奇妙な乱入者③
「出来れば貴方には怪我をさせたくはなかったのですが、致し方ありません」
この状況で何を言っているんだと疑問に思う前に、俺が握っていた刀身が青白く発光する。
それを見留めた瞬間、青年は事も無げに掴まれていた剣を手中から引き抜いた。
あまりにも自然な動作だった為、俺が手を離してしまったのかと錯覚する。
実際はそんなことはなかった。
俺が手を離したわけではない。握っていた刀身によって手が斬られたのだ。まるで生身の手のひらに鋭利な剣先を滑らせたかのように。
恐ろしく切れ味の良い刃物を素手で触ろうとすれば言うまでもなく切り傷が出来る。皮膚が裂けて血が流れるだろう。あまつさえそれを握り込んでしまえばどうなるか。
そんなのは分かりきったことで、結果、俺の左手は見事に裂けていた。
裂けたところで、感覚も鈍いから痛みも然程感じられない。
けれど、そんな状態ならば俺の手中から剣を抜くのは容易かった。
「……どういうことだ」
現状は理解できた。それでも納得は出来ない。
青年が何かをしたことは確実なはずだ。そうでなければ、この状況に説明は付かない。
けれど、ゆっくりと考え込んでいる暇はなさそうだ。
俺の手中から引き抜いた剣を構え直し、先ほどと遜色のない剣戟が迫ってきた。
近距離から放たれた一撃をすんでの所で躱して、距離を取る。
今の状態であれと真正面からやり合うのは避けた方が良い。
今までやり合えていたのは左腕の耐久性あってのものだ。その戦法が使えない以上、何か別の策を練らなければ。
「僕としては降参して欲しいのですが……これ以上貴方に怪我を負わせたくはない」
この戦闘行為は殺し合いではない。それが上手い具合に思考の隙間を作ってくれている。
相対している青年も、武力行使はあまり好かないみたいだ。
そうは言っても、俺も人の事情に合わせてやる余裕はない。
「そう言われて俺が素直に応じるとでも思っているのか」
「無理でしょうね……少し手荒になりますが、恨み言は言わないで下さいよ!」
青年が俺へと向かってくるのと同時に、地面に転がっていた剣を足で拾い上げて構える。
何をするにしてもあの猛攻を防がなければ話にならない。
腕で受けるのはリスクが高い。こんななまくらでは受けきった所で何にもならないが、やるだけやってみよう。
予想した通り、打ち込んできた剣戟を拾った剣で相殺するが、ものの見事に真っ二つにへし折れた。
元々脆いし錆び付いていたから当たり前のことだが、その当たり前が引っかかる。
疑問の答えに辿り着く前に、続く斬り返しが眼前に迫る。
回避が間に合わず、左腕を盾に受けるが結果は同じ。まるで生身の腕で斬撃を受けたかのようだ。
前腕に深く斬り込んだ刀身は変わらず青白く輝いている。
それを見留めた瞬間、俺ではこの青年には勝てないと悟った。
どう足掻いても勝機はゼロに近い。これ以上挑んでも無駄に傷を増やすだけだ。
「降参する。俺の負けだ」




