第25話 その導きは死香の御旗か(中編)
統合二日目と言える本日、発生したフィールドのマップは古代遺跡。
所々に点在する入り口らしき場所は悉くが浅く、基本的に石畳広がる屋外で戦う事になるマップで、今回は最近の傾向である宝箱の数々も何処かに配置。
このマップに収集アイテムは無く、倒したエネミーの強さと数によってポイントが獲得される為、エネミーは収集アイテムのあるマップより手強いものが出現。
今回のフィールド内で起きた出来事を大小問わず幾つか取り上げるならば……まずはこれだろうか。
そこはこのマップでよく見られる石畳が広がり遮る物の乏しい広い場所だった。
同じ場所でエネミーを倒し続けると続々とエネミーが集まる性質のあるこのマップだが、このように参加者を中心に複数のエネミーが取り囲む光景が生まれ易く、そのエネミーたちはRPGでもお馴染みの顔ぶれ。
ツインテールの少女を取り囲むのは時計回りで、ミノタウロス、オーガメイジ、キマイラ、ミノタウロス、キマイラ、オーガ……そして上位キマイラの七体。
キマイラはコウモリのような両翼を生やした獅子の体と頭を中央に、向かって左が山羊、右がドラゴン。尾の部分は蛇で、その先端には蛇の頭部。
キマイラがスタンダードな配色で一回り大きなライオン程度なのに対し、上位キマイラは二回り以上は大きく、全体的に凶暴さを感じる配色だった。
取り囲まれるツインテールの少女は透明度を湛えたエメラルドカラーの髪飾りをしているが、何かしら色味のありそうな石畳の地面は今、辺り一面に炎が広がっていた。
単純な緑色では無く、エメラルドのように深みのある青緑を帯びた碧色の炎が。
この碧の炎を生成出来るエネミーは七体五種の中に存在せず、少女が戦うようになってから碧の炎は現れた。
そんな少女の髪はヨーグルトのような質感を放つ白さで、それが途中からブルーベリーソースの赤紫がよく染み込んだ際の色へと変わるグラデーションを為す。
ツインテールの房部分だけ見れば白が七割前後と言ったところ。オレンジ色の瞳を持つ少女の表情に恐怖の色は無い。
また碧色の炎が生成され、その一部が意志を持ったかのようにオーガメイジに襲い掛かったかと思うと、その碧色の炎は従来の炎の色に戻り、迫って行った。
オーガメイジ自体には能力の生成物に対して防御力を向上させる能力が常時付与されているが、炎を浴びると同時に起きた爆発は大規模で、同様の変化と爆発を為す炎が他の六体にも次々と浴びせられた。
その間、碧色の炎の一部が蒸発でもするかのような挙動を見せては減って行き、少女の能力の生成物による武器と思われるエメラルドのナイフが何本もエネミーの群れに降り注ぎ、ナイフが防御される度に碧色の炎は一気に量を増していた。
少女のツインテールを結ぶエメラルドカラーの髪飾りが樹脂製に過ぎないのに対し、エメラルドの武器群は水晶のような透明度と反射具合を見せていた。
上位キマイラが前方三つの頭部による口から一斉に銀色の炎を吐き出し、能力による生成物へのダメージ増加とその補正が適用されない場合の威力も強烈の域……このブレスが少女に直撃すれば無事ではいられないだろう。
次の瞬間、少女は包囲網の外側におり、エメラルド武器群の本体とでも呼称したくなるような大振りの剣の腹が銀色のブレスを受け止めていた。
今少女がいる場所は先の瞬間まで碧色の炎があり、それが消えるかのように少女はこの場所に現れた。まるで碧色の炎と位置を交換したかのように。
人の手で持つのは現実的ではない程のサイズを誇る大剣が銀色の炎を浴びる中、周囲に碧色の炎が次々と発生して行き、広がった碧色の炎が一斉に通常の炎の色になるや家屋一つ吹き飛ばすだけで済むとは思えない規模の大爆発が起こる。
既にミノタウロス、オーガ、オーガメイジは撃破され、二体のキマイラも瀕死の様子……すぐに残った大剣が三つに分かれ三体二種のキマイラ目掛け突撃し、上位キマイラが獅子の前足で剣を弾く頃、他のキマイラ二体は撃破されていた。
再び碧色の炎が溜まればこの上位キマイラが撃破されるのは明白。
暫くして、戦闘が長引けば新たなエネミーも寄って来るこのマップにしては短い戦闘時間で七体のエネミーは全て討伐されていた。
一連の碧色の炎が前述の割合で白と薄い赤紫に掛けてグラデーションするツインテール少女による能力なのは最早言うまでも無いが……まさに『有色の炎使い』と形容するに相応しい光景だった。
同じフィールド内ではあるが場所も時間も異なる、更なる光景――
『ハルピュイア』と『タンクバスター』が登録名となる二人の少女が全身が赤く染まった「レッドミノタウロス」を相手に交戦していた。
「徹甲弾出来た! 離れてー」
「おっけー……この赤ミノ、動作速いからさっさと倒したい」
発射態勢の整った弥原細の射線を空けるべく飛行能力による空中での横移動を見せる雨縞瑛美の姿があった。
何となく遭遇し、何となく共に行動しているだけの二人が相手するレッドミノタウロス……通常のミノタウロスはその体躯と筋力で繰り出す攻撃は脅威だが、両手で柄を持つ大斧による一撃が終わると、そのまま停止する性質がある。
攻撃後硬直とも言えるその性質がレッドミノタウロスには無く、強烈な斧による攻撃が次々と繰り出され、大きな動作をした際の硬直時間も存在しない。
ゲーム参加による強化状態のタンクバスターが徹甲弾を完成させるまでの時間は六十秒で、三十秒段階の時より徹甲弾自体が強化されるが、銃弾サイズに至っては二段階強化されている。
そんな徹甲弾はレッドミノタウロスの大胸筋左側辺りに大穴を開けたが……ミノタウロス同様、体の損傷時に頭部の大部分が無事ならば欠損した条件で活動する。
「うわー! 頭狙い損ねた!」
「……また一分、何とかするね」
雨縞瑛美が一発じゃ無理か、と言いたげな表情を見せる中、再び対物ライフルのスコープを覗き始めた弥原細が叫ぶ。
「あー……ホーミング機能欲しい!」
その後、二発目も妙な箇所を抉り、三発目の強化徹甲弾の準備が整いそうになった段階に放たれた雨縞瑛美の鎌による斬撃により、撃破分のダメージ蓄積を与えられたレッドミノタウロスは撃破された。
次の光景は一幕という言葉では片付けるのは難しいかもしれない。
統合一日目は自室でのリハーサルや準備に費やし統合二日目の今日は試しに決行した路上ライブで待望の新メンバーを迎える事となったマイとサリーは浮かれていたのだろう。
今後の活動資金集めにもなると張り切ってエネミーを短時間で倒し続けたが……討伐型である今回のマップでそれを一箇所で行うと『エリアランク』が上がり続けてしまう。
この古代遺跡マップは広い場所が多く、その区域に設定されたエネミーの強さと数と発生頻度の内容が「ランク」であり高ランク状態とは前述の三要素が最初よりも上昇した状態を指し、ランクは非戦闘状態が長時間続くまで減衰しない。
ランクの初期値は場所によって異なるが、ランク上昇の際の三要素の上がり方にも偏りが設けられており、ここは数、強さ、発生頻度の順だった。
その条件下で高ランク帯に出現候補となるキマイラが五体も出現しているのは、余程頑張っていたのだろう。
他にもミノタウロスが六体いるが……この状況を困難にしているのは現在三体いる悪霊が宿る事で動く大きな剣のエネミーの存在。
このマップで最低ランクのエネミーは遺跡内を徘徊する人が持てる程度に大振りの剣で、前述の剣のエネミーと比べれば大幅に小さい。悪霊宿る剣が爪楊枝ならばこの剣のエネミーは画鋲の針部分二本半くらいの比率関係になるだろうか。
この巡回剣は悪霊剣の能力により生み出された小型の分身だがポイントの対象になり、悪霊剣はこの剣を次々と生み出し速度を伴って自在に操る。
元々このエリアは悪霊剣が出現し易かった為、他のエネミーの対処に追われている時に悪霊剣が出現し、剣を生成し発射して来ると言う事態に陥り易い。
戦況を見てみれば、悪霊剣が続々と放つ巡回剣の猛威を捌き切れずに今日ギターを掻き鳴らしていた右腕を根元から断たれたサリーと、それを見て叫ぶマイの姿があった。
「サリー!」
マイの能力は段階強化型で今は初期状態の為、威力はあるが一発しか撃てない。
しかし、三体いる悪霊剣がそれぞれ生成した三十本近くの剣の群れと、三体のキマイラ即ち九つの頭から吐き出される炎のブレスが二人を一斉に襲い掛かり始めたこの状況……元より射撃系攻撃一発でどうにか出来る状況では無い。
他にもいるエネミーの中にはまだ二人の存在に気付いていないが、参加者の死骸にまで反応する事は無いので、この場に留まるか徘徊を始めるかだろう。
三人になったし、いい加減ユニット名を決めなきゃ。
そんなマイの想いが儚く消え去りそうな場面は更に進み、次なる光景が繰り広げられた。
マイとサリーを包囲するように迫っていた、三十本近くの剣と九つの炎からなるブレスが突然停止するや石を思わせるような灰色と質感を帯びて行き……程なく、それぞれの全体に亀裂が走り、砕け散った。
石化、した……?
そうマイが唖然とした次の瞬間、マイから見て正面にいる二体のキマイラを始めとしたエネミーの群れ……それらが金色の巨大な蛇の胴体のようなものに一思いに薙ぎ払われるや、その胴体の先端が背後に残ったキマイラ一体へ向かう。
先端の造形は鋭利な突起だった為、大蛇では無く鞭だという事が判明……獅子の頭部から胴体を突き抜けるまで串刺しになったキマイラだが即死には至らず。
事前に発射されていたのか人一人包むだけでは済まない規模の銀色の液体の塊が悪霊剣の一体に命中し、やがて他の二体も同じ銀の水を浴びる事となる。
前述の通り、この巨大な剣は悪霊が宿る事で動いてる為、剣を破壊するのではなく悪霊を倒せるだけのダメージを与えれば撃破可能。
このエネミーに限らず、霊体系やエネルギーの集合体のようなエネミーは通常の剣などでは攻撃出来ないが、能力の生成物である剣や武器ならばダメージが入る。
え……?
右腕を失ったサリーの元まで辿り着く間に起こった光景にマイが圧倒されていると、女性の声が響いた。
「やっぱりマイとサリーだ!」
ピンクゴールドの髪をツーサイドアップにした少女の手は大蛇並みの太さの金色の鞭の柄を握っていた。鞭が見た目通りの金属製だったとしても、能力の生成物であるこの鞭には使用者とその体が認識する重量を軽減する効果が働く。
先端付近と根本付近をその段階の元の長さだけ伸ばす事も可能だが、自在に操れるこの金色の鞭は手から離れても操作出来る代物。
「アン! あなたは一体……?」
頭の中が混雑しながらも絞り出したマイの言葉に対し「アンです」という返事を聞き取ったマイだったが……覚えた違和感の原因が一つの単語を発したような口調だった事に気付く余裕は今のマイには無かった。
ツインテールの少女が発すべきだった情報を全て盛り込み、厳かな口調に変換すれば以下の通りとなる。
――私はクララ様をリーダーに組織されたグループ『ルプサ』の第二序列『アンデス』。
そんな「アンデス」を登録名に持つ少女――アンジェラ・フレッカールは周囲のエネミーたちを一掃すべく攻撃の手を緩めなかった。




