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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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013・魔物

(――魔物!?)


 僕は、息を飲んだ。


 ティアさんも紅い瞳を見開いている。


 村長は頷き、


「だから、しばらく立入禁止な」


「……うん」


「ま、しばらくは様子見だ。もしもん時は、冒険者でも雇うかもしんねけど」


「ん、わかった」


「東以外の山さ入るのも、気をつけ」


「うん」


 僕は頷く。


 村長ももう1度頷き、


「ほんだば、話さ終わりだ」


 と言った。 


 僕らは別れの挨拶をして、村長の家をあとにした。 


 …………。


 帰り道、僕は考え込む。


(魔物、か)


 魔力を宿した生き物。


 野生動物よりずっと強靭で、好戦的。


 例えば、ホーンラビットみたいな小さな魔物でも、熊を殺せる。


 そういう危険生物。


 魔王が倒されてから、本当に数は減っているんだけど……。


(でも、たまに現れるんだよね)   


 毎年1~2回、遭遇する。


 村全体でも、魔物被害は年何回かあるんだ。


 まぁ、死者まで出たのは、3年前の僕の両親が最後だけど……ね。


(…………)


 僕は、重い息を吐く。


 と、その時、


「ククリ君」


 隣のお姉さんに呼ばれた。


 僕は、顔をあげる。


 彼女は、


「あの……明日も山に入るのですか?」


 と、聞いてくる。


 僕は頷いた。


「うん、東以外のね」


「……ですが、危険では?」


「そうだね。でも、冬が近いから」


「…………」


「冬は、雪で完全に山に入れなくなるから。今の内に蓄えないといけないんだよ」


「…………」


「ま、小さい村だから」


 と、苦笑する。


 危険だけど、仕方ない。


 貧しい田舎の人間は、そうして生きてきたんだ。


 ティアさんは無言。


 やがて、


「わかりました」


 と、頷いた。


 カチャッ


 その白い手が、腰にある長剣の柄に触れる。


 彼女は僕を見つめ、


「例え魔物が相手でも、私がククリ君を守りますから。だから、安心してください」


 と、言った。


 僕は、呆けた。


(ティアさん……)


 じんわり、胸が熱くなる。


 黒髪のお姉さんは、ニコッと微笑んだ。


 僕は頷いた。


「うん、ありがとう」


 そして、笑う。


 彼女も少しだけ嬉しそうに頷いた。


 そうして、僕らは家路を辿る。


 ふと、山を見る。


 夕暮れに紅く染まった山々だ。


(…………)


 少しだけ足を止め、眺める。


 ティアさんも何も言わず、待ってくれる。


 青い瞳を細め、やがて、家へと帰るため、僕らは再び歩きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 次の日、僕らは、村の南側の山に入った。


 通い慣れた山だ。


 背の高い木々が立ち並び、たくさんの草花が生い茂っている。


 いつもの景色。


 なのに、 


「……今日の森は、落ち着きがないね」


 と、僕は思った。


 ティアさんは「え?」と呟く。


 彼女も、周囲を見る。


 困ったように、小首をかしげる。


 僕に言う。


「私には、わからないのですが……」


「うん」


 僕自身、どう説明すればいいのかわからない。


 だけど、


(何か、いつもと違う)


 そう感じるんだ。


 目に見える何か1つ1つではなく、全体としての違和感。


(……ん)


 やはり、魔物のせいなのかな?


 それ以外、理由がない。


 目撃されたのは、東の山だって話だけれど……。


 僕は、ティアさんを見る。


「今日は、いつもより周りに注意していこう」


「あ、はい」


「もし、これ以上、何か変な感じがしたら、薬草集めるのも中止して村に戻るから」


「わかりました」


 彼女も神妙に頷く。 


 長く綺麗な黒髪も、サラリと揺れる。


「ふぅ」


 僕は、息を吐く。


(いつも以上に、神経を研ぎ澄ませて……)


 ん、よし。


「それじゃあ、行こう」


「はい、ククリ君」


 しっかり返事をするお姉さん。


 そうして、僕らはいつもと同じ……けれど、どこか違う山の中を歩き始めた。  



 ◇◇◇◇◇◇◇



 周囲に慎重になりながら、薬草を集めた。


 今日のティアさんは、


「…………」


 キョロ キョロ


 僕の採取中、本物の護衛っぽく周りを警戒してくれていた。


 お互い、口数も少ない。


 やがて、本日分の薬草を採取し終えた。


(終わった……)


 無事、集められたことに安心する。


「帰ろうか」


「はい、ククリ君」


 少しだけ笑顔を取り戻して、僕らは帰路に着いた。


 下山も慎重に。


 相変わらず、違和感は感じたままだ。


(…………)


 山全体が何かに怯えているような、そんな感じがする。


 やがて、村が見えた。


 警戒していた心が緩む。


 と、その時、


「……何でしょう?」


「え?」


「村が騒がしいようです。何かあったのでしょうか?」


「…………」


 ティアさんに言われて、気づく。


 確かに、村の人たちがいつもより多く外にいる。


 何かを話してる。


 僕らが村に入ると、彼らも気づいた。


「あ、ククリ、ティア!」


「よかった」


「お前らは、無事、帰ってきたんやね」


「えっと、どうしたの?」


 僕は聞く。


 彼らは顔を見合わせ、表情を暗くする。


 僕らを見て、


「あんな……今日の昼前、西の山で村んもんが2人、魔物にやられたんよ」


「……え?」


「レレンガとヤックだ」


「あの2人が!?」


 村で1、2を争う狩人だ。


 ってか、


「西の山?」


「んだよ。魔物、移動してたみたいで」


「…………」


「アンタらは、南の山さ入ったんね」


「無事でよかったわ……」


「2人は……? 無事なの?」


「無事だ」


「ただ戻った時、ヤックは左腕、やられててな」


「レレンガも、腹、裂かれて内臓、出とったけんどよ」


「けど、村長が、回復ポーション、使ってな」


「ほれ、村の備蓄の」


「そんで、何とか助かったらしいわ」


「……そっか」


 僕は、大きく息を吐く。


 でも、皆の表情は晴れない。


 村人の1人が、


「けど、レレンガの方は、まだ安心できんのだわ」


 と、言う。


「え、何で?」


「毒だ」


「毒……!?」


 僕は、青い目を見開いた。


 彼は、神妙に頷く。


「んだ、魔物の毒だ」


「腹の傷は塞がったけど、体ん中に毒さ、残っとる」


「解毒は?」


「村の解毒薬、使ったけど、あんま効いてね」


「……そう」


 毒にも、種類がある。


 だから、解毒薬も種類が必要で。


 毒によっては、村にある解毒薬が効かない場合もあるんだ。


 特に今回は、


(魔物の毒……) 


 村周辺で見る毒蛇、毒虫、毒草などとは、種類が違う。


 ある意味、未知の毒。


(これは、厳しい)


 その脅威を思って、僕は唇を噛む。 


 そんな僕に、隣のティアさんも心配そうな顔をしている。


 彼らは言う。


「明日の朝まで、レレンガは持たんかもしれん」


「…………」


「んでな、ククリ」


「うん」


「そん件で、村長がお前を呼んどったんだわ」


「え……僕?」


「ああ、頼みたいことがあるらしくて、帰ったら、すぐ屋敷に来るようにってよ」


「…………」


 何だろう?


(でも、緊急みたいだ)


 なら今は、考える時間も惜しい。 


 僕は頷く。


「うん、わかった。すぐ行くよ」


 と、答えた。


 隣のティアさんを見る。


 黒髪のお姉さんは、


「はい」


 コクン


 と、力強い表情で頷いてくれる。


 そして、僕らは村に帰ったその足で、すぐに村長の家へと向かったんだ。

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