第16話 白鳥さんと秘密の関係
どうして、いつもこうなるんだろうか?
俺はただ白鳥さんの家の場所を親父に聞こうとしただけなのに――――
それは建見マッサージ店の地下室で行われる地下最大級の親子の闘いだった。
その闘いが今まさに決着する瀬戸際だった……
《建宮マッサージ店 地下闘技稽古場》
「親父ッ!! 退屈してはいないかっ?!! 建宮式武術『猛虎』!!」
「あん? この親孝行ものがぁあ!……建宮式武術『便箋建』!!」
ドゴオオンン!!
「つっ! 痛えぇ!! お父さん。今日も俺の負けです!」
「ゆーちゃん。良い技だったぜ。夜食は味噌汁から豚汁作にメニュー変更してやるからな」
バジンッッ!!
仲良し親子はお互いの手を強く握り合い和解する。
建宮マッサージ店の地下、地下闘技稽古場で毎日繰り広げられる仲良し親子による親子喧嘩これにて終了。
◇
俺が家に帰って来た途端。身体を動かすからと、親父に命懸けの闘いを迫られた。
まあ、毎日の事だから別に苦でもない事だし。お互いの本気をぶつけ合って今日も俺が少しの差で負け。
親父は気分が良くなったのか。機嫌が良い。
「ん? 白鳥さん家だと?」
「そうそう。この近所らしいんだけどどこだか分かるかい?」
「そりゃあ。お前、数件隣の家なんだから分かるに決まってるだろう……何だ? 彩愛ちゃんと喧嘩でもしたのか? 珍しいな。お前達、ほとんど同じ場所にいるのにな。ガハハハ!」
ん? 親父の奴。今、なんて言った? 俺と白鳥さんがいつも同じ場所に居るだと? どういう事だ?
「……親父。それってどういう事だい? 俺が白鳥さんと話したのなんて、数日前が初めてだぜ」
「何だ? 外に居る時気づけていなかったのか? 特性か資質なのか分からんが。天性に『姿隠し』というものを身に付ける猛者はいる。彩愛ちゃんもその一握りなんだろうよ……そうか。ゆーちゃんに気づかれない様な。『姿隠し』を彩愛ちゃんはできるのか。武の才があるやもしれんな。ククク……ガハハハハハハッ!!」
…………俺は親父の言っている意味が1ミリも理解できなかった。
だが1つだけ分かる事がある。やっぱり俺の親父は規格外の存在だという事だ。
そして、俺と白鳥さんがいつも同じ場所に居るとはどういう事なんだろうか?
◇
《白鳥家前》
「マジですぐ近くだったわ。うわ~! 全然、気づかなかったな。さっそくスマホ返してもらう為に、インターホンを……」
「あら?……貴方は……もしかして、祐次君? 久しぶりね。まぁまぁ~! こんなに大きくなっちゃって~! なになに? 彩愛にやっと会いに来てくれたの? 良かったわ~! 彩愛からずっと喧嘩してるとか聞いてたから心配してたのよ~!」
この人、白鳥さんに良く似ているな……いや、つうか母さんの店に良く遊びに来る。桃子おばさんじゃねえか。
そりゃあ、親しく話しかけて来るわ。つうか、白鳥さんって桃子おばさんの娘だったのかよ。全然、《《気づけなかったわ》》。
「桃子おばさん。3日振り……白鳥さん。家の居る?」
「彩愛? ええ、居るわよ。でもあの娘、家だと部屋の中にずっと引きこもってるでしょう? パソコンの前で祐次君の動画の切り抜きしてるし。社交的な私と違って内気なのよね? 親子でなんでこんなに違うのかしらね? フフフ」
……相変わらず。陽キャだな。桃子さん。ガンガン来るわ。
そして、俺の動画の切り抜きってどういう事だ?
「は、はぁ……あの白鳥さん居ます? スマホ返してもらいに来たんですけど」
「まぁまぁ~! あの娘ったら。遂に祐次君のスマホまで手を出すようなっちゃったの? ヤバイ娘ね~! ウケるわね」
全然、ウケないわ。つうか実の娘の事なのになんでこんなにノリが軽いんだこの人。
「まぁ、そういう事なら家に上がって頂戴。彩愛の部屋の鍵をこじ開けてあげるわ」
「……白鳥さんの部屋の鍵をこじ開ける?」
《彩愛の部屋》
「彩愛ちゃん~! 愛しの祐次君のスマホを取っちゃったの? 駄目よ。いくら幼稚園の頃からずっとストーカーしてるからって。そろそろ、祐次君と向き合いなさい~!」
「ハハハ……相変わらず。パワフルですね。桃子おばさんは……すげえ」
ギュインンン!!と。桃子おばさんは実の娘の部屋の鍵を小型のチェーンソーで破壊している。
どんな光景だよ。これ……あ、チェーンソーといえば、まだ映画見に行ってなかったな。藍と蘭でも誘って観に行くかな……それと七宮もだな。
「お、お、お母さん! 待って~! 私、別に祐…建宮君のスマホを取ったわけじゃないんです。返すのを忘れていただけで……だから、私の部屋の鍵を壊さないで下さい~!」
「良いから良いから。この際だから、彩愛ちゃんの悪いストーカー癖も祐次君に治してもらいましょう。盗撮なんてやっぱり駄目だもの。ねえ? 祐次君」
「…………いや、俺。白鳥さんに盗撮されてたんですか? 初めて知ったんですけど」
バキンッ!
「あ! 鍵だけ壊せたわね。私も彩愛ちゃんの部屋に入るの8年振り位だから中がどうなってか凄く楽しみよ。レッツ御開帳ね~!」
「いやあぁぁ!! お母さん~! 止めて下さい~!」
桃子おばさんはやっぱりパワフル人だな。娘のお願いなんて眼無視で娘の部屋をこじ開けたぞ。
そして、俺は白鳥さんの部屋の中に入りとんでもない光景を目にする事になる。
「さぁさぁ、どうぞ。祐次君。彩愛ちゃんの部屋にどうぞ」
「は、はい。失礼します」
ガチャッ!
「は?」
俺が白鳥さんの部屋に入った瞬間。開け放たれた扉がいきなり閉まった。
「彩愛ちゃん~! お母さん。やっぱり娘のプライベートにまで踏み込めないから、ちゃんと彩愛ちゃんの話を聞いてくれる祐次君に彩愛ちゃんを任せる事にするわね~! だから、ちゃんと祐次君と話し合うのよ。それじゃあ、私は夕飯作ってるから。お若いお二人で後はどうぞ~! なんちゃって……」
扉の向こうの桃子おばさんの声がだんだんと小さくなっている。どうやら白鳥さんの部屋から離れていった様だな。
「……色々と凄い展開だったが。ここが白鳥さんの部屋か。なんか凄いな……何だこれは?!」
薄暗い部屋に俺の写真が色々と壁に貼られていた。それにパソコンには、体育の授業後に俺が着替える動画が流れている。
「ひぅ! 祐次君。引かないで……下さい。私……その……祐次君の顔も身体も大好きで、幼稚園の頃から『祐次君成長記録』をずっと続けていて……それで、その延長線上で祐次君と四君子君の禁断の関係にもハマってしまったんです。ごめんなさい」
白鳥さんは何故か涙を流して俺に謝って来る。なんでだろうか?
「……これは……凄いデータじゃないか。白鳥さん!」
「へぅ?! 凄いデータですか?」
「あぁ、凄いってもんじゃないぞ。人一人の個人データをここまで詳しく取れるなんて並大抵の事じゃないぞ。凄い……俺の成長記録をここまで鮮明に取ってるなんて。凄い。凄いよ。白鳥さんは……天才じゃないか」
「……私が天才? いえ、私はただの祐次君のストーカーで、変態の犯罪者予備軍なんです~! それを謝っているんですけど……あの……」
「あぁ、今度から俺の側に居てくれ」
「え? それって、私と祐次君が付き合うって事ですか? え?……えぇぇ!!」
白鳥さんが何か叫んでいるが今はそれどころじゃない。この長年の俺のデータは、マッサージや筋トレのレッスンなんかの研究にも応用できる凄いデータだ。
白鳥彩愛さん。この娘は凄い娘だ。ぜひ、今後は俺の近くでマッサージ療法の勉強を手伝ってもらいたいもんだ。
「こんな凄いデータを取れるならなんでもっと早く言ってくれなかったんだよ。君は凄い! 本当に凄いよ。白鳥さん! これから宜しくな」
俺は白鳥さんの両手を掴むと。勢い良く彼女の腕を上下に振り回した。
「へうぅ!! 良く分かりませんけど。ごめんなさい~! 私は罪を償いますから祐次君の側で頑張りますから。これ以上、私を刺激しないで下さ……い…へぅ」
「白鳥さん? どうした? 白鳥さん! なんでいきなり気絶したんだ? 白鳥さ~ん!」
そして、白鳥さんは口から泡を吹き出しながら意識を失った。
桃子おばさんの襲撃の刺激が強すぎたんだろうか?




