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奇妙な乱入者④

 

 右手を挙げて訴えると、青年は深く息を吐き出した。その表情からは緊張の色が窺える。

 大方、俺の腕を斬り飛ばしやしないかとひやひやしていたのだろう。


「良かったあ……危うく腕を斬り落とすところでした」


 慎重に俺の腕に刺さった刀身を引き抜くと鞘に収める。


 彼の言う通り、あと少し勢いがあったら左腕が斬り落とされていたところだ。

 腕が千切れたところで治るのだから何の支障も無いのだが、この生真面目な青年にそんなことをさせていたら卒倒されかねない。


 見たところ、裂傷は深いがこの程度ならすぐに治るだろう。


「それにしても、どういう風の吹き回しですか? 僕の見立てではこんなにあっさりと降参するようには見えなかったのですが」

「俺じゃあんたにはどうやっても勝てないんだろ?」


 右手に持っていた折れた剣を目の前に掲げる。


 俺が負けを悟ったのは、こいつが折れたからだ。


 最初、彼の斬撃で左手が斬られた時、単純に剣の切れ味が増したのかと思った。

 けれど、先ほど攻撃を剣で受けた時は真っ二つに折られたのだ。

 おそらく金属疲労も重なっての事だとは思うが、俺の左腕に斬り込みを入れるほどの鋭利さだ。こんななまくら武器を斬ってしまう事など容易いはず。それなのに、剣は折れた。

 切れ味が落ちたのかとも思ったが、再度受けた剣戟は最初と同じように俺の腕の硬さをものともしなかった。


 ここから考えられることは一つだけ。


 あの剣は魔素に対して何かしらの影響力を持つものだ。


 形態変化は魔素を使って成ると以前ボスが言っていた。

 一般の武器ならば苦戦はしない。けれど、あの剣は別だ。形態変化の特性を無効化出来るのなら、生身で斬撃を受けているのと同じ事。


 魔法だってあれ相手に通用するかも怪しい。


 俺の攻撃手段は肉弾戦か魔法攻撃、その二つだけ。それが無効となるともう打つ手無しだ。


「まあ、難しいでしょうね。僕と貴方では相性が悪すぎる」

「だから降参したんだ」


 俺の答えを聞いて、青年は感嘆の声を漏らした。


「まさか初対面でここまで見抜かれるとは思ってもいませんでしたよ。貴方、とても強いんですね」

「それ、嫌みにしか聞こえないな」

「そういう意味で言ったわけではないのですが……おそらく、まだ何か奥の手を隠しているように見えたので」


 確かに、彼の言葉通りの奥の手――魔法を使用することも考えた。けれどそれは最後の手段だ。


 実際に使ってはいないし、効かないかもしれないというのも机上の空論。もしかしたら通用していたかもしれない。

 しかし、あれ自体不安定なものだ。おいそれと使って、勢い余って殺しでもしたら取り返しが付かない。


 それに今の状態では元々使えなかった。


「手の内はおいそれと晒さないものだろ」


 これについてはつい先ほど気づいたことだ。


 この仮面、嵌めている状態では魔法――おそらく、魔素を使えなくなってしまうみたいだ。

 現に青年の攻撃で裂傷が付いた左腕は、治癒もせずにそのままの状態だ。

 俺の超速再生は魔素を使って治癒するものだ。それが機能しないならそれを阻害する何かしらが働いていたということになる。

 いつもと相違していることと言えば、この仮面を嵌めていたことだけ。


 予想した通りに、仮面を外した途端に腕の傷は塞がり始めた。


 仮面を懐にしまうと、何やら対面していた青年は難しい顔をして黙り込んでいる。

 不思議に思っていると呟くような一言が漏れ聞こえた。


「その仮面、似たような物をどこかで見たことがあるんです。どこだったかなあ」


 腕を組んで一生懸命悩んでいるようだが、今はそんなことはどうでも良い。


「考え込んでいるところ悪いが、俺はこれからどうなるんだ?」

「そうですね。取りあえず、詰め所まで一緒に来て貰って聴取することになります。……っと、その前にここの人たちを介抱しないと」


 青年は慌ただしく、地面に倒れているごろつき共を介抱しだした。

 こいつらにそこまでしてやる義理はないのに、律儀な奴だ。

 けれど、それが終わるまで待ってやる時間は無い。


「さっきも言ったと思うが、そんなことをしている暇はないんだ。大事な荷物を盗られてそれを探さなきゃならない」


 苦しげに呻いている男に肩を貸している青年の背に声を掛けると、彼の動きがぴたりと止まった。

 振り返った彼の顔は何やら青ざめているようにも見える。


「もしかして、三十分程前に詰め所に盗難被害の報告に来たのって……」

「たぶん俺の事だと思う」


 頷くと、青年は支えていた男を突然地面に放り出した。


「すいませんでした!」


 いきなり頭を下げてきた青年を前に呆然とする。

 どうしたんだと事情を聞こうにも、手放されて放られた男が顔から地面に突っ込んで動かなくなった。



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