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昨日の敵は今日の友①

 

 結局、ミルとは和解出来ないまま俺は王都へ向かうことになった。


 一生会えないわけでもないし、そんなに落ち込むことはないとボスは言ってくれたがそんな単純な話ではない。


 今までこうした兄妹喧嘩はしてこなかった。

 ミルが聞き分けの良い子だったから、我儘をあまり言わなかったっていうのもある。


 だから、今回こんなことになってしまって内心物凄く落ち込んでいるわけだ。


 ボスに与えられた任務はこなさなければならないが、正直言ってそれどころではない。


「……はあ」


 城下町の噴水広場。水飛沫を上げる噴水の淵に腰掛けて、出るのは溜息ばかり。


 元々の原因は任務中、ミルを一緒には連れて行けないってところに端を発している。

 だったら、さっさと終わらせて戻れば良いんだが、問題はそう単純ではない。


 結果的にミルを怒らせてしまったことが兄としては一番まずい。


 聞く耳持たずであんなに怒っているミルは初めてだ。

 どう機嫌を取れば良いかまったく分からない。




「どうかしましたか?」


 いきなり聞こえた声に顔を上げると、そこには昨日見た顔が俺を覗き込んでいた。


「……なんだ、フォルオか」

「あれ、なんだか元気無さそうですね」


「お前はなんでこんな所にいるんだ?」

「それは僕の台詞ですよ。ジェフこそ、どうして一人でこんな所にいるんです?」


 ――ちなみに僕は見回り中です。


 元気よく答えたフォルオは、当たり前のように俺の隣に腰を下ろす。


 こんな所で油を売っていて良いのかと声に出そうになったが、そこは飲み込んだ。


「昨日、ミルと喧嘩したんだ」

「あんなに仲良さそうだったのに。どうして」

「ミルを連れて行けないと言ったら機嫌を損ねてしまった」

「なるほど……謝ったら許してくれそうならサクッと謝るべきですけど」


 フォルオの提案に力なく首を振る。


 そもそも俺の話なんて聞きたくもないはずだ。

 数時間前、出てくるときも声を掛けたが取り合ってはくれなかった。


「いや、もう喧嘩をしたことは良いんだ。問題はどうやったら機嫌を直してくれるか。それが分からない」

「乙女心は難しいですもんね」


「フォルオはそういうの、詳しいのか」

「……僕がそういう男に見えますか?」

「いいや、まったく」


 一見、紳士的で優しそうには見える。けれど、それは上辺だけだ。

 昨日振り回されたから、否が応でもそう思わざるを得ない。


「土下座でも何でもして許しを乞うしかないかなあ」

「恥も外聞もないですね」


 それだけ切羽詰まっているんだが、たぶん他人には理解されない。

 その証拠に、フォルオは呑気に笑っている。


「そもそも、ジェフはなぜここに居るんですか? どう見ても観光ってふうには見えませんけど、何か用事でも?」

「まあ、少しな」

「機嫌を直してもらいたいなら、用事を済ませて帰ってあげた方がここで悩んでいるよりも早い気がしますよ」


 フォルオの回答は百点満点だった。


 確かにそうなのだが、俺の用事というのは結構ややこしい。


 アルバートにボスから預かった封書を渡す。

 それと、目の前に居るフォルオの監視。


 どちらもすぐ終えられるものではない。


 アルバートに渡すのだって、何処の馬の骨かも分からない人間からは受け取ってくれないだろうし、それ以前に接触するのも骨が折れる。


 よくよく考えてみればかなり難易度が高いミッションだ。


「そうしたいのはやまやまなんだが、すぐ終わりそうにもないんだ」

「……そうですか」

「でも、そうだな。出来るだけ早めに片づけてミルの所へ戻ることにする」


 ここでぐずぐずしていても埒があかない。

 ちょうど、この問題を解決する近道がすぐ傍に来てくれたんだ。これを逃す手はないだろう。


 ボスに任されたこの任務。成功の鍵は、このフォルオをいかに上手く使うかだ。

 なんとか取り入って、さっさとアルバートに封書を渡してしまおう。


 そう考えると、昨日フォルオに関わってあんなに苦労した出来事も、結果的には良かったと思える。




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