第48話 移ろう山に華を捧ぐ(後編)
統合四日目のフィールドに出現した二体目のマインゴーレムを取り囲むは四名の参加者……魔法少女まで加わり五名となる。
マインゴーレムの全身がソリッドのアイアン相当となってから、まだ一割にも満たず、クリスタルと呼ばれる部分が見え始めていた。
五名の内の一人、金髪の女性のナイフによる攻撃はマインゴーレムの弱っていそうな箇所を転々とするような狙い方をしており……それから暫くしてリボルバーから手榴弾を生成する男性が叫んだ。
「うっしゃあ!」
男性が再び百ミリ強の炸薬弾を放てた事実に歓喜を露わにする中、マインゴーレムの胸部に直撃した百ミリ弾はその大火力に見合った爆炎の花を咲かせる。
マインゴーレムは若干仰け反ると爆煙がある内に元の体勢へと戻り、一応の損傷は与えたものの……。
「無傷だとぉっ⁉」
至近距離でやっと気付ける程度の損傷規模では男性のいる距離から視認するのは厳しかった為、リボルバーの男性はそう捉えた。
もっとダメージを与えなきゃ!
そう考えるやビームの少年は大きく前進……それによりビームの威力は向上するが、マインゴーレムは自分にある程度接近した対象に直接攻撃を行う性質がある。
「大丈夫かな……?」
寄って来た少年に手足を動かし始めるマインゴーレムを眺めながら、ファーリーピンクは抱いた不安を声に出す。
マインゴーレムは動作の一つ一つに重量を込める為、直接攻撃は鈍重……だがその手と足は幅広く、迫って来てから回避を始めては逃げ遅れそうなほど。
やがてマインゴーレムはファーリーピンクに狙いを定めてやや赤紫色と透明度を帯びた塊を生成するが、この段階で先端を鋭利に尖らせる成形指定を終えている為右拳がビーム少年に殴打を行う体勢へと移る。
ビーム少年の動きを注視しがちだったファーリーピンクはその右腕の動きを阻害すべくチャージしていたビームを発射……生成された塊が自分へ向かっている事にファーリーピンクが気付いたのは、その次の瞬間だった。
ここでビームの狙いを生成物に変更した場合、先端に当たったビームが分散して地上の仲間に被害が及ぶ事をファーリーピンクは恐れたが、能力の生成物同士ではその現象が実際に起こるのもまた事実。
ビームを放ち終えたタイミングで生成物を回避しようとしたファーリーピンクは右肺辺りの部分を失う事となり、右肩に至っては完全に抉られ、ステッキを握っていた右腕は地面へと落下。
新鮮な傷口から夥しい量の血液が噴き出し、マインゴーレムの拳が届かない高さから立て続けに落ちる赤い色の群れは舗装された地面まで辿り着くと、どれもが大きな音を立てて行く。
遅れてファーリーピンク本体も真下に落ち、出来立ての血溜まりが盛大に撥ねる様を描き、周囲に響き渡る着水音は骨や臓器が損壊する微かな音を掻き消した。
「なっ……!」
リボルバーの男性が真っ先に叫んだが、血肉の音が奏でられた落下地点に一番近かったのは深紅の髪の女性……自分の体に血飛沫が付いていない事を確認すると横たわるファーリーピンクを見下ろしながら発言した。
「こういう時、魔法少女の力で何とかなるのかしら?」
それに対しファーリーピンクは口を弱々しく動かし何とか言葉を紡ごうとする。
「み、ん……な、を……」
お願い、と続けて発する前に気力は尽き、自らが助からない事を自覚していた顔は両の瞳を閉じる事さえ出来ずに生気を失う。
「そっ」
深紅の髪の女性が表情の変化も無しにそう呟く。
一人の少女が変身したのが魔法少女ならば、魔法少女が死亡した時、元の姿に戻るのだろうか。
少なくともファーリーピンクはその姿のまま、血染めの亡骸となった。
「そ、そんな……!」
男性二人は心の中で走り抜ける衝撃が未だに収まらず棒立ちも同然。
ビーム少年はファーリーピンクの元へ半端に歩み寄っていた為、マインゴーレムの行動は生成物を選択……不定形の塊は比較的横長の楕円だった。
金髪の女性は男性二人が狙われぬように自分がいる建物の反対側の位置にあったナイフの群れを次々と突き刺し続けたが……それでもダメージソースは男性二人の方と認識されているようだ。
呆然とする男性二人に迫るマインゴーレムによる生成物を見て、深紅の髪の女性は片手を突き出すやシアンの風を巻き起こし、生成物の進行の阻止を試みる。
生成物は今回、斜め下に向かって来ている為、防ぐとなるとその重量が相手になる状況。
もしもシアンの風が鉄以上の比重となった、この規模の塊を浮かせられるだけの出力があるならば、男性二人に迫る生成物を渦巻く風の中央に閉じ込める事も視野に入れられる。
程なく生成物は減速は疎か浮き上がる様子も無い為、風の出力は充分では無かった様子。深紅の髪の女性にはまだシアンの風を追加し少しでも生成物の進行を遅らせるという選択肢もあったのだが……。
無理みたいね。
そう思うやシアンの風を解除……風の音が無くなりヴォルフェクスのリーダーと銀髪銀瞳の少年が生成物の重さに押し潰され体の中の肉と骨が潰されて行く音が聞き取れる状況に。
直前まで呆然自失していた二人が痛みを感じたのかどうか……その手掛かりとなる表情も見事なまでの損壊を果たす。
他の生成物と同様、マインゴーレムの生成物も命中後は長くない持続時間を得て消滅する為、塊の形に凹んだ灰色の地面に人体だった二つのものが、へばり付く様が晒されるのも時間の問題だろう。
そんな光景が確定した事を認識しながらも金髪の女性は先程のシアンの風がマインゴーレムの生成物を迎撃判定にするだけのダメージを得られ無かった事実を重く受け止めてもいた。
マインゴーレムのクリスタル部分はまだ多くは無い……強度だけでなく重量も増える事を踏まえれば、今の段階で満足に防げていない事は防御不能の段階が迫っているという意味を為す。
「そんじゃ、アタシは退散するわ」
ファーリーピンクの加勢でダメージ効率が上がり、ファーリーピンクという主力が死亡した時点で、マインゴーレムはこの場にいる面子では倒せない相手という考えに至るのは自然な事。
皆を守って欲しいとファーリーピンクから託された遺志を深紅の髪の女性があっさり手放したのには追及の余地がありそうだが……今、金髪の女性を襲っては募らせている感情に怒りは無く、ただ悲しみが溢れていた。
また、目の前であの子を喪ってしまった。
同一人物では無いと理解しながらも共通要素が多過ぎて、亡き少女の事を思い出そうとする感情を抑える事が出来ない。
今やバンドを組んだ三人組がプロキオンのメンバーとして活動していた頃、その一人に自分のメンバーを目の前で殺された時も怒りの感情とは無縁で、嘆きと悲しみ……それによる喪失感が込み上げる余り、泣く事さえ出来なかった。
皆、どうすれば助けられたのか……未だにわからない。
仲間が死ぬと判った瞬間、打開する方法を考えるには時間が足りず、あの場面を何度振り返っても自分の力ではどうする事も出来なかったという結論に至らざるを得ず、後悔する事も叶わない。
「何故……私だけが生き延びているのだろうな」
自分以外の仲間が死に、自分独りが取り残された事実だけが際立つ。
一連の感情を心の内側で渦巻かせ、金髪の女性がそう呟く頃には深紅の髪の女性は遠くまで離れ、金髪の女性は単身、マインゴーレムの目の前にいた。
どうして金髪の女性だけが、生き延びてしまったのか――
エルドーラのメンバー達のディスタンスを眺めれば戦力としては心許ない要素も目立ち、秀でた者がいても真っ先に相手に狙われる理由になるだけだった。
自らの生命の危機に直面した時、それを打破出来るだけの能力が無ければ先程のような事態に陥るがのみ。
金髪の女性が周囲に浮かべていた全てのナイフが地面に落下して行き、乱雑に散らばる様は戦意を失ったかのよう。
今まで世話になった。
金髪の女性が心の中で呟き、
「……いく、か」
憔悴し切った声色でそう発した。
もしもこの場に深紅の髪の女性――エトヴィエラ・ディーヘスが残っていれば拝めただろう。
金髪の女性がマインゴーレムの拳に潰される様では無く、エディーと名乗りがちの彼女が知りたがっていた金髪の女性の能力が揮われる光景を。
「アレックス――」
孤独なエルドーラのリーダーが己の登録名を口にするや高位の能力を発動。
次の瞬間、金髪の女性のすぐ傍にマインゴーレムの背丈にも後れを取らぬ白い姿が出現した。
白い絵の具を雑に塗ったもので体らしきものを表し、頭部と思われる部分は輪の形状を為す……そんな落書きをそのまま実体化させたような、二本腕の何かが。
周囲に散らばっていたナイフは全て消えていた。
・Edwiela Dieheß[エトヴィエラ・ディーヘス]
エディーは愛称名というより「EDDIE」で登録してる。長身で胸もなかなかなのにエルドーラのリーダーと比べるとその全てが下回ってしまう。
深紅のロングヘアにビリジアンの瞳……赤い薔薇を茨込みでそのままカラーリングでもしたかのよう。
・ウムラウトとか
ドイツ語の大文字にはÄ、Ö、Ü……小文字にはä、Ö、üのUmlautの他にßというのがあり、こちらは単語の最後に出現しがち。
äをae、Öをoe、üをue……ßはssと代替表記するというのも一般的っぽい。
・もう少し
なろうでは表示出来るので、こうして後書きに添えましたが名前がドイツ由来だからとドイツ出身とは限りません。肌や目や髪の色同様にその辺も定まっていないのでは? くらいが本作においては丁度いい可能性。
言語の問題に関しては第6話で少し触れた通り参加者同士の間で聞き手側の言語で翻訳されています……要するに「本作ではその辺、深く考えなくていい」。
少なくとも現代よりも結構先の時代ですので。




