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救出作戦

 

 三人を見送った後、早速迷子のアリシアを探すためリオンと二人で外に出向く。


「そのアリシアって子の行方に心当たりはあるのか?」

「アリシアは言いつけはきちんと守る良い子だ。遠くに行くなと言ってあるから村の外には出ていないはずだが……門限を守らなかったあたり、一人遊びに夢中になっているんだろう」


 リオンの証言から、捜索範囲はそれほど広くなさそうだ。

 手分けして探せば陽が落ちきる前には見つけられるはず。


 二手に分かれてひとしきり教会の周りを探ってみたが、姿が見えない。

 これにはリオンも頭を抱えている。

 もうすでに薄暗くなりつつあるし、タイムリミットは近い。


「上から探そう」

「暗くなってしまったけど見えるのか?」

「俺は人より眼が良いんだ」


 得意げに告げて、手慣れた様子でリオンは木に登る。

 しばらくして上から声が聞こえてきた。


「……村の入り口に灯りが見える」

「それは、誰か居るってことか?」

「招かれざる客ってところだな。様子を見に行ってみよう」


 教会付近にはアリシアはいなかった。探すなら村の方が正解だ。


 身軽に木の上から降りてきたリオンに賛同して村の入り口へと向かう。


 道中の並木を抜けると、そこでやっと暗闇に浮かぶ灯りに気づく。

 あの灯りは松明によるものだろう。

 数は四つ。こんな時間に、しかも廃村に訪れる人間なんてたかが知れている。


「おそらくこの辺りを荒らし回っている夜盗の一派だろう。たまにああやって立ち寄ることがある。目を付けられたくはないから見つけても無視をしていたが……そうも言っていられない」


 険しい声音で話すリオンはじっと前を見据えて目を逸らすことはない。


「あれは……アリシアだ。ジェフの探しているものも一緒らしい。周りの人間はどう見ても友達って間柄には見えないな」


 月明かりだけの闇夜の中でリオンは事も無げに断言した。


 目を凝らして見てみると、それらしき影が松明の灯りに照らされて見えた。

 どうやら眼が良いと言っていたのは本当らしい。


「あの人数を蹴散らすのなら俺一人でも余裕だが、あの子を人質にでも取られたら厄介だ」


 ロベリアならこんな状況でも対処出来るのだろうが、隠密行動なんて俺には無理な芸当だ。

 遠距離からの不意打ちも不可能。現状、出来る事といえば二手に分かれての奇襲くらいか。


「出来ることなら穏便に済ませたいところだけど、あいつらが話し合いに応じるとも思えない」

「ここにフォルオが居なくて良かったよ」


「……なんとなく言いたいことは分かる気がする」

「そんな台詞が出てくるってことは、ジェフもあいつと関わって面倒を被った口だろう。災難だったな」


 労いの言葉にスラムでの出来事を思い出す。

 リオンの憂慮は的を射ている。ここにフォルオが居たのなら、一悶着あったに違いない。


「それでだが……ここは二手に分かれよう。俺が陽動で動くからジェフはアリシアの保護を優先してくれ」

「構わないが、大丈夫なのか?」


 俺なら荒事も慣れたものだから問題はないが、リオンもそうだとは思えない。

 見たところ武器だって持っていないし、四人相手には分が悪そうだ。


「こう見えても腕っぷしには自信があるんだ。夜目が利く俺の方があいつらの相手は適任だよ」

「……わかった」

「そうだ。代わりにこいつを預かっておいてくれ。穴だらけにしてシィラさんに怒られるのは御免だからな」


 リオンは着ていたコートと兜を脱ぐと俺へと渡す。


 月光が差す夜の闇の中、露わになった姿に固唾を呑む。


 兜の下には四つの目と、鳥のような嘴。

 露になったコートの内側を見て、先ほど鐘楼を見上げた時に舞い降りてきた青い羽毛はリオンのものだったのだと合点がいく。


「それは……」

「驚いただろう。俺みたいな半魔はこの国では見ないし当然といえば当然だな」


 全身が柔らかな羽毛で包まれた身体は、言うまでもなく人間とはかけ離れているものだ。


 ガウルやロベリアを見慣れているからさほど気にしてはいなかったが、グランハウルで表立って半魔と呼ばれるのは大抵がキーンのような成りかけの人間を指す。

 リオンのように完全に形態変化を成した半魔は滅多に見ない。


 おそらく自立できるようになったら見切りをつけて国外へ逃げていく為だろう。

 立場が変わって、俺もそれが最善だと理解している。


「あまりジロジロ見られたくはないから普段は隠しているんだ。こいつを見て顔色も変えないのなんて、フォルオと先生くらいのもんだよ」

「……先生?」

「たまに顔を出してくれるお医者がいるんだ。っと、その話はまた今度だな。アリシアのことは頼んだ」


 そう言い残して、リオンは足音もなく夜の闇に消えていった。


 ふと彼がいた場所を見やると、あるものが目に付く。

 最初は柔らかな青い羽毛が落ちているのかと思ったが、よくよく見てみるとまったく違うものだった。


 これは鋭利な刃物のような欠片だろうか。ガラス片と例えるとしっくりくる。

 真っ黒なガラス片のようなものが、パラパラと砕けて散らばっていた。


 リオンのものだろうか。

 半魔なら何かしらの特殊能力を持っていてもおかしくはない。


 気にはなるが詮索は後だ。今はアリシアの確保が優先事項。

 リオンが今どこにいるかは、この暗闇の中では不明瞭だが俺は俺で動くとしよう。



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