昨日の敵は今日の友②
そうなると、フォルオとの何かしらの接点を作る必要があるわけだ。
監視と言うからには出来るだけ傍に居た方が良い。
けれど、彼と関わるとろくなことにはならない。
昨日のことでそれは分かりきっているし、方々から釘を刺されている。
本当なら御免なのだが、ミルの為を思えば堪え忍ぶしかない。
「――そうだ!」
いきなり叫び出したかと思うと、フォルオは勢いよく立ち上がった。
「な、なんだ?」
「全ての問題を解決する秘策を思い付いたんです」
「……秘策?」
随分と自信たっぷりに宣言するフォルオに、半信半疑で尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「ジェフの用事を終わらせるのが一番ですけど、それは難しい。だったら、いっそミルをこちらに連れてきたら良いんじゃないですか?」
「……お前、俺の話を聞いていたか? それが無理だからこうして悩んでいるんだ」
俺の文句にフォルオは分かっていますよ、と即答した。
「僕が思うにミルはジェフに置いて行かれたのが嫌だったんじゃないですか? 留守番って退屈ですし、お兄ちゃんが大好きだったら尚更、寂しいんでしょうね」
「フォルオは兄弟でもいるのか?」
「いませんよ。でも子供たちの面倒は見ているのでそうじゃないかなって思っただけです」
乙女心は分からないと言っていた奴が、やけに確信を突いてくる。
どうやら子供心は分かるらしい。
「そこで僕からの提案なんですが、ジェフは用事が済むまでここに滞在する予定なんですよね。それが終わるまで孤児院に預けてみてはどうですか?」
「良いのか?」
「聞いてみないと分かりませんが、たぶん良いんじゃないかなあ。アリシアも喜ぶだろうし、試しに交渉する余地はあると思います」
……でも、となぜかフォルオはしょぼくれた顔をした。
「僕はついて行けないので、ジェフだけで行ってきて下さい」
「意外だな。てっきりお前は言われなくても着いてきそうなものなんだが」
「本当ならそうしたいところなんですけどね」
深く息を吐いたフォルオはなぜか物凄く落ち込んでいるように見える。
職務中だし勝手に抜けてはまずいのだろうが、それにしてもこの落ち込みようは大袈裟すぎないか?
「そんなに行きたいなら見回りが終わるまで待っているけど」
「いいえ、職務のことはどうでも良いんです」
治安維持を生業にしているのに、その発言はどうかと思う。
「昨日ジェフが帰った後、シィラさんに急用でない限り顔は出すなと出禁を言い渡されてしまって」
「ああ、それで」
そんなに落ち込んでいるという訳か。
「まあ、妥当な判断だろうな」
「でもそうなると困るんですよ」
「なぜだ?」
「ほら、僕って友人がい……少ないじゃないですか」
「自覚、あったんだな」
言い淀む様子を見るに認めたくはなさそうだが、実際にそうらしい。
「同僚も僕とは関わり合いになりたくないようですし、リオンくらいしか相手にしてくれないんです。だから、出禁なんて言われたらとても困るんですよ」
付き合いたくない同僚の気持ちも理解出来る。
話を聞いてると、こいつがとても可哀想に思えてきた。
「そうは言ってもこればっかりは仕方ないんじゃないか? 要は迷惑してるってことだろ」
「……そうですね」
「まあ、多少は可哀想だとは思うけど」
「そうですよね!」
俺の発言に、フォルオはさっきまでの落ち込みようが嘘のように元気になった。
いきなり力強く肩を掴まれて、危うく噴水の中に背中から落ちかけた。
「な、なに」
「というわけで、ジェフには僕と是非仲良くして頂きたい」
「……意味が分からない」
こんな話、昨日もしたように思う。
「そもそも、お前のことを嫌っているならこうして話したりはしてない」
確かに関わると面倒を被ることもあるだろうが、それを差し引いてもフォルオは俺みたいな人間を目にしても目の色一つ変えない。
半魔に対する差別や迫害を俺はあまり知らない。
いや、そう言ってしまえば語弊がある。それを向けられたことはあまりない。
けれど、そんな俺でもこうして普通に接してくれる彼の傍は妙に居心地が良く感じてしまう。
「そ、それってつまり」
「わざわざ頼むような事でも無いだろ」
「……っ、やった!」
素っ気ない物言いだったが、それでもフォルオは嬉しそうに破顔した。
あまりのはしゃぎっぷりに見ている俺も恥ずかしくなる。
フォルオからの仲良くしてくれという要望は俺としても願ったり叶ったりだ。
今しがた、どうやって近づこうか悩みあぐねていた。
その解決法を彼の方から提案してくれたのはありがたい。
もちろん損得勘定だけで承諾したわけではないが、結果としては十分だろう。
「それじゃあ僕は職務中なので、これで失礼します」
また後で、と手を挙げてフォルオは見回りへと戻っていった。




