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騎士様

 

 孤児院の皆と団欒(だんらん)を過ごしていると、フォルオの様子を見に行っていたリオンが戻ってきた。

 彼の背後には心なしか身を小さく縮めたフォルオがついてきている。

 出禁のことを気にしているんだろう。けれどリオンがああして連れてきたってことは、彼も色々と愛想を尽かして諦めたってことだ。


「シィラさん、先生は?」

「もうお帰りになられましたよ」

「そうか。俺も少し話したかったんだけど……お前が離してくれないから」

「えへへ、すいません」


 恨み言を言うリオンがフォルオを睨むが本人はどこ吹く風である。


 二人が来る前に、フォルオが用意してくれた焼き菓子は完売してしまった。ほとんどが子供たちの胃袋に収まったわけだが、それを聞いてフォルオは嬉しそうだ。


 おいしいお菓子に満足した子供たちは、セシルが帰った後に外に遊びに行ってしまった。ミルも一緒に遊びに行っておいでと聞かせたけれど、どうにも眠いらしく俺の肩の上でまどろんでいる。


 かわいい妹の姿に和んでいると、シィラが空になった籠を片付けに来た。目が合ったところで、そういえば聞きたいことがあったと思い出す。


「そういえば、あの先生とはどういう関係なんだ?」


 シィラはどうにも彼女と仲が良いように見えた。俺の質問に彼女は手を止めて椅子に座ると答えてくれた。


「セシルさんとは長い付き合いなの」


 なんでも彼女とは十五年ほどの付き合いになるらしい。


「あの人と初めて会ったのは……私が六歳の頃ね。父のことでとても迷惑をかけてしまって」

「父親?」

「私の父は半魔だったの。もう亡くなっちゃったけどね」


 その話を聞いて驚いたけれど、なくもない話だ。

 けれど昔の話だからか。彼女の語る話には悲壮感がない。


「それで、色々あって……何か恩返しがしたくて。それで皆のお世話をしてるってわけ」


 半魔しかいないこの場所にどうして人間の彼女がいるのか。不思議に思っていた。こんな理由があったとは。皆色々と苦労しているみたいだ。


「でもシィラさん、それ理由の半分だろ?」

「えっ!?」

「本当は騎士様に褒められたいからだろ」

「ばっ、何言ってるの!? へんなこと言わないで!」


 茶化すようなリオンの一言に、シィラは真っ赤になって否定する。けれど傍目から見れば、動揺が筒抜けだ。

 それでも少しだけ嬉しいのか。口元がにやにやと緩んでいる。


「でも俺、シィラさんの気持ちわかるよ。あの人カッコいいもんな」

「……誰ですか?」


 そこで話を聞いていたフォルオが横から尋ねる。

 この孤児院に足繫(あししげ)く通っているらしいフォルオが知らないなんて意外だ。


「たまに顔を出してくれるんだ。名前は知らないけど……シィラさんは騎士様って呼んでる」

「へえぇ」


 一つ頷いて、フォルオはだったら――と続ける。


「僕と同じですね」

「馬鹿だなあ。お前とは天地の差がある」

「あっ、なんでそんなこと言うかなあ! 親友なら僕に忖度してくださいよ」

「事実を言ってるんだ」


 忖度しろなんて、騎士ならそんなことは言わないと思うんだけど。

 なんて胸中で思っていると、フォルオの意見を無視してリオンがシィラへと投げかけた。


「なあ、シィラさん。あの人とフォルオ、どっちが強いと思う?」

「うーん……正直に答えちゃうと、フォルオもうここに来なくなっちゃうかも」

「ええっ、僕それなりに剣の腕には自信があるんですよ……」


 酷いといじけているフォルオを無視して、二人は楽し気に会話をしている。蚊帳の外に出されてしまったフォルオは、おずおずと俺の傍に寄って絡んできた。


「酷いと思いませんか?」

「まあ、別に気にしなくてもいいんじゃないか?」

「そういう問題ではないんです。このままでは僕の沽券に関わります!」

「そんな大げさな」


 すっかり自信を無くしてしまったフォルオはいじけてしまった。

 そんな彼を俺の肩に乗っているミルが、慰めるように鳴き掛ける。


「二人だけですよ。僕にこんなに優しくしてくれるのは」

「……はあ」


 いじけたフォルオの相手は俺の手には余る。

 けれど、監視対象でもあるしずっといじけられるのも面倒だ。


「俺はフォルオもすごいと思うけどナァ」

「……本当ですか?」

「う、うんうん。本当」


 実際に手合わせしてみてフォルオの実力は知っている。彼の剣の腕が相当なものであることも。現に俺は手も足も出なかった。

 でもそれはリオンだって知っているはずだ。そんな彼がにべもなくあんな事を言うんだ。正直気になってしまう。


「気になるなら手合わせしてみればいいんじゃないか?」

「えっ?」

「たまに顔出してくれるなら出来なくはないだろ」

「……そうですね」


 俺の提案にフォルオは一考すると頷いた。

 なんだかやる気になったみたいで、二人にあれこれと聞きに行ってしまった。


 ひとり残された俺は、フォルオの騒音で目覚めてしまったミルの相手をしながら穏やかな時間を過ごすのだった。



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