エルフの王国へ
スキル『物質透過』でお坊ちゃまの寝室に音も無くお邪魔する。侵入ではなく、お邪魔です。間違えないで下さいね?
お坊ちゃまを起こすのは私に与えられた大切な役目ですから、怒られることはないのです。うふふ。
迷宮の最下層に縛り付けられていた私が、お坊ちゃまに救われた時に覚醒めたスキルは3つ。『物質透過』『粉骨砕身』『癒やしの泉』です。
物質透過のおかげでお坊ちゃまを起こす事無く堪能出来ますし、粉骨砕身はお坊ちゃまを守る時にステータス10倍になりますから、とてもお役に立てるのです。
それに癒やしの泉があれば、皆さまの疲れはもちろん、不満や悩み、ストレスまで解消してくれますからね。お坊ちゃまのハーレムの手助けになるように、日夜頑張る所存です。
「ん……んんんん?」
顔中をぺろぺろされる夢を見て目が覚める。
「……クラウディア?」
外はまだ暗く、朝の気配すら感じられない。隣をみればクラウディアが可愛い寝顔でぐっすり眠っている。となれば……犯人は決まっている。
「おはよう、ケルベロス」
「おはようございます、お坊ちゃま」
俺の愛犬ケルベロスだ。うちの屋敷に来てからは、毎朝、昔のように起こしてくれるようになったのだが、真っ白なモフモフ全裸で、布団にもぐりこんで起こすのは止めてほしい。ウソです。止めなくていいです。
「うふふ、お坊ちゃま……お坊ちゃま……ぺろぺろ」
ついでに顔中舐めまわすのも止めてほしい。はい、またウソを重ねました。常習犯です。ごめんなさい。
「起こしてくれるのは嬉しいんだけど、まだ起きるには早いんじゃないか?」
「ですが、お坊ちゃまはお忙しいですから……この時間しかなかったのです。申し訳ございません」
淋しそうなケルベロスの表情にはっとする。
考えてみれば、再会してからケルベロスとの時間を取れていなかった。
早朝は鍛錬の時間で、日中は出かけているし、夜はお察しだ。
またか……俺はいつもケルベロスからもらってばかりで、甘えてばかりだ。
「ケルベロス……おいで」
「お坊ちゃま……わふぅ!」
嬉しそうに飛び込んでくるケルベロス。
惜しみなく時空魔法100倍を使う。筋肉痛? なあに、運動すれば治るさ。
(……完全に目覚めるタイミング間違えたわね……)
早々に二度寝を決めるクラウディアであった……って寝れないわよ!?
二度寝を諦めて、たぬき寝入りを決めるクラウディアであったが……結局我慢出来ず、カケルとケルベロスに飛び込んでゆくのであった。
***
今日はエルフの王国ガーランドへ行く。
なんだかんだで、すっかり後回しになってしまったけれど。
本当はもっと早く訪問する予定だったんだけど、シルフィとサラには悪いことをしてしまったな。
シルフィとサラは昨日から先に王都入りしているので、ここには居ない。
「それじゃあ、今日はガーランドの王都ユグドラシルに行ってくる」
朝食の席で今日の予定をみんなに告げるが、ちょっと待て。こうやって見ると、女子校の先生になった気分になるな。クラス全員、同僚、保護者、用務員さん? も含めてお嫁さんだけどね!? 何やってんの俺!?
「カケル殿、ガーランドに行くなら、是非とも私も連れて行って下さい。王妃のマーガレットとは、古い友人なのです」
それは全然構わないんですが、なぜベルファティーナさまは、まだ屋敷にいらっしゃるのでしょうか?
「だって、ご飯は美味しいし、お風呂も最高ですし、何より……カケル殿がいらっしゃるから……」
頬を染めて照れるベルファティーナさま。あの……貴女本当にお義母さまですか? 実はセレスティーナの妹とかじゃないですよね!? あと、朝食の場で止めて下さい、みんなの視線がとっても痛いんですよ!?
「……先輩マジで半端ないね」
「ふふっ、お母様ったら可愛い」
「まったく母上は甘えん坊だな」
君たち姉妹も少しはツッコもうね!?
「王子様、今回は私も行きますからね?」
ふんすっ、とやる気を漲らせるサクラが可愛い。
サクラは植物魔法の使い手で、ガーランドとは縁が深いからな。オルレアン伯爵領とは交易も盛んだし、連れていった方がいいだろう。
結局、ガーランドへ行くメンバーは、ベルファティーナさま、サクラ、美琴、リーゼロッテ、ソニアとなった。今回はひとりで行く予定だったんだけど仕方ない。
クロエとヒルデガルド、ミヅハはセットなので数には入れないよ。
いつものように、みんなを職場に送り届けてから出発する。
「クロドラ、頼むよ」
『ふふっ、任せておけ。この世の果てまで連れて行ってやる』
いや……ガーランドまでお願いします。
プリメーラからガーランドの王都ユグドラシルまでは、約30分の空の旅だ。
実は空からしっかり王都を見るのは初めてだ。楽しみで仕方がない。だって――――
「ねえ先輩、ユグドラシルって、もしかして?」
「ああ、世界樹が見れるぞ、美琴」
「うはあ!? ファンタジーの定番キター!!!」
ガーランドの王都ユグドラシルは、その名のとおり、世界樹と呼ばれる巨大な樹の上に築かれた都市だ。これがわくわくしない訳がないだろう。
「でも……さすがカケル殿ですね」
突然、意味深な事をおっしゃるベルファティーナさま。
「え? 何がです? ベルファティーナさま?」
「狙った訳でもないのに、ピンポイントで樹粉症のシーズンにガーランドを訪問するなんて……うふふ」
樹粉症……だと? なんだその目と鼻がむずむずしそうな恐ろしいワードは!?
「ちなみに……樹粉症ってなんですか?」
「うふふ。それは着いてからの、お・た・の・し・み」
可愛い妹のような容姿で妖艶に微笑むベルファティーナさま。どうでもいいんですが、なんで俺の膝の上に座ってるんですかね?
期待に胸を膨らませながら、一行は王都ユグドラシルへ向かうのであった。




