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リオン

 


 しばらく歩くと、目的地である廃村まで辿り着いた。


 予想はしていたが村と言うにはあまりにもボロボロだ。外壁も門扉も壊れているし、立ち並ぶ家屋も殆どが半壊している。

 とても人が住んでいるとは思えない有様なのだが、本当にここに居るのだろうか。


 半信半疑でフォルオの後に続くと、真っ直ぐに向かったのは村の外れ。生い茂る木々を抜けて見えてきたのは教会だった。

 ここだけ荒れた形跡はない。人が住んでいる気配があった。


「ジェフはここで待っていてください。いきなり見知らぬ人間が現れたら警戒されて話になりませんから」

「わかった」


 フォルオの言い分はもっともだ。

 はやる気持ちを抑えて教会の外で待っていると、ふとあるものに気づいた。


 教会の鐘楼に人影が見えた。

 いつからそこに居たのかは分からないが、俺がそれに気づいたと同時に相手も俺の存在に気づいたらしい。


 顔を上げて凝視していると、俺の視界を覆うようにふわりと何かが降ってきた。

 指でつまんで持ち上げると、それは柔らかな青色の羽毛だった。

 けれど頭上には一羽も鳥は飛んでいない。不思議に思っていると、頭上から声が降ってきた。


「お前! この場所に何の用だ!」


 眼下を見据えながら男は声を張り上げる。

 この場合、俺の返答次第によってはまた因縁を付けられて面倒な事になりかねない。

 とにかく敵意がない事だけは伝えないと。


「ここには荷物を取り返しに来ただけだ。悪さをするつもりはない!」

「荷物……もしかしてあれのことか?」


 男の口ぶりから推察するに、何か事情を知っているみたいだ。

 詳しく聞き出そうとしたが、それを制して男は鐘楼の出窓に足を掛ける。


 ――そうしてそのまま飛び降りたのだった。



 いきなりの出来事に驚くも、瞬き一つする間に俺の目の前には先ほど頭上に見えた男が立っていた。


 身の丈をすっぽりと覆うコートに目深に被ったフード。加えてその内側にあるはずの顔は不釣り合いな兜を被っておりバイザーで隠してあるため窺えない。

 誰が見てもおかしな格好の奴だと評価するだろうが、まるで素肌を見せないように着込んでいる様子は少し違和感を覚える。


 それともう一つ気になることといえば、やけに身体がモコモコと膨らんでいる点だ。

 まるで体毛のある動物に服を着せたみたいな膨らみは、ただ単に寒がりで着込んでいると言うには不自然に見える。


「おっと、すまない。驚かせてしまったな」

「あんな所から飛び降りて怪我はないのか?」


 あんな高所から飛び降りるなんて普通の人間には到底無理な芸当だ。

 一体どんなカラクリを使ったのかと不思議に思っていると眼前の男は笑って答えた。


「今のは魔法を使ったんだ。重力を減らして多少の風を起こしてやればあのくらいの高さならご覧の通りだよ」

「……俺には無理そうだな」


 聞いただけでかなり繊細な技術を要する事だけは分かる。

 ボスなら容易だろうが俺には無理だろう。


「見たところ、お前も半魔なんだろう?」

「そうだが、なんでわかったんだ?」


 半魔だと分かる形態変化をしている部分は外套やら手袋で隠しているから一目見ただけではバレないはずだ。


「ここに来る人間は略奪目的の夜盗か、居場所のない半魔くらいだ。消去法で考えると自ずと答えが出る」


 そのせいか。やけに警戒心が低いのも頷ける。


「それでさっきの話の続きなんだが、ここには盗られた荷物を取り返しにきたんだ」

「それなら知っている。一時間ほど前にキーンが王都から戻ってきたんだが、盗みを働いたと言うじゃないか。迷惑を掛けるなと締め上げて今は中で猛省しているだろうな」


 会話をするに、この男はかなりまともな部類のようだ。

 フォルオもまともではあるが、多少破天荒な所もある。

 それを思うとたったこれだけのことに感動を覚える。


「じゃあ、俺の荷物はここにあるんだな?」

「その可能性は高いな。こればっかりは自分で確認して貰わないといけないが……えーっと」

「ジェフだ。よろしく」

「俺はリオンだ。そしたら早速ジェフの荷物を取りに行こうか。着いてきてくれ」


 フォルオにはここで待っていろと言われたが、とにかくミルの無事を確認したい。

 中に入ると言うのだからすぐに会えるはずだ。


 リオンに従って、俺は教会の内部へと足を踏み入れるのだった。




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