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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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014・アカレマ魔草

「よう来たの、ククリ」


 高台の家を訪れると、村長は玄関で出迎えてくれた。


 彼は、少し疲れた表情だった。


 僕は頷き、


「うん。何か頼みがあるの?」


「んだ」


 僕の確認に、頷く村長。


 そして、言う。


「アカレマ魔草、持っとらんか?」 


「アカレマ?」


「んだ」


「ごめん。在庫はないよ」


「……そか」 

 

 村長は、肩を落とす。


 隣のティアさんは、困惑した顔をしている。


 気づいた僕は、説明する。


 アカレマ魔草は、薬草の1つ。


 魔素を含有した蜜を、葉の内側にたっぷり蓄えている。


 その蜜の薬効が高いんだ。 


 だけど、滅多に見つからない希少な草。


 おかげで、1本3万リオンする。


「そんな高額なのですか……?」


「うん」


 驚く黒髪のお姉さんに、僕は頷いた。


 それから、村長を見る。


「でも、どうしてアカレマ魔草を?」


「レレンガの解毒の薬、作るんに、そんアカレマ魔草の蜜が必要での」


「解毒薬!?」


 僕は、目を瞠った。


 慌てて聞く。


「毒の種類、わかったの?」


「んだ」


 頷く村長。


「ヤックの証言でな。山に入り込んだ魔物が『赤爪の大猿』だとわかってな」


「……赤猿なの?」


 その名に、僕は青褪める。

 

 赤爪の大猿。


 通称・赤猿。


 名前の通り、赤い爪をした大猿で、その爪に毒がある。


 そして、



 ――3年前、父さん、母さんを殺したのと同じ種類の魔物の名前だ。



「ククリ君?」


 僕の様子に、ティアさんは怪訝な顔だ。


 村長は言う。


「3年前の件で、毒の成分を調べたけの」


「…………」


「だけん、解毒薬のために、アカレマ魔草が欲しかったが……そか、ククリんとこもないか」


 と、重い吐息。


(…………)


 僕は、顔をあげる。


「レレンガさんは、今、どんな状態?」


「手持ちの解毒薬で対処しとるが、徐々に蝕まれとる」


「明日の朝までは……?」


「…………」


 村長は、首を横に振った。


 そっか。


(時間はないんだ)


 なら、仕方ない。


 僕は言う。


「わかった。今から採ってくる」 


「ククリ」


「ククリ君!?」


 村長とお姉さんは、驚いた顔だ。


 彼女は言う。


「今からって、もう夕方ですよ!?」


「うん」


「それに、山には魔物が……」


「知ってる」


「…………」


「アカレマ魔草の生えてる場所はわかってる。今から行けば、夜には帰れるから」


「ですが……」


 心配そうな彼女。


 僕は青い瞳を伏せる。


 そして、


「……父さん、母さんの時みたいに死なせたくない」


「!」


 ティアさんは目を見開いた。


 何かを察したような表情で、僕を見つめる。


 僕は言う。


「もう何もできないのは、嫌なんだ。だから、行くよ」


「……ククリ君」


「ごめんね」


「…………」


「…………」


「わかりました。私も行きます」


「え?」


「ククリ君を守ると決めましたから。嫌がっても、お供しますよ」


 と、彼女は微笑んだ。


(ティアさん……)


 僕は驚き、


「うん……ありがとう」


 と、笑った。


 申し訳ないけど、でも、心強い。 


 そんな僕らに、村長は、


「すまね」


 と、頭を下げた。


 村長としても、心苦しいのだろう。


 どちらにしても、村民の命を天秤に賭けなければいけない。


 そんな選択だったから。


 だから、僕は笑って、


「父さん、母さんが死んだあと、1人ぼっちの僕を、村のみんなが助けてくれた。支えてくれた」


「…………」


「だから、僕は今、生きてる」


「…………」


「今度は、僕の番。それだけだよ」


 と、笑った。


 同じように村に助けられたティアさんも、頷く。


「ほうか」


 村長も頷いた。


(さて、時間がない)


 幸い、僕らは今、薬草集めの装備のままだ。


 このまま、山に入れる。


 話を終え、僕らは村長の家を出た。


 茜色の空だ。 


 あと数時間で、真っ暗になる。


 見えている山々は、薄暗く影になり、不穏な空気をまとう。


 あの薄闇のどこかに『赤猿』もいる。


(…………) 


 大きく息を吸い、


「行こう、ティアさん」


「はい、ククリ君」


 黒髪のお姉さんは、頼もしく応えてくれる。


 僕らは歩きだす。


 村長と村の人たちに見送られながら、日暮れの山へと向かったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 山の森の中は、薄暗かった。


 太陽の赤い光が差し込み、少しだけ視界は通る。


 でも、それ以外は薄闇だ。


(ランタン、使うか)


 片手が塞がるけど、仕方ない。


 視界が広がる。


 だけど、昼間同様、森の中は落ち着きがないように感じる。


 夕暮れだからか、違和感も強い。


 僕らが入ったのは、村の東側の山だ。


 赤猿は、西の山に移動した。


 でも、


(また戻ってきてもおかしくない) 


 多分、周辺の山全体が、もう魔物の活動範囲内なのだろう。


 ドク ドク


 鼓動が強い。


 魔物に、いつ襲われてもおかしくないのだから。


(……ん)


 緊張を押さえながら、森を進む。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、1時間後、僕らは森の中の窪地に到着した。


 足元は、3メードほどの崖だ。


 底は暗く、見えない。


「ここ、ですか?」


 ティアさんが聞く。


 僕は頷いて、


「うん、ここは魔素が溜まり易い地形でね。アカレマ魔草もよく見つかるんだ」


「なるほど」


「下、降りるよ」


「はい」


 近くの木に、ロープを回す。


 それを使い、


(んしょ)


 ギシギシ


 僕らは、崖下に降りた。


 窪地の底は、太陽の光も届かない。


 暗闇に、ランタンをかざす。


 照らし出されるのは、地上より茂った植物と苔だらけの地形だ。


 足元は、少しぬかるむ。


 目を凝らし、


(……見える範囲にはないね)


 僕は、奥へ進む。


 黒髪のお姉さんも無言のまま、続く。


 茂みの中、岩の陰、色々と確認していく。


 でも、ない。


 ない……ない、ない、ない。


 焦る心を抑え、丁寧に探す。


 そして、


(あ……)


 水溜りの倒木の幹の中、割れた樹皮に1本だけ、生えていた。



 ――アカレマ魔草が。



「あった」


 僕は呟く。


 膨らんだ独特の葉、間違いない。


 この中に、魔力の溶けた蜜が詰まっているんだ。


 ティアさんが微笑む。


「やりましたね」


「うん」


 僕は頷いた。


 ティアさんにランタンを持ってもらい、僕は短剣を抜く。


 サクッ


 魔草の茎を斬る。


 採取した魔草は、布袋に入れ、更に木箱に納める。


 紐で縛り、リュックへ。


(――よし)


 あとは、帰るだけだ。


 少しだけ、笑みがこぼれた。


 そして、ロープを握り、崖の上へ。


(んっしょ)


 ギシギシ


 何とか登り切る。 


 黒髪のお姉さんも、僕より軽やかな動きで続いた。


 見える空は、濃紺だ。


 星もちらつく。


 ほとんど、夜だった。


(早く帰らないと)


 僕は方向を確かめ、村の方へと歩きだす。


 ガッ


 その肩を掴まれた。


(え?)


 ティアさんだ。


 彼女の白い手が、僕の肩を押さえていた。


「ティアさん?」


「…………」


 彼女は答えない。


 その表情は険しく、視線は僕を見ていない。


 紅い瞳は、目の前の森を見ていた。


 僕も、そちらを見る。


 木々の並ぶ、真っ暗な森の景色。


 その闇に、2つの光点が浮かんでいた。


(……え?)


 僕は呆けた。


 ベキッ バキン


 木々の枝が、草木が折れる音がした。


 光点が揺れる。


 やがて、ランタンの照らす範囲に、木々の中から現れた。



 ……巨大な大猿が。



 体長3メード強。


 灰色の長い体毛に、異常に発達した筋肉の巨体。


 そして、長く伸びた真っ赤な爪。


 ボウッ


 魔力を帯びた毒の爪は、闇の中に赤く輝いていた。


「……赤爪の……大猿」


 僕は、呟く。


 2つの光点――黄色い眼球が、僕らを見た。


 ニィッ


 巨大な猿の顔は、獲物を見つけた歓喜に醜く歪んでいた。

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