第17話 モヤモヤするし? うん。するね!
《旧校舎 文芸部室》
「た、建宮君。この筋肉データとか、いりますか? 昨日、資料にまとめたので良かったらどうぞ」
「マジか。助かるわ。ありがとう。白鳥さん!」
「い、いえ……建宮君には長年、ご迷惑をかけたりお世話になってたりしましたから…えへへ///」
あの白鳥さん家での出来事から数日経った。
学校が終わった放課後は、部活が終わ次第すぐに白鳥さん家に遊びに行っている。
何でかって? そこに良質な筋肉データと話が合う友達が居るからさ。
白鳥さんとは、幼馴染みだし別に一緒に居ても変な間違いは起きないしな。
あの壁に張られていた俺の写真も筋肉研究の為に張っていて、俺にはこれぽっちも興味が無いとか赤面しながら言ってたから。
これからは良い筋肉研究の仲間としてやっていけそうだな。
「来週の休み。都内のマッサージ展覧会に行かないか? 筋肉研究に役に立つと思うんだ。人体研究にも役に立つぞ」
「へぁ/// マッサージ展覧会ですか?……建宮君と一緒に? ぜ、是非行かせて頂きます!」
おぉ! そんなにマッサージにも興味があるんだな。
これまでの人生。俺がどれだけ友達にツボ押しや、人体構造、筋肉の良さを説いて趣味を共有しようとしても全力で拒否られてたからな。
共通の趣味を持つ《《友達》》ができて嬉しいぜ!!
「……何でデレデレしてるんだし。建宮っちは~!」
「……白鳥さんとあんなに体をくっ付け合わせて。ゆー君。許さないよ」
不機嫌そうな七宮と藍が俺を見ている気がするが、今は白鳥さんから貰った筋肉データを目を通したい……
「……ふむ。これは、宜しくない雰囲気ね。彩愛。貴女、今日はお家のお手伝いなのでしょう? 早めに帰るって言っていたのに、文芸部に居て大丈夫なのかしら?」
「へぅ?! あ! そうでした。忘れてた……建宮君。それじゃあ、筋肉データの資料渡しましたから。私は帰りますね……また夜お会いしましょう」
「夜に会うだし?!」「夜に会うの?!」
なんだ? なんで七宮と藍はそんなに驚いているんだ? ただ白鳥さんと筋肉データの鑑賞会をするだけだってのにさ。
「おう。また夜にな~!」
その後は家の喫茶店で、筋肉データのお礼に飯を奢る予定だ。
白鳥さんは何故か、俺の人体についてメチャクチャ詳しいから筋肉を鍛えるアドバイザーとして最高なんだ。
ガラガラ~!
白鳥さんが部室から出ていった。
ハハハ。夜が楽しみだな。なんて事を考えていると……
「……それでは尋問するので確保して、2人共」
「はいだし~! 尋問開始だし~!」
「ゆー君。浮気は許さないんだよ~!」
「…ん? 何だ? 2人共。なんで縄なんて持って俺に襲いかかってんだ。アホ~!」
……俺は荒ぶる七宮と藍に捕獲され。お縄で拘束された。
「「「人体大好き仲間?!」」」
「そうだよ! それで白鳥さんと意気投合したんだよ。悪かったな。変わってる趣味でさ」
俺は変に勘違いされて、話が拗れるのも面倒臭かったから。これまでの経緯を素直に話した。
すると皆、困惑した表情を浮かべて始めたぞ。なんでだよ。良いだろう。人体や筋肉の研究。錬成とかする訳じゃないんだからさ!
「ツボ押しに肉体改造に筋肉データ?……意味分かんないし」
「あ~! ゆー君の隠れ趣味だったね。それ」
「その趣味が合う相手が彩愛だったのね。納得したわ」
良かった、良かった。どうにか納得してくれたみたいだ。これで俺も解放されて、夜は白鳥さんとの筋肉談話を迎えられる……
「そうそう。だから俺の拘束を解いてくれよ。今日は『メイド服を着ながらの音読会』で朗読する為の本を決めるんでしたよね?」
「ええ、建宮君と彩愛がイチャコラしている間き私達が殆ど決めてしまったわ。『罪と罰』」
「『虐げられた人びと』」
「『人間失格』だし~!」
凄い選出だった。つうかどの本も暗い話じゃなかったか。
それを『メイド服を着ながらの音読会』で発表するとか重すぎるんじゃなかろうか?
「……いや。楽しい文化祭でそんなチョイスはちょっと」
「では、話し合いにもちゃんと参加しなかった建宮君の意見を聞かせてもらおうかしら? ねえ? 2人共」
「ぐ! それは……」
「はい!」
「そうだし。そうだし。ちゃんと話し合いに参加してほしかったんだし」
「あぁ、ちなみに彩愛は、貴方のお話に耳を傾けながら、ちゃんと私達との話し合いには参加していたわよ。『夜は短し歩けよ乙女』が良いと言っていたわね」
「そ、そうですか……それはすみません」
……たしかに最近は白鳥さんとばかり話していた様な気がする。同じ部室にいながら、ここ数日。七宮や藍とあまり喋っていなかったな。
俺は恐る恐る七宮と藍の方へと顔を向けると。
「……建宮っち。最近全然構ってくれないし」
「私よりも先に帰っちゃうだよ。白鳥さんと一緒に」
メチャクチャ不満そうな顔をしていた。これは不味い。今更になって不味い状況になってると気づいたぞ。
これはちゃんと謝らなくて取り返しのつかない事になる前に――――
「えっと……部活の話し合いに参加せずにすみませんでした。お詫びにファミレス・ジョースターで冬場限定の特大パフェを奢らせて頂くので、許して下さい。文芸部の皆」
……俺は素直に皆に頭を下げて、心からの謝罪の言葉を述べた。
「建宮っち……わ、分かれば良いんだし。今度からは、ウチもぼっちちゃんの筋肉データ? 見せてほしいし」
「ゆ、ゆー君がそこまで言うなら特別に許してあげようかな~! だから、私も白鳥さんのお家に一緒に遊びに行くよ。ゆー君!」
モニュモニュモニュモニュ!!
「……七宮、藍。許してくれるのか? ありがとう……ちょっ! いきなり抱きつかれると。2人の胸が当たって……鼻血出……」
ブシュウウウ!!
「ちょっ! 建宮っち~! しっかりしろし~!」
「ゆー君。どうしたの~?」
俺は興奮のあまり恒例ともなった鼻血を吹き出し。意識を失いかけた。
「うん……皆の蟠りもなくなったみたいだし。良かったわ。彩愛も前より明るくなってくれたし。今年の文芸部は旧校舎の呪いに負けなそうね。フフフ」
秋月部長は不適に笑いながら。誰も居ない場所をジーッと見詰めていた。




