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異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収拾つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~  作者: ひだまりのねこ
第九章 決戦の前に 束の間の日常

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サクラの桜

「王子様って向うの世界ではどんな身分だったんですか?」


 そういえばとサクラがたずねてくる。


「俺のいた国には身分制度がないからな。うまく説明できないんだけど、こちらの世界だったら、女神様の元に全ての人間は家族で、みな平等って感じかな? もちろん、仕事上の立場の上下はあるけどね。サクラのご先祖様ももちろんそうだぞ」


「わっ! 千川桜様ですね! 王子様もご存じなんですか?」


 憧れのご先祖様の話題に瞳を輝かせるサクラ。


 もちろん知っているさ。思い出したくなかったけど、こちらの世界で幸せになったのなら気にすることも無いだろう。


「ああ、結構な有名人だったからな。千年以上続く名家の出身で、すごい美人だった。何不自由ない人生を送れたはずなのに、砂漠化を食い止めるために世界中を回って植樹をした人だよ」


 その最中にテロリストに殺されちまったけどな……


「砂漠化?」


「文明が発達して人が増えると森を切り開いていくだろ? そうすると森が果たしていた土壌の保水機能がなくなって、砂漠化していくんだ。俺がいた世界の文明の多くはそうやって滅んでいったんだよ」


「王子様の国は大丈夫だったんですか?」


「ああ、俺の国は昔から切った以上に植樹しまくってきた歴史があるからな。ちなみに俺たちの国は国土の7割が森林で、そのほとんどが何千年前のご先祖様が植樹した木の子孫なんだ」


「あっ、わかりました! だから桜様はこの世界で生涯、木を植え続けていたのですね。実はこの森も桜様が作った森なんですよ。だから『サウザンドフォレスト』っていう名がついているんです」



「そうか……森を失ったら国は滅ぶからな。これからも森を守っていかないと」


 アストレアが千年続いたのは、明日人だけの力じゃなかったんだな。


「そうですね……私もせっかく桜様のスキルを受け継いだんですから、頑張って植樹しまくりますよ!」


 サクラの樹木魔法の凄まじさは良く知っている。小さな森なら一日でできてしまうからな。



「そういえばご存知でしたか? 桜様は、建国の英雄アスト様の奥様のひとりだったんですよ〜」


(マジか……羨ましいな明日人のやつ……いや、俺が言えた義理じゃなかったな)



「でも……セレスティーナ様と違って肖像画が残っていないから、どんな方だったのか分からないんですよね……」


 残念そうなサクラを見てふと思いつく。


「サクラ、描いてやろうか? 千川桜の絵を。俺もちょっと描いてみたくなったんだよ」


「え!? 本当ですか? ぜひ、お願いします~!」


 スケッチブックを出して構図を決める。


 記憶の中の千川桜の中からお気に入りのシーンを切り取り、一気に描き上げる。


(やっぱり女の子は笑ってる顔が一番良いよな……)


 

「ほら、出来たぞ。我ながらなかなかの出来だと思うんだけど……」



「うわあ……これが……私のご先祖の桜様なんですね……とっても綺麗で優しそうな人。ありがとうございます。私まで一緒に描いていただけるなんて……」


 千川桜の隣には、俺が大好きなサクラが並んでいる。そして――――


「これは……もしかして、これが桜の花なんですか?」


 2人の背後には満開の桜の木と桜吹雪。


 この世界には、桜が無いらしいので、俺の記憶の中にしか存在しない光景だ。 

 

「そうだよ。俺のいた国では、春になると国民の多くが桜を見て楽しむんだ。年に一度、たった2週間足らずの夢のような光景が忘れられないな……」 


 王子様……桜が見られなくなって淋しいのかな……そうだよね、家族も知り合いもいない異世界にひとりきりで……。私が王子様を支えてあげなくちゃ。


「王子様……私、今とても幸せです。だから……分けてあげます。少しだけ」



『樹木創造!!』


 サクラが使った魔法は樹木魔法の中でも特に難易度が高く、桁違いの魔力を持っていかれる。


 この世界に存在しない樹木でも創り出せるが、細部までイメージ出来るかが成功の鍵となる。



 お願い……桜様、どうか力をお貸しください。


 私を助けてくれた恩人に、家族を、故郷を、そして祖国を救ってくれた英雄に。


 私の大好きなあの人に、見せてあげたいの……私たちと同じ名の花を。


 貴女が生涯恋い焦がれたその花を。


 

 アストレアに伝わるところによれば、千川桜はその生涯を終えるまで桜の木を探し続け、創り出そうとしたという。



 まばゆい光が弾けて一本の樹木が出現するが、花も咲いていない貧相な苗木だった。


「……そんな……やっぱり失敗……」


 やはり無理だった。あの桜様でさえ出来なかったのに私なんかに出来る訳がなかった。


 魔力を使い果たし崩れ落ちるサクラ。


「ご……ごめんなさい、王子様に桜を見て欲しかったのに……ごめんなさい」


 泣きじゃくるサクラ。



「……そうでもなかったみたいだぞ、サクラ」



 だって俺の鑑定にはちゃんと――――


【桜の苗木】って出てるからな。



「ありがとうサクラ、おかげでこの世界でも桜が見られるかもしれない」


「ヨガッダでず〜、うわ〜ん!」


 ふふっ、どっちにしても泣くんだな……


「でもな、サクラはちょっと勘違いしてるみたいだけど、俺が桜の花を見せたかったのは、サクラ、お前なんだぞ」


「えっ…………王子様……私に?」


「ほれ、惚けてないで神水飲め。魔力無いんだろ?」


「…………嫌です」

「は? サクラ何言って――」


「口移しじゃないと嫌です!」

「困った奴だな……ほら」


 サクラに口移しで神水を飲ませる。


「ん……王子様、まだ足りません……もっと下さい。身体が、心が求めているんです……」


「…………良いのか? 今の俺は止まれそうにないぞ?」


「…………もちろんです、サクラの全部……王子様にあげますから」


「サクラ……」

「王子様……」



『ねえねえ、あの人たちこんな所で何してるの?』


『しっ、見ちゃいけません! 貴方にはまだ早いわ!』



「…………」

「…………」



 声のする方を見ると、母親らしき女性と5歳くらいの男の子がこちらを凝視していた。



 くっ……気まずい。ここは爽やかに、


「こんにちは! 森に避難している人を助けに来ました!」


「…………」


 止めて、そのジト目止めて!? 本当なんです! 半分くらいは!









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i566029
(作/秋の桜子さま)
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