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第7話 やっぱりカック良いよぉ~


 物心ついてきた頃、父、勇一郎から最初に教わった事は指圧の仕方だった。


(次に人差し指から押し、最後に親指で圧をかける。そうすればだいたいの人間は硬直するから、その数秒で他を仕留めろ。ゆーちゃん)


(はい! お父さん)


(良い返事だぜ~! 素直な奴は強くなれる。ゆーちゃん~! 人の壊……癒し方教えてあげよるよ。まずはゆーちゃんが覚醒の背中のツボを押してやろう)


(は、はい! お父さん。背中壊れるよ~!……ギャアアァァ!!)




 そして、俺は父親、勇一郎から超スパルタに建宮式マッサージ方を教わった。10代という若さで人を壊……癒す力を会得した。



「……藍、ビッ……七宮。両耳を塞いでいろよ」


 不良達に聴こえない様に小声で2人にそう伝える。


「え?……もしかしてあれをやるの? ゆー君」

「あ~! 建宮っち。今、ウチの事をビッチって言いかけたし~!」


 そして、俺に言われた通り。2人は両耳を塞いだ。


「マー君。アイツ等、変な動きしてるぜ~!」

「前田君。早く連れてて色々とやっちゃいましょう」

「よし取り囲んで分からせてやるぞ」


「「「おう!」」」


 2人の行動を怪しんだ不良達が、俺達を取り囲もうと動き出そうとし始める。その数合計8人。結構な人数だ。


 そして、こんな状況で俺は自身の腹に力を込め、不良達に向かってこう叫ぶ。


かしこまれえぇ!!!!」


「「「はいいいっ!!」」」


 ビリッ!と、辺り一面に聴こえる俺の大声―――


 人間は、いきなり大声で叫ばれると体が萎縮する。不良達もあまりにも突然の事で皆、気をつけの姿勢で直立不動していた。


 そして、俺はその隙を見逃しなかった。不良達が動けなくなったコンマ数秒を。


 まずは俺の一番近くに立っていた不良AとBの金的ツボを、おもいっきり振り上げた両腕をぶつけて刺激し癒してやった。


「ごぎゃあ?!」「おふっ?!」


 次に近くにいた不良CとDへと素早く近づいた。踏み込んだ勢いを利用して、左足で不良Cの下腹部の丹田のツボを押した。


 そして、その光景を見て驚いた不良Dの丹田もC同様の刺激を与えて癒してやる。


「テ、テメエ!! 栄田えいだ日出余びだよ達に何し……えてぇ?」

家出前いだぜ君。ど、どうしたんだよ! いきなり気を失っ……てぇぇ?!」

絵笛男えふお?! なんでお前まで倒れてんだぁ……よ?!」


自来也じらいやどうした?! 俺の右腕のお前まで倒れてどうする? おい! 自来也!! しっかりしろ!」


 ドサッドサッドサッと、不良達の後ろに回った俺に脳のツボを押されて、昇天した不良E、F、Gは気持ち良さそうな表情で地面に眠っている。この間だいたい8秒くらいか。


「後、残っているのは前田先輩だけになりました」


「ひ、ひいーっ! 来るな! お、お前、俺のダチ達に何をした?」


「何をした? それはこっちの台詞ですよ。アンタ達は俺の大切な幼馴染みの藍に、酷い目合わせようとした」


「だ、だからなんだよ! 雨宮藍が本当は可愛すぎんのがいけないんだろうが! あんな素顔見たら誰だって……ひぃい?!」


「……すみませんけど。俺、大切な存在を傷つけられて、ボーッと見てられるたちじゃないですよ。なんで、その腐った性根……俺のツボ押しと関節外しで少し矯正させてもらいますよ。お覚悟を」



「ゆー君。そんなに私の事を思ってくれたんだ」


 少し離れた場所で、藍がデレた顔をしている。まさか聞かれてたのか? まあ、いいや。先に前田先輩を矯正して、人間にんげんにしてあげないと。


「や、止めろ! 俺達が悪がった! だからそんな場所の関節とツボを同時に刺激しないでくれ! 俺達が悪かった! だから止め……止め……ああああぁぁあ//////おやめろおおお!!」


ゴキッ!バキッ!ボッキン!


「前田先輩……だいぶってますね。今、らくにしてあげますからね」


パキッ!ポキッ!


 俺は、前田先輩が押したら気持ち良くなるツボを容赦なく押した。そして、前田先輩は気持ちの良い顔でなぜか気を失ってしまった。


「ふっまたつまらないツボを押してしまったな。周りには……よし、この時間一目は無し。先輩達もそれを狙って、バス亭で俺達を待ち伏せしてたんだな。ベンチに寝かせておさらばするかな」


 俺は幸せそうな顔で地面に寝転がっている先輩を拾い上げると、先輩達を団子状にしてベンチへと寝かせてあげた。なんて優しい後輩なんだ俺は。


 不良先輩達の癒しも無事終えたタイミングで、遠くの方から俺達が乗るバスがやって来たな。


「丁度、バスもことだし帰るか。藍、七宮」


「う、うん! 帰ろう。ゆー君……助けてくれてありがとう」


「おう。藍の事だったらいつも助けてやるさ……七宮? おーい! 七宮。どうしたんだよ。ぼーっとして」


「へぅえ?! な、何でも無しい! て、ていうか、顔近すぎるし。建宮っち……適正距離取れし~!」


 俺の顔を見ながらボーッとする七宮の肩に手を置いた瞬間。七宮は俺の顔面に両手を抑えて来た。


「もがぁ?! なんだよ。いつもはベタベタくっ付いて来るくせにさ……七宮に怪我なくて良かったわ。そんじゃ帰るか。藍」


「う、うん……それにしても。ゆー君ってあんなに早く動けたんだね。私、ビックリしちゃったよ。いつも路上でガラの悪い人を矯正する時はゆっくりだったのに」


「ん? あぁ、うちの親父から緊急時はテキバキ動ける様に身体は鍛えとけって、日頃から言われているからな」


「勇一郎さんに? それにテキバキって……普通テキパキじゃないの?」


「いや、ウチの親父はテキバキって言うだ。なぜかな……」


 俺と藍がそんな会話をしているなか、七宮はなぜか顔を真っ赤にして、俺の方をジーッと見詰めていた。



「まだ心臓ドキドキしてるし……こんな気持ち初めてだし……つうか建宮っち。やっぱりカック良いよぉぉ……だし……」



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