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孤児院の日常

 


 ミルと共に孤児院へ向かうと、教会の入り口でアリシアが待っていた。


「おじちゃん、ミルと遊んでもいい?」

「お……っ、あまり遠くに行くなよ」

「うん、わかった!」


 ミルを頭の上に乗せると、アリシアはかけていった。


「せめてお兄さんが良いんだが……」


 それを幼い子供に言い聞かせるのは格好がつかない。


「あっ、兄ちゃん」


 独り密かに凹んでいると、教会の扉を開けてキーンが顔を見せた。

 なにやらデカい籠を被った状態で、俺の傍まで寄ってくる。


「しばらくここに住むって本当?」

「ミルはそのつもりで頼んだけど、流石に俺まで世話になるのは悪いだろ」

「なあんだ」


 残念そうに肩を落とすキーンは、昨日城下町で会った時よりも大人しく見える。

 初対面だったし警戒していたから仕方ない。


「お前は遊びに行かないのか」

「洗濯物取り込んでこいって頼まれたから、これ終わってからじゃないと行けない。でもアリシアと遊ぶの、面白くないんだ。怪我しちゃ危ないから木登りとか探検も出来ないし退屈だよ」


「だったら遊ぶ代わりに勉強を頑張ったら良いんじゃないか?」


 聞こえた声に、キーンは脱兎の如く飛び退いて俺の後ろへと隠れる。


 扉を軋ませて、姿を現わしたのはリオンだった。


「やだ! それだけは絶対やんないからな!」

「勉強は大事なんだぞ。字の読み書きも出来ないようならこの先、ものすごーく困る。先生だって言ってるだろ。馬鹿だと生き辛いだけだって」


「……キーンならもう居ないな」


 リオンの説教が始まった瞬間には、俺の背後から音も無くキーンは消えていた。


「あいつ、逃げ足だけは速くなりやがって。このまま育ったらろくな大人にならないな」

「色々と大変なんだな」


 ここの子供たちと比較しても、ミルは大人しい子だ。

 そんなに手が掛からなかったし、リオンのような苦労もしなかった。

 きっとその分、ミルには不自由をさせてきたのかもしれない。


「シィラさんから聞いた。王都で用事があるんだってな」

「ああ、それが終わるまでミルを預かっていて欲しいんだ」

「俺も構わない。一人増えたところで苦でもないし、ジェフの妹はあの二人よりも手が掛からなそうだ」


 笑って答えたリオンに安堵する。


 昨日、彼を怒らせてしまったから少しだけ気まずかった。

 リオンの様子を見るに既に気にしていないようだ。


「助かる。世話になりっぱなしも悪いし、俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

「遠慮無くそうさせてもらうよ」


 狩りに出てくると別れたリオンと入れ替わりで、説教から逃げ出したキーンが戻ってきた。


「手伝いは良いのか?」

「今からやるよ。兄ちゃんに頼みたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「兄ちゃん、王都に行くんだろ。フォルオ兄ちゃんに会ったりする?」


 キーンの話だと、どうやら俺よりもフォルオに用があるみたいだった。


「あいつに何か用でもあるのか?」

「うん。昨日アリシアのプレゼント買えなかったから、フォルオ兄ちゃんに頼んだんだ」

「なるほどな」


「でも、シィラさんに怒られてたから」

「出禁になったって言ってたもんな」

「本当は俺が選びたかったんだけどなあ」


 口を尖らせて残念がるキーンは、石ころを蹴り上げていじけている。

 そうさせてやりたいが、現状難しいだろう。

 キーンもそれを分かっているからフォルオに頼んだんだ。


「仕方ないけどね」

「……そうだな」

「フォルオ兄ちゃんだけだと不安だから、兄ちゃんも選ぶの手伝ってやって」

「わかった」


 俺もやることはあるのだが、それは言いっこなしだ。


 唯一問題があるとしたら、プレゼントの選定が俺とフォルオに務まるのか、ということ。






「――というわけだ」

「なるほどなあ。キーンも抜け目ないですね」


 キーンからのお願いを伝えると、フォルオは苦笑を零した。


「見回りはもう終わったのか?」

「はい。ついさっき戻ってきたところです」


 詰め所の中でフォルオと話していると、なぜだか居心地が凄く悪い。


 それもそのはず。

 先ほどから俺たちをジロジロと見つめる視線が何処ともなく注がれている。

 随分なおもてなしだ。


「フォルオ。お前、暇してるんだったら備品の補充に行ってこいよ」

「良いですよ」


 同僚からのお願いにあっさりと承諾したフォルオは、得に気にも留めていなさそうだった。


 けれど、あいつらだって人のことは言えない。

 仕事らしいことをしているようには見えないし、奥で椅子に座って駄弁っているだけだ。


「忙しそうには見えないけどな」

「はあ? 何だお前は。部外者には関係ないだろ」


 見たままを言葉にすると、安い挑発に乗って突っかかってきた。

 隊員といっても、こんなんじゃたかが知れていると言うものだ。


「僕なら大丈夫ですから、気にしないで下さい」

「……そうは言っても」

「こんな所で時間を無駄にするのは得策とは言えませんよ」


 フォルオは良いだろうが、俺の気が収まらない。

 そんな俺の気持ちも汲んだ上で、彼は気にするなと言った。


 納得はいかないが、ここはフォルオに従うことにしよう。



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