第6話 文芸部へようこそ
《黎明高校 旧校舎》
「あ、こっちだ、こっち……で、あっているよな?」
「えっと……多分。合ってるかと……」
「おっ! そうか。了解だ」
俺達の前を歩く黒髪リアル五条先輩が俺に行く場所が合っているか聞いてくる。いや、俺、に聞かれても文芸部の場所なんて分かんないんですが。汐崎先輩……
「なんで、汐崎先輩達も旧校舎に?」
「いや、今月の学校イベントの視察も兼ねてな」
「はぁ、視察ですか……」
汐崎先輩って、どこかミステリアスなんだよな。学校内で常にサングラスを掛けている変わり者で有名だ。
密かに女子人気が高い……織姫先輩と常に一緒にいるから、近寄って来る女子はいないらしいが。
「あ~ん! 脳天痛いし~! これも全部葵ちゃんのせいだし」
「なんで私のせいなのよ! あっ! 藍、この間貸した『恋する3角形』もう読んだ?」
「は、はい……凄く面白かったです。葵先輩」
「え~? 何々? 恋する3ピー? 何のエロ本なん?」
「『恋する3角形』よ! アホ美来……全く誰に似たんだか」
「ん~? 葵ちゃんだし?」
「張り倒すわよ! ムッツリスケベ!」
「葵先輩。七宮さんどっちかって言うと……」
なんか女子達の方は、会話が盛り上がってて良いな。
葵先輩って、あの派手な見た目で本とかも読むのか。
藍に本とかも貸してるみたいだし、結構本とか読むのかな?
藍《大人しい美少女系》とも七宮《ビッチビッチギャル系》両方に対応して話せるって、結構凄いな。
「あ! あそこだ……おーい! 彩葉。新入幽霊部員連れてきたぞ」
汐崎先輩が旧校舎のとある一室の扉を開けた。そして、中に居た先輩に声をかける。つうか、新入幽霊部員ってなんだ?
「あら、光と葵じゃない。それと……廃部寸前の文芸部を救ってくれる、生贄幽霊部員達の子達ね。嬉しいわ」
「彩葉先輩? 文芸部だったんですか?」
「あら? 藍も一緒だったの? 嬉しいわ」
なんだ、藍の知り合いの先輩だったのか。黒髪で、ザッ!大和撫子って感じの美人な先輩だな。
「文芸部部長の秋月彩葉だ。これ、新入幽霊部員《《4人》》分の入部届けな。それじゃあ、後の説明宜しく。彩葉」
「ええ、貴方に相談してやっぱり正解だったわ。光、ありがとう。このお礼は必ずさせてもらうわね」
「あんまり期待しないで待ってるわ。それじゃあな……お~い、ハロウィンのイベントの視察に行くぞ。葵」
汐崎先輩は、秋月彩葉先輩に入部届けの紙の束を渡すと、織姫先輩へと話しかけた。
「凄いわね。怪しい家とかキンキン地方の新刊まで置いてあるわよ。藍」
「ええ? 本当ですか? 凄いですね。うわ~! 本当に色々な種類の本がある」
「そうなん? ウチ、パリピで高名しか分からんし」
「……それは人気漫画よ。アホ美来」
織姫先輩達は、教室内の棚に並んでいる本を漁ってたみたいだな。
「葵。ほら、行くぞ! 生徒会の仕事手伝ってくれるんだろう? ほら!」
「ニャア/// ちょっと! 光。皆が見てるんだからそんな大胆な手の繋ぎ駄目だってば。じゃ、じゃあね。皆、部活頑張ってね~! バイバイ」
「……じゃあ。何か分かんない事や困った事があったら相談してきてくれ。皆、それじゃあ」
汐崎先輩と織姫先輩はそう言うと。《《恋人繋ぎ》》で室内を出ていった。
「恋人繋ぎだったな。あの噂本当なのか?」
「ひゅ~! 二人とも大胆だし~!」
「旧校舎で二人きり……エッチな事でもするのかな?」
「…………まだ付き合ってないくせに見せつけて。光、許さないから」
「「「え?」」」
秋月先輩。今、小声でなんて言ったんだ?
「……なんでもないわ。新入部員さん達。コホンッ!……改めまして。文芸部へようこそ。私は文芸部唯一の部員にして、秋月彩葉よ。よろしく」
さっきの発言は無かった事にするらしい。つうか、聞いて踏み込んだらいけないやつだわ。
「建宮裕次です。よろしくお願いします。秋月先輩」
「雨宮藍です。生徒会の書記で、図書委員なので秋月先輩とは……」
「ええ、藍とは前からの知り合いね」
「は、はい……よろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。藍」
成る程。この2人は同じ図書委員だから、顔見知りだったのか。
「七宮美来で~す! よろ~! 秋月パイセン!」
「ギャルビッチです……」
俺は小声で七宮が言い残した自己紹介の台詞を代わりに言ってやった。ギャルビッチ大事。
「はぁ~?!だし! 建宮っち! 誰がギャルビッチだし~! 訂正しろし~!」
七宮が俺へと抱き付き、身体を揺らして来た。そんな攻撃効くか。俺は七宮にはもう慣れたんだからな。
「だから七宮だよ……てっ! 胸押し当てんな! また鼻血出るだろうが」
「ウチをギャルビッチ呼ばわりした罰だし! そのまま吹き出させてやるし」
「吹き出すか。アホ宮」
ふっそんな身体を張った攻撃で、俺の鼻が反応するわけ……
プシュッ!
……少し反応した。
「……やっぱり。吹き出すから離れてくれ。七宮」
「……建宮っちって、案外、ムッツリだし?」
「わ、私もゆー君のお鼻噴出させてあげられるよ」
「いや。止めてほしいわね。部室内にある大切な本にかかったら大変だもの……話の続きをしていいかしら? リア充さん達」
俺と七宮がアホなやり取りをしていると、藍と秋月先輩が話に割って入ってきた。リア充さん達って、俺は別にリア充ではないんだけどな。
「……すみません。秋月先輩」
「ゴメンだし。秋月パイセン」
……七宮って。見た目も行動も派手だけど、礼儀作法はちゃんとしてんだよな。
生徒からは、不良グループの1人とか思われてるけど。学校は無遅刻無欠席だし、教師受けも良い……なんなら勉強は俺よりもできるしな。
「……素直で良い子達ね。流石、光が選んで連れてきてくれた子達だわ」
「え? 今、連れてきたって言いましたか? 秋月先輩」
俺が秋月先輩に質問すると……
「言ってないわ。それよりも、文芸部の活動の説明をするわね」
額に冷や汗を滴しながら否定された。いや、明らかに、〖あっ!ヤバイは口を滑らせてしまったわ〗って顔してるんだが。
この先輩……怪しいな。《《あの》》汐崎先輩と、裏でどんなやり取りしてたんだ? 怪しいな。
「基本的に、うちの文芸部の活動拠点は、図書室とこの旧校舎の部室で行っていくわ。放課後に顔出すくらいで、来ても来なくても自由よ」
なんだ。案外、他の部活と違って楽なんだな。強制的に入部させられたから。入ったら入ったらで、もっと大変なのかと思ってたが。
「それとここに置いてある本は、持ち出し自由。卒業までに学校に返却してくれればいいわ。後は……3ヶ月に1回ある本のオススメする新聞作りと、文化祭で簡単な出し物を出すくらいかしらね」
「文化祭の出し物だし~? 面白そうじゃん。派手にやろうし。秋月パイセン」
「凄い本の量……〖静かな魔女は殿下家庭教師でそんなの無理無理〗の最新刊まで置いてある。しゅごいしゅごい!!」
七宮の奴。秋月パイセンが説明中に喋るなし……やべぇ。七宮のパイセン呼びと喋り方が移った。気をつけないと。
……そして、本狂いの藍《文学少女》は部室内にある本棚を見ながら涎を垂らしてる。藍! こっちの世界に戻って来~い!
「それなら、時期が近付いたら準備していきましょうか。簡易的なメイド喫茶とか怪談喫茶できたら面白そうだもの」
簡易的なメイド喫茶と怪談喫茶? なんだそれ? つうか、この秋月先輩。ビッチギャルの七宮と結構話が合う感じだけど……だんだん七宮と同じ種類に見えてきたのは、俺の気のせいだろうか?
「文芸部のだいたいの説明は終わりよ。後、1人は今日、来てないけど……また今度紹介するわね。それじゃあ、これから同じ文芸部として宜しく頼むわね。後輩さん達」
◇
《黎明高校 バス停》
「案外、自由がきいて楽しそうな部活だったな。文芸部」
秋月《《部長》》との初顔合わせも終わり。その後は部室にあった本を1冊借りて、部室を後にした。
なんでも、俺達は部存続の為の名前貸しだけで良いだけで、部活に顔を出しても、出さなくても良いそうな。
「良かったな。緩そうな部活で、これなら毎日顔を出さなくても……」
「文化祭の出し物楽しみだし~! 秋月パイセンとこれからどんどん部活を盛り上げてやるし! 頑張っていこうし! 建宮っち! 藍ちゃん!」
「うん! 凄い凄い! ラノベの最新刊いっぱいあったよ~! こんなの毎日通っちゃうよね。ゆー君」
……なんで凄い張り切ってんだ? この2人。どんだけ文芸部を気に入ったんだよ。
「あ……いや、俺は……そんなに……」
その時だった。俺達の前にガラの悪い連中が現れたのは。
「居たあぁ!! やっと見つけたぞ!! てめえ等!! 許さねえからな!」
「お前等のせいで!! 退学だぞ。退学! どう責任取ってくれんだ?」
「仕返しにやり返し来てやったぞ。この野郎!」
俺が藍と七宮に話しかけようとしたタイミングで、包帯まみれの男達が現れ取り囲まれたんだ。
「ゆー君。この人達って……」
「うわ~! なんだしアンタ等。性懲りもなくまた来たし?」
……不味いな。藍は体育倉庫での事を思い出して怖がり始めて、七宮も先輩達に手を出そうとシャドーボクシングし始めてる。
ここは俺が事を納めないと。大変な事になりそうだ。
「……なんですか? また懲りずに絡んで来たんですか? 先輩達。なら今度は俺達の記憶が完全に消えるツボ押しで忘れさせてあげますよ。建宮マッサージ店秘伝のツボ押しでね」
俺は不適に笑い。ゴキッ!と俺は手首を鳴らすと。
《《元》》先輩不良グループの矯正生態変化マッサージをおっ始めた。




