第39話 鉱山が移ろえば(前編)
その日のフィールド内で従来の参加者と流入者と呼ばれる統合前のガーデン出身者にとっても、前代未聞の事態が起きていた。
アラーム付きウインドウが表示されている間は、参加者から攻撃が行われるまでマップ内の全てのエネミーが停止し、その間に参加者が内容を閲覧する事を前提とする緊急メッセージ。
表示時間の制限が来る前にウインドウを閉じれば周囲のエネミー……このマップの場合は警備ロボットも動き出す。
ウインドウ内の画像では全体にボリュームが行き渡ったマッシブな人型シルエット以外の情報は無いが、ここにいる四人組は早々と実物を目の当たりにしていた。
「とりあえず、まず私が攻撃してみる」
黄緑色の髪を伸ばし紅茶色の瞳を持つ少女はその能力により生成された大鎌を構えながらそう発言した。
「私の攻撃手段……単発の手榴弾一個だけなんですけど」
そんな眼鏡少女に続き、ベージュ髪にココア色の瞳……肌は褐色の少女が呟く。
「とりあえずスコープ覗いて徹甲弾作っとくね……」
不安がる二人を他所に登録上ではハルピュイアが能力名の少女がその大鎌を投げ付ける。度重なる戦闘で「自身の腕力で鎌を回す」という獲得条件のコストもなかなか溜まっていた。
コストを消費して勢いよく横回転する鎌が体長五メートルでは見積もりが低過ぎる巨大なゴーレム型エネミーの胸部周辺へと迫る。
ハルピュイアの能力者――雨縞瑛美は周辺にあるコンクリートに若干の色味を与えたような岩か何かの集合により構成される、このゴーレムの強度が気掛かりだったが……結果は胸部を砕き、突き抜けた。
「え……?」
眼鏡の少女――史邑霙の胸中でこんなにもあっさりとダメージが通るエネミーがアラーム付きメッセージで取り上げられたのか、という疑問が押し寄せる。
「もしかして、これでコアも破壊しちゃってたり……?」
褐色の少女――弥原細が楽観的な言葉を浮かべる中、四人目である髪も瞳もスカイブルーの少女は様子見……単にこの光景を眺めているだけかもしれない。
「でも最上位エネミーと言えば……」
雨縞瑛美が喜びの感情も無しにそう言っていると……先程鎌で破壊された箇所が塞がって行き、
「ま、再生能力あるよね」
貫いた後はその場で静止させていた鎌を再び回転させて動かす事で、先程砕いた箇所から幾分か下部分を貫くと共に雨縞瑛美の発言の最中に鎌が手元まで戻る。
その箇所も塞がって行くのだが……前述の髪と瞳の色よりもボブカットの髪型の方が特徴として機能する月村学園の制服を着た少女がやや叫ぶ。
「わーお。メタリック!」
見れば塞がった箇所は質感が異なり、塗装前の金属としか思えぬ程だが……ゴーレムが自らの周囲に自身と同じ質感の石の塊を生成したのを見た褐色少女と眼鏡の少女が叫んだ為、雨縞瑛美はその事実に気付かなかった。
「体の一部を飛ばして来た!」
「いえ、これは能力による生成ですね……」
コンクリートの比重を二・三とすれば一辺八十センチメートルの正方形が六十八センチメートル近くの厚みを持てば一トンに達するが、生成された石の塊は一メートルを越える直方体の全体に多少の隆起を与えたような不定形。
コンクリートの比重以上かは然ておき、その生成物を弥原細の能力『タンクバスター』の六十秒段階まで強化された徹甲弾が命中し貫く。
徹甲弾は装甲に穴を開ける為の弾丸なので、弾の口径で綺麗に穴が開いただけだが……それでも迎撃されたという判定なのか石の塊は制御を失ったかのように、その場から落下し始め……程なく雨縞瑛美が発言する。
「ある程度ダメージを与えれば、この攻撃は止まるみたいだね」
「んー、本体狙った方がよかったかなー」
「この手榴弾を届かせる為に、もっと近付くべきか」
特殊要素も無く普通に爆発するように生成した手榴弾を手にする眼鏡少女に雨縞瑛美が言う。
「それ生成したら次が生成出来るまで、どれくらい掛かるの?」
「こうして持ったままの間は生成出来ません……」
「投げた直後は?」
「……やってみます」
史邑霙はゴーレムを狙い易そうな他の建物内部へと移動を始めた。
「結構危ないけど」
雨縞瑛美が声を発すと浮き上がり、ゴーレムの傍まで移動するとその大きな鎌で斬り掛かってゴーレムが動き出すと別の場所へ素早く移動……鎌を振る度にゴーレムのボディは削れ、再生により塞がった部分は金属らしきものに。
「出来ました!」
史邑霙の声が響き手榴弾がゴーレムの膝辺りに届き爆発……至近距離で当たれば何とか被害を出せるという規模だが、爆発箇所は確実に砕け散っていた。史邑霙の先の発言はピンを抜いて投げた直後に次の手榴弾の生成に入れたと言う意。
程なく弥原細が徹甲弾をゴーレムの金属部分に直撃させると、その衝撃が吸収されたかのように徹甲弾は勢いを失い、やがて力無く落下したが……その間にゴーレムのボディに金属部分が若干増えていた事に四人の内誰も気付かなかった。
そんな調子で幾らかの時間が経過し、雨縞瑛美が言う。
「結構金属っぽい部分増えて来たけど……」
「ほとんどのダメージハルさんだよね」
ハルピュイアの能力名だけを明かしていた為、雨縞瑛美をハルと呼ぶ弥原細。
「生成する石も何か色が変わって来たー」
ここまで攻撃に参加していない制服少女が言った通り、ゴーレムが繰り出す石の塊が最初の色と比べ白味を増し、ゴーレムの石部分と金属部分の間に並べれば、色と質感が石から若干金属に寄っているのが判るだろう。
そんな大きな石の塊を能力により生成するゴーレム……狙われた雨縞瑛美は未だコストが充分にある為、難なく回避し、塊は近くにあった建物と激突するが……そんな光景を幾度か眺めていた史邑霙は思った。
威力が上がっている……?
ゴーレムが生成する石の塊の形状は毎回安定はしているものの幾らかの違いはあり、衝突する建物は全て鉄筋コンクリートだが、建物の構造や既存の損壊状況による強度の低下も相まって判断し難い内容ではある。
それを踏まえても史邑霙が直感的ながら抱いた疑念は正解で、ゴーレムが生成している石の塊の強度は現在の石らしき部分と金属らしき部分の割合から求まる平均値に等しい。
要するにゴーレムはその能力により、「自身の全体に分布する強度の平均値と同じ物体を生成」している。
能力の生成物における「強度」とは数値的なもので、実際の物体とぶつけ合った際、硬度のような性質が働くに過ぎないという側面も。
今のところ被害も出さずにゴーレムへの有効な攻撃が続いてはいるが……危惧すべき事態を雨縞瑛美が口にした。
「これ、ゴーレム倒す前に私の体力が持たない……」
雨縞瑛美は生成する鎌さえ自分の腕力で回していればコストを得られるが、その体力には限界があり、現段階でもダメージソースに不安な面がある段階で雨縞瑛美が抜ければ完全に火力不足。
ここらでやめておくのもアリかな……。
そう雨縞瑛美が思った瞬間。
雨縞瑛美へ向けて二本の物体らしきものが飛来し、それは平板なリングの外側が刃になったような「円月輪」と呼ばれる武器で、直径はフラフープくらいだが、幅は並みの包丁を乗せてもまだ余りそうな程の広さ。
直線的な動きでは無く意志を持つかのように動き回る二つの円月輪の対処に翻弄される雨縞瑛美……ゴーレムの間近から足元周辺へと追いやられてしまう。
弾いても再び迫って来るけど……刃の回転が弱まってる。これなら――
雨縞瑛美がそう思った直後、重厚なまでの銃声の群れが鳴り響き続け、その様子を一番目の当たりに出来たのはボブカットの制服少女で、銃弾が命中する度にゴーレムの石部分は次々と砕けていた。
「さーすがに強引だったけど、何とか射線を開けてくれたわね」
「指示通りに動かしたけど……結構疲れる」
雨縞瑛美がゴーレム及び声がした二人からも距離を取った位置まで飛行すると、金縁眼鏡を掛けた女性と褐色肌の少女が並ぶ姿が見えた。
「折角飛ばした武器を乗っ取られないように、しっかり制御するのよ」
そう隣の少女に返す金縁眼鏡の女性は一目でガトリング砲と判る武器を傍らに浮かべていたが……それは彼女の能力が最終強化段階である事を表してもいた。
クララがコストをチャージしている時に手の平の上などに出現する縦長八面体は段階毎に黄緑の輪郭線状態、緑、青、白……そして赤に変化する。
生成したアサルトライフルが出現している間しかベクトル付与を使えないクララだが、緑の段階までは拳銃が生成され、赤の段階で生成されるのが……このヒトの背丈並の全長を誇る六つ穴のガトリング砲。
発射する弾丸のベクトル付与に加え、ガトリング砲自体を常に緩やかだが自由に動かす事が可能……それはベクトル付与では無く、ガトリング砲自体に帯びる能力の為、コストの消費が発生しない。
AKの後に四十七の数字が続く自動小銃の連射速度は毎分六百発だが同じ世紀に登場したM六十一は六千発以上。そのガトリング砲から制御装置部分を省いた上で形状がデザインされた代物がクララの傍で浮かんでいた。
本作は縦書き向きの漢数字表記ですが、後書きではそれが遵守されていないのにお気づきでしょうか……と、いうわけで。
・AK-47
Avtomat Kalashnikova-47と発明した方の名前も入ってる自動小銃で有名処どころかギネス世界記録まで持つ。毎分600発という事は毎秒10発。
・M61 Vulcan
ローマ神話の同盟の神がいますが、商標登録されてるらしく「バルカン砲」と安易には出せない可能性……ただ六つ穴、つまり銃砲身が六つで、これで20ミリ口径だった場合、完全にこの銃と同じ事に。
M61A1がシステム重量は190kgあったそうで、M61A2で約96kgと一気に軽量化……前者が毎分6000発、後者が毎分6600発と一秒間に100発の世界を実現。
・GAU-8 Avenger
アヴェンジャーは戦闘機の兵装で「A-10 Thunderbolt Ⅱ」が代表格なのかも。
毎分3900発と連射速度が落ちているかに見えて、口径は30ミリで七つの銃砲身を持つ。銃本体が281kgでシステム重量が1830kgなので2トン越えに。
・ガトリング砲について
1861年にRichard Jordan Gatlingが発明し、やがてガトリング氏が手掛けたもののみならず、多銃身の機関銃全般を指す言葉になったそうな。なので上記二つの機関砲もガトリング砲になる。
ガトリング氏の名前を避けたいならrotary cannonもしくはrotary autocannonというのがあるらしい……後者の読み方はロータリー・オートキャノン。
・機関銃と機関砲の違い
口径20ミリ以上が機関砲で20ミリ以下が機関銃という指標はあるものの、構造上の違いは無いそうな。
口径が大きければ、それだけ大きな炸薬弾を使う事も出来るので、一発当たりの威力が向上……しかもその弾が連射される。




