。


 数時間後、僕ら調査隊13名は凍てつく冬の森を抜け、安全な合同本部への帰還を果たした。

ご覧頂き、ありがとうございました。



いつも、こうして『女勇者を拾った村人の少年』を読んで下さって、皆さんには本当に感謝です♪



実は、今後の更新についてなのですが、現在の執筆速度とストックを考えて、次回からは週3回、月、水、金の更新とする事にしました。


毎日の楽しみにして下さっている方には申し訳ありません。


これからも無理なく、楽しみながら執筆していくためにも、どうかお許し下さいね。


次回は、2月12日(水)に更新予定です。


週3回更新となりますが、もしよかったら、皆さん、今後ともククリとティアの物語をどうぞよろしくお願いします♪

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― 新着の感想 ―
やったぜティアさん! さすが! そして…ついにバレてしまいましたね! それはそれで楽しみです!
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