期待以上の男
ブクマありがとうございます! おかげさまで目標達成しました。
プリメーラの屋敷にいるラビのところへ転移する。なぜラビかって? もふもふだからさ!
視界が切り替わり、ラビのもふもふの海へダイブする。俺だけのプライベートビーチだ。
ぷはぁ、溺れる、溺れてしまう。沈まないように両手両足を広げて全身でラビの感触を楽しむ――――むにゅ……むにゅ?
「あんっ、いきなり激しいわね、カケルくん……」
言わずと知れた全裸のカタリナさんがそこにいた。手のひらに収まるサイズ感が丁度良い、熟した南国フルーツ。そうか……ここは南の島だったのか。
「す、すいません。なんで昼間っからラビってるんです?」
「昨日徹夜で依頼こなしてたのよ。だから今日はお休み」
そう言いながら俺の手をガッチリホールドするカタリナさん。
くっ、さすがA級冒険者! これでは指で感触を楽しむことしか出来ない……
「あ、あの、俺ギルドと騎士団に行かないと――」
このままホールドされていたい思いもあるが断腸の思いで急いでいることを告げる。
「ふーん、じゃあ目覚めのキスして。王子様。そうしたら離してあげるわ」
いたずらっぽく微笑むカタリナさん。くっ、仕方がない。
「起きれなくなっても知りませんよ!」
「きて、カケルくん! 私をラビの呪いから目覚めさせて!」
「も、もう駄目……い、行ってらっしゃい……」
ヘロヘロになったカタリナさんと別れ、ひとまずギルドに向かう。
「あっ、カケル様! おかえりなさい!」
ギルドに入るなりクラウディアが抱きついてくる。仕事中に良いのかと思うが、周囲も慣れたもので、もはや何も言わない(言えない)
「お兄ちゃん! おかえりなさい!」
続けてアリサが抱きついてくる。
……ここはマイスイートホームだろうか? いいえ、冒険者ギルドです。
「聞いたわよ、サウスレア、無事だったんだって? ついでにサウスウエストレアまで解放するなんて流石ね」
「ごめんなクラウディア、お前の国まで捜索できなくて。俺頑張るからさ」
「いいの! 焦らないでいいから、絶対に無理はしないで! でも……ありがとう」
ぎゅっと掴んだクラウディアの身体は本当に細くて壊れそうだ。一刻も早く彼女の重荷を取り除いてあげないと。
残念ながらクラウディアの母国クリスタリアは遠い。現状ではとても手が届かないのがもどかしい。やはり飛行型の召喚獣を増やしていくしかないよな。
***
「悪いなカケル、わざわざ来てもらって。サウスレアの方も忙しいだろうに」
頭を下げるプリメーラのギルドマスターベルナルド。
「大丈夫ですよ、それより、もうサウスウエストレアに派遣する人が集まったんですか?」
サウスウエストレアを迅速に再建するため、臨時の冒険者ギルドを開設することが決定した。
同時に派遣するための人員の募集も始まったことは聞いていたのだが、もう定員が埋まったのだという。危険で大変な仕事なのに正直よく集まったなと思う。
「あー、まあな。冒険者は稼げるとわかって殺到しているが、肝心のギルド職員、特に受付嬢が全然集まらなくて困ってたんだが、ちょっと条件を付けたら応募が殺到してな」
「……条件ですか?」
「お前がお姫様だっこで送迎するという条件だ。やってくれるな、カケル」
「は? なんですかそれ!?」
本音をいえば、高嶺の花である受付嬢と堂々と触れ合う好機! それは全然構わないのだが、ギルマスの口からお姫様だっこは聞きたくなかった。
「クラウディアとアリサの発案なんだ。俺は一応反対したんだがな」
やはりあの2人か。それなら余計断れないじゃないか。
「まあ、構いませんが、もちろん受付嬢だけですよね?」
「あたりまえだ、男性職員からも希望はあったのだが、俺の裁量で却下した」
それは英断です、ギルマス!!
「ただし、女冒険者からの希望は断り切れなかった。やってくれるな、カケル」
「……わかりました。どうせ、どこかのカタリナさんとかセシリア何某さんあたりでしょうけど、ついでだから良いですよ。で、全部で何人ですか?」
「冒険者が300人、ギルド職員が男性10名、女性20名だ。明日の朝出発だから頼むぞ」
「結構な人数ですね……わかりました。また明日の朝伺います」
「ああ、それからアルフレイドが顔を出すように言っていたぞ」
「領主様のところへはこの後行くつもりでしたので、大丈夫です」
***
ギルドを後にして、次はアルフレイド様がいるプリメーラ城へ向かう。
(良く考えたら、プリメーラ城へ行くの初めてだな。屋根の上は何度も行ってるけど)
アルフレイド様とは、いつもギルドで会っているから、お城で会うのは変な感じだ。
「お勤めご苦労様、ホセさん、ラモスさん、領主様に呼ばれてきたんだけど」
城の入り口で顔見知りの衛兵に声をかける。
「これは英雄様、領主様から聞いております。どうぞお通り下さい」
門を抜け、城内に入る。そこで出迎えてくれた人物に俺は戦慄した。
(……せ、セバスチャンだと? まさかこの異世界で本物のセバスに会えるとは……しかも羊の獣人だと?……俺を殺しに来ているとしか思えない)
喜びと期待で身体の震えが止まらない。ああ叫びたい、セバスキター!!!と、ひつじのしつじキター!!!と
「はじめましてカケル様、執事長のセバスチャンと申します。ご活躍はかねがね伺っております」
恭しく頭を下げるセバスチャンだが、どう見ても不審なカケルの様子に困惑する。
(む……どうしたことだ? カケル様と顔をあわせるのは初めてのはず。なのに何だこの反応は? まるで長年探し求めていたものに巡り合ったようなこの表情は?)
さすがのセバスも、異世界のお約束までは分からない。
「冒険者のカケルです。こちらこそ宜しくお願いします」
一方、探し求めていた執事セバスチャンに出会えたカケルは抑えきれない笑みを零す。
(だめだ、今度はなぜ笑っているのか見当もつかない……カケル様は何を考えて……はっ!! そうか、私は何を勘違いしていたのだ。人の心を見透かせるなどと思い上がりにも程があるではないか。カケル様はおそらくこのセバスチャンのその傲慢な驕りに気づいたのだろう。人に仕える身でありながら、常に相手より優位に立とうとするこの勘違い執事に原点に立ち戻れと教えてくれたのだ)
「このセバスチャンが間違っておりました。今後も初心を忘れず精進いたします。それではご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
「(よくわからないけど、とりあえず)流石だなセバスチャン、それでこそ本物の執事だ」
(ああ、やはり私は試されていたのだ。執事とて神ではない。過ちを認める勇気こそ執事。ありがとうございます、カケル様)
こうしてカケルの意図しないところで、セバスチャンの執事レベルは更に上がるのだった。




