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廃教会の住人たち

 リオンの招きに従って中に入ると、先に入っていったフォルオが誰かと話し込んでいた。

 見たところ、俺よりも一回りくらい年の差がありそうな女性だ。遠目から見ても穏やかな物腰で優しげな印象を受ける。


 新たな来客に気づいたのか、俺へと視線を向けるとにっこりと微笑まれた。


「あ、ジェフ。どうやら当たりみたいですよ。ここに貴方の……荷物が」


 言い切らないうちに、振り向いたフォルオが固唾を呑んだ。じっと俺の背後を見つめて微動だにしない。

 釣られて背後を見遣ると、そこにはリオンが居るだけだ。


 どうにもそれがまずかったらしい。


 刹那、沈黙したかと思うと上背を縮めてさっきまで話し込んでいた女性の背後に隠れてしまう。

 この状況では無意味な行動なのだが、なにやらとても焦っていることはひしひしと伝わってきた。


 突然のことに身動きが取れないでいる俺を追い越して、リオンが一歩前に出る。


「どうしてお前がここに居るんだ?」

「それは、その……色々ありまして」


 問い詰められるとフォルオはどうにもバツの悪そうな態度を取った。

 何か不都合でもあるのかと考えてみれば先ほど、あまり顔を出すなと怒られる、なんて苦笑していたのを思い出す。


 単純に人を避けて隠れ住んでいるのだからそこに頻繁に出入りするなと、そういうことかと思っていたら、彼らの会話を聞くにどうにも違うらしい。


「今回は大目に見てやるけど、お前の立場上俺たちみたいなのと関わり合いになるのは褒められたことではないだろ。こんなことを続けていると、気味悪がられて誰にも相手にされなくなるぞ」

「……それは理解していますけど、やめるつもりはないですよ。僕の理念に反するし、例え親友の頼みだとしてもそれだけは受け入れられないかなあ」


 リオンの意見は一理ある。半魔と関わるのなんて、この国では百害あって一利なしだ。

 身内ならともかく、赤の他人ならば以ての外。


 普通ならそう考える。けれど、フォルオはそうは思っていないらしい。

 なんせ初対面の俺にさえあんな態度を取るんだ。自分が貶されたわけでもないのに、怒って殴りかかる始末。

 それを目の当たりにしたのだから、この正論には大きく頷くより他はない。


「お前なあ……それはわかっているとは言わないんだよ」

「うーん、そうかなあ」

「どうでも良いけど、面倒事は起こすな。お前に言ってるんだからな」

「それはお互い様でしょう。彼、とても困っているみたいですよ」


 会話の途中、いきなり白羽の矢が当たった。


 三人の視線が突き刺さる中、何を言うべきか迷って取りあえず頷くと二人に挟まれていた女性が、すみませんと頭を下げた。


「盗られた荷物、取り返しに来たんでしたよね? 待っていて下さい。今持ってきますから」

「ありがとう」


「シィラさん、キーンの奴も連れてきてくれ。レノの所に居るはずだ」

「わかりました。捕まえるの、骨が折れそうね」

「良かったら僕が手伝いましょうか?」


「いいや、お前はここで待機だ」

「でも」

「忘れたのか? レノはお前のことが嫌いなんだ。ただでさえ体調が優れないんだから、余計な事はするな」


 リオンの説得にフォルオはすごすごと引き下がった。


 部外者の俺は蚊帳の外だが、今聞いた話だとここには思ったよりも人が住んでいるらしい。

 もっとも、半魔のコミュニティに関わるのはこれが初めてだ。

 他にもこういった場所は存在するはず。ここが特別ということも無いだろう。


 シィラが奥に引っ込んだところで、フォルオが口火を切った。


「一つ質問しても良いですか?」

「なんだ?」

「キーンがどうしてこんなことをしでかしたのか、リオンは何か聞いていますか? 普段はそんなことする子ではないから、僕にはどうにも信じられなくて」


 フォルオにはここに来る道中、事の経緯を説明していた。


 俺の荷物を窃盗した云々の前に、店の商品を盗んだとかなんとかで捕まっていたのを俺が助けて現在に至ったのだが、それを話すとフォルオは信じられないと眉を潜めたのだ。


 見たところ、どうにもこの廃教会のリーダーはリオンのようだ。とても悪事を良しとする人間には見えない。当然、子供たちにもそれは徹底しているはずだ。


「今朝の話だ。キーンが王都に行きたいと言ってきた。なぜだと聞くと、アリシアの誕生日だから何か贈り物をしたいということだった。俺はこんな姿で付き添いは出来ないし、シィラさんも雑務で忙しい。金を持たせて一人で行ってこいと送り出したんだが、帰ってきたと思ったらあれだ」


「理由は聞いてみたんですか?」

「聞こうにもふて腐れてレノの所に行ったきりだ。まあ、聞かなくても分かりきったことだよ。渡した金を手付かずのまま返してきたんだ。どうせ売ってもらえなかったんだろう。だからって盗むのは駄目だと叱っておいたんだが、また嫌われてしまったかもな」


 リオンは仕方ないと嘆息した。


 理由は本人に聞いてみないと分からないが、リオンの推察は間違いではないはずだ。

 半魔には店の商品は売れない、なんてそんな状況は想像に難くない。



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