ワタノハラ家のメイド選考会
「はいはーい、希望の方はこちらの列に並んで下さいね~!」
ここプリメーラのカケルの屋敷の前には、すごい行列が出来ていた。
ワタノハラ家でメイドを募集することを知った人々が国内国外を問わず殺到したからだ。
なにせ、メイドギルドはもちろんのこと、執事ギルド、冒険者ギルド、商業ギルドで大々的に募集をかけ、さらにアイシャを通じてアストレア中の業界関係者に瞬く間に噂が広がってしまったのだから当然の結果だが、それだけではない。
そもそもとして雇用条件が破格に良いのだ。
王族付きメイドだったアイシャをして、払い過ぎと言わしめた賃金の高さと、週休2日や美味しい食事に大浴場など福利厚生も充実している。おまけに屋敷の主が今話題の異世界人の英雄だ。人気が出ないわけがない。
極めつけは、採用しなかった場合でも、きちんと足代と迷惑料が支払われるという好条件。
ハードルは高いが、ダメもとで受けてみようというチャレンジ組も含めて人数が膨らんだのだ。
ちなみにカケルは魔人帝国にいるので不在だ。というより、カケルにメイドを選ばせるとウサ耳だらけになるので、わざわざ居ない時に選考会を開催したのだから。
「クロエ……これ不味くないかしら? 私たちだけで全員面接なんて無理よ?」
おそらく5000人以上いる応募者に震えるシルフィ。
おまけに今は遠征中のユスティティアとセレスティーナ、サクラがいないのだ。不安しかない。
「大丈夫ですよシルフィ、そのためにアイシャさんがいるのですから」
「ふえっ!? わ、私ですか? いや、確かに協力はするって言いましたけど、さすがにこの数は……」
すでに応募者の整理・案内には商業ギルドと冒険者ギルドから職員が応援に来てくれているので、今のところ何とかなっているが。
問題は選考をどうやって行うかだが、時間も場所も全てが足りない。
「私と戦ってもらって強い奴を選べばいいんじゃねえ?」
「だめよセシリア、私たちに必要なのはメイドよ? やっぱり魔力量で選ぶのがいいんじゃないかしら」
「それもメイドと関係ないですよ、カタリナ。やはりモフモフは除外しましょう。御主兄様に必要なモフメイドは私一人で十分です」
「クロエ様、それもメイドと関係ないですし、優秀なメイドはモフ率が高いのです。除外は無しでお願いします」
「ふーん、アイシャってばなんか怪しいね。貴方様に何か言われたんでしょ?」
「そ、そんなことはないですよサラ様、現にアストレア王家もカルロス家もメイドはほぼ全員獣人じゃないですか」
「まあまあ、お兄ちゃんほどじゃないけど、私もモフモフのメイドさんの方が好きかな」
アリサがアイシャの援護をする。
「やはりメイドとはいえ金銭感覚が重要だと思いますよ」
至極まっとうな意見を出すクラウディアだが、残念なことにみんな自分の意見に夢中で聞いていない。
「妾は料理が上手ければなんでも良い」
「そうね。私も特に希望はないわ。そもそもメイドさんのこと良く知らないし」
食い気優先のエヴァと庶民出身のソフィアは丸投げの姿勢を崩さない。
「あんたたち、早く始めるわよ! いつまで待たせるのよ」
ミレイヌがメンバーを呼びに来たが、意見はまとまっていない。
結局、それぞれが良いと思った者を推薦するという方向で無理やりまとめかけたのだが、
「皆さま、お困りのようですね」
そこへ颯爽と現れたのは羊の獣人執事セバスチャン。
「貴方はアルフレイド様のS級執事長のセバス! なぜここへ?」
「ミレイヌ様、分かりやすく紹介してくださり感謝いたします。主の命によりお手伝いに参りました」
セバスの参戦により、劇的に選考は捗った。
まずは屋敷の入口でセバスが応募者の適性を見極め合格したものだけが屋敷に入ることが出来るようにした。
この時点で5000人以上いた応募者は1000人以下にまで減っていたが、それでも100名の募集にたいして10倍の狭き門だ。
「この規模のお屋敷ですと、ある程度経験者でないと厳しいと思いますよ。それにメイド集団を率いるベテランの力が必要です」
アイシャの言う通り今は即戦力が欲しいところだ。新人研修をしている暇は無いのだから。
一応経験者は一旦キープして、先に未経験者の面接を開始する。
未経験者の中に宝石のような人材が紛れ込んでいるかもしれないからだ。
「クラリス17歳、魔族で〜す!」
キラリンッと星が飛びそうなウインクを決める魔族の美少女クラリス。
カケルがいたならば、魔法少女キターと叫んだことだろう。
「おお、魔族とは珍しい」
驚くエヴァ。
「はわわわ……魔法少女だ……本物に会えるなんて……異世界万歳!」
アリサは憧れの魔法少女に目をキラキラさせている。
「とても良い匂いがしますし、モフモフでは無いのが好印象です!」
クロエも気に入ったようだ。
「サラ、この子相当やるわね……」
「うん、見た目で騙されそうだけど化物だね」
黒の死神メンバーには好印象のクラリス。
一方で――――
「「「「………………」」」」
カタリナ、セシリア、ソフィア、クラウディアは、理由はそれぞれ異なるものの、なぜかジト目でクラリスを見ていた。
「おい、カタリナ……」
「ええ……分かってるわ」
ぶるぶると真っ赤な顔で震えていたカタリナが、ようやく声を発する。
「ちょっと、お母さん! こんな所で何やってんのよ!?」
「「「「「えええぇっ!? お母さん!?」」」」」
「あら? カタリナじゃない! やっほー、元気してた?」
魔法少女クラリスは、カタリナのお母さんだった。




