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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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040・遅滞戦闘

 雪羽虫の群れに対し、僕らは陣形を組む。


 ここにいるのは、王国騎士2人、一般兵6人、第3級冒険者と第5級冒険者1人ずつ、あと僕とティアさんの計12人だ。


 第5級の人は、魔法使い。


 一般兵の2人も、弓を持っている。


 その3人と僕を守るように、残りの8人が半円状に前に立つ。


「来るぞ!」


 王国騎士が叫んだ。


 直後、


 バシュッ


 僕は、雪羽虫に矢を放った。


 1体に命中し、白い綿毛が弾けていく。


 それを皮切りに、他の3人も矢と魔法の光の矢を撃ちだした。


 ドシュッ ヒュパァン


 雪羽虫が吹き飛ぶ。


 僕も、連続で矢を射続ける。 


(……っ)


 腕が痛い。


 昨日までの疲労が、まだ抜けきっていないのだ。


 鎮痛の薬草飴を、


 パクッ


 口に放り込む。


 バキバキと歯で噛みながら、短弓の弦を引く。


(――集中)


 自分に言い聞かせ、


 バシュッ


 また矢を放った。


 シュレイラさんの人選らしく、他の3人も優秀で、全員、狙いを外さない。


 雪羽虫は、次々と落ちていく。


 けど、数は減らない。


 白い綿毛は、僕らの方に殺到してくる。


「接敵用意!」


 王国騎士の1人が警告を発し、剣を構えた。


 他の7人も同様に。


 黒髪のお姉さんも、


「ククリ君は、私が守ります」


 宣言しながら、手にした長剣を正眼に構えている。


 そして、


 ブブブブブッ


 激しい羽音と共に、雪崩のような白い綿毛の群れが押し寄せてきた。


 8人が剣を振る。


 全員、腕が立つ。


 雪羽虫の群れは、あっという間に斬られ続け、白い綿毛が地面に落ちていく。


 白い奔流が切り裂かれる。


(凄い……)


 僕らの方には、1匹も来ない。


 僕は安心し、剣の間合いの外である上空の白い綿毛を重点的に狙っていく。


 バシュッ バシュッ


 何匹も落ちる。


 前衛が守り、後衛が倒す。


 その戦い方で、今の所は安定している。


 だけど、


(……矢が足りない、かな)


 頭の冷静な部分が、そう指摘する。

 

 僕の所持する矢は、矢筒の20本。


 更に、ティアさんが持ってくれていた予備の矢が60本。


 合計80本のみだ。 


 王国の兵士さんも、1人約100本。


 2人で、計200本。


 第5級冒険者の魔法使いも、魔力は無尽蔵ではない。


 チラッ


 見れば、


(……顔色が白い)


 魔力欠乏の初期症状だ。


 対して雪羽虫の数は、最低でも推定1000万匹はいるだろう。


 ……うん。


(全然、足りない)


 矢も、魔力も。


 我慢比べと言ったけど、かなり厳しい状況である。


 視線を上げる。


 森の木々の向こうでは、


 ドドォン ボパァアン


 吹雪と炎が荒れ狂い、氷雪の巨人と炎の天使の人外の戦いが続いていた。


 決着は……まだつかない。


 いや、


(今は考えるな)


 目の前の事だけに集中だ。


 ……でないと、心が先に負けてしまう。


 僕は、無心に矢を放つ。


 ティアさんも懸命に長剣を振るい、僕の元まで雪羽虫が届かないようにしてくれてる。


 他の前衛7人も、同様だ。


 休む間もなく、白い魔物の群れを斬り続けた。


 …………。


 彼らの体力も、限界がある。


 今の安定が崩れる前に、


(シュレイラさん、お願い)


 そう願いながら、


 バシュッ


 僕は、また1本、残り少ない矢を放った。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 戦局の崩れは、唐突に起きた。


「く……っ」


 ドサッ


 第5級冒険者の魔法使いが、突然、倒れた。


 顔色は血の気がなく、意識もない。


(魔力切れ……!)


 限界を超えて魔法を使い続けたため、脳の方が耐え切れず、意識が落ちたんだ。


 支援放火が減る。


 その分が、前衛に襲いかかり、


「ぐわっ」


「ひっ!?」


 一般兵2人が、雪羽虫の群れに殺到された。


 ガキキッ


 鎧が噛まれる。


 金属の擦れる嫌な音が響き、慌てて、第3級冒険者が彼らの羽虫を叩き落した。


 幸い、2人は無事だ。


 けど、出血がある。


 特にまずいのが、表情だ。


 死の恐怖を感じて、戦意が揺らいでしまっている。


 ああ……動きが鈍い。


 その分の負担が、益々周りにかかっていく。


 と、その時、


(痛……っ)


 僕の頬に、飛来した雪羽虫の牙が掠った。


 負担が増えた分、ティアさんも僕を守る手数が足りなくなったのだ。


 頬に少量、血が垂れる。


「ク、ククリ君!」


 お姉さんの焦った声。


 僕は「大丈夫!」と返す。


 けど、僕以外の後衛2人にも、雪羽虫が何度か噛みつく。  


 そして、また支援が減る。 


 まさに、悪循環だ。


 必死に踏ん張る第3級冒険者が、


「おい、撤退した方が良くないか!?」


 と、叫んだ。


 剣を振りながら、


「このままじゃ、ジリ貧だ! 姐さんの邪魔にもなるし、本部まで引くべきじゃねえか!?」


「ぬう……」


「しかし……」


 王国騎士2人が迷いの声を出す。


 心が揺れたのがわかる。 


 だから、焦った僕は、


「駄目だよ!」


 と、叫んだ。


 皆、僕を見る。


 僕は矢を射ながら、


「僕らが引いたら、雪羽虫は一気に移動する! 下手したら、伝令の2人に追いつくよ! そうしたら、2人は確実に死ぬ」


「…………」


「もし氷雪の巨人にシュレイラさんが負けたら、何も知らない本部は壊滅だ。最悪、王都も陥落する!」


「…………」


「だから、絶対に引いちゃ駄目っ!」


 と、もう1度、伝えた。


 シュレイラさんだって、氷雪の巨人相手で精一杯の状況なんだ。


 その上、雪羽虫の対処までできやしない。


 そう、


(僕らしかいないんだ)


 この雪羽虫の群れを、少しでも足止めできるのは……。


 僕の言葉に、全員、沈黙する。


 すぐに、


「くそったれ!」


 第3級冒険者の彼は、剣を振るった。


 引く動きは見せない。


 王国騎士たちも、


「少年の言う通りだ」


「命に代えても、為さねばならん……か」


 と、頷いた。


 他の兵士たちも、悲壮な覚悟を決めた表情だ。


 それぞれ必死に剣を振り、矢を放つ。


 と、その時、


「皆、伏せて!」


 突然、黒髪のお姉さんが叫んだ。


(えっ?)


 理解が追いつかない。


 ただ、その切迫した声に押されて、慌ててしゃがんだ。


 直後、頭上を掠めて、


 ドゴォン


(おわっ!?)


「ぐっ」


「きゃあ!?」


 僕らのすぐそばの地面に、巨大な氷塊が突き刺さった。


 大量の土が弾け、氷の破片が散る。


 僕の近くにいた一般兵の弓使いの2人は、衝撃で吹き飛ばされていた。


(何だ、これ!?)


 氷塊の大きさは、2メード近い。


 飛来した方向を見る。


 離れた森に立つ氷雪の巨人の周囲に、何本もの巨大な『氷の槍』が浮かんでいた。


 それは、飛翔する炎の天使へと射出され、


 ボォン ボパァン


 赤毛の彼女も無数の『炎の砲弾』を放ち、それらを相殺する。


 炎が散り、氷が砕ける。


 煌めく氷の破片が、僕らの方に落ちてくる。


(うわっ)


 ドン ドドォン


 さっきと同じような大きさの氷塊が、地面に突き刺さった。

 

 衝撃が広がる。


 よく見れば、散った炎や氷の破片で、雪羽虫の群れも被害を受けているようだった。



 ――なんて戦いだ。


 

 戦いの余波が、ここまで来てる。


 ティアさんの警告がなければ、もう少しで巻き込まれる所だった。


 その事実に、僕は青褪める。


 キッ


 黒髪のお姉さんは、人外の戦場を睨む。


「何をやっているのですか、あの女は! もう少しでククリ君が……っ!」


 と、怒りの声で唸った。


 確かに危なかった。


 でも、


(それだけ、シュレイラさんも余裕がないんだ)


 そうわかる。


 王国最強の冒険者でも、あの氷雪の巨人は一筋縄ではいかない相手なのだ。


 そして、戦いの流れは止まらない。


 雪羽虫の群れは、再び僕らに襲いかかる。


 体勢を崩された僕らも、慌てて迎撃に移ろうとする。


 だけど、


 ズキッ


「あぐっ」


 立ち上がろうとした右足に、激痛が走った。


 思わず、転ぶ。


 しまった。


(氷塊の衝撃で飛ばされた時、足首を捻ったんだ)


 まずい、立てない。


 そんな僕に、皆も気づく。


「ククリ君!?」


「おい、少年!」


「くそっ、大丈夫か!?」


 何人か、僕を気にかけてくれる。


 でも、手を貸す余裕はない。


 僕の方に、雪羽虫の群れが来ないよう必死にせき止めるのが精一杯みたいだ。


 その時だった。


 また大きな氷塊が落ちてきた。


(……あ)


 僕の上に、影が落ちる。


 まずい。


 ここ、落下地点だ。


 直撃するのがわかり、でも、僕は動けない。


 皆もわかり、焦った顔だ。


 だけど、雪羽虫も多く、微妙に距離もあり、誰も助けが間に合わない。


(え……本当に?)


 僕は、死ぬの……ここで?


 驚き。


 疑念。


 そして、諦め。 


 頭の中で、色々な感情が湧き、消える。


 父さん、母さんの顔が思い浮かぶ。


 そして、



 ふと、十数メード離れた場所に立つ、黒髪のお姉さんと目が合った。



 紅い瞳が見開かれている。


 僕の死ぬ現実を、驚愕しながら感じている。


 僕は、


「――ティアさん」


 最後に彼女の顔を見て、微笑んだ。


 最後に見るのが、彼女の顔でよかったと思いながら……青い目を閉じる。


 その直後、


 ドゴォン


 大きな重い音が響き、周囲に衝撃が広がった。

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