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与太話

 

 エリアを抜けて居住区まで戻ると、自室へ向かう途中の談話室内にてばったりとボスとかち合った。


「おや、ジェフ。おかえり」

「ああ、今戻った」

「今日はまた随分とボロボロじゃないか」

「これは、敵が手強すぎて……あの古代遺跡にいたガーゴイルは何なんだ? あいつだけレベルが違いすぎて本当、死ぬかと思った」

「ああ、あれは私が丹精込めて創ったものだから、生半可な実力じゃ到底倒せないよ」


 笑いながらそんなことを言うが、実際に戦った俺にしてみたら冗談では笑い飛ばせない。


「もしかして、あれを倒してきた?」

「一応……壊しちゃいけなかったのか?」

「いいや、そんなことは無いけれど。ジェフがあれを倒せるとは思っていなかったから驚いている。少し前までは腕を燃やして死にそうになってたのにねえ」


 脳裏に思い起こされる苦い思い出。

 ここ数日が激動の日々だったからか、遠い昔のように感じる。


「ところで、さっきからそれが気になっているんだけど」


 ボスが指差したのは俺の左腕だ。

 未だ完全に再生はしきっていなく、欠けたままの左腕を差し出すとボスは待ってましたと言わんばかりに触りだした。


「へえ、岩のように堅いけれど甲殻にも似ている。かなり硬質みたいだしちょっとやそっとじゃ砕けないだろうね」

「でも温度の変化には弱いみたいなんだ」

「なるほど、それでこうなったというわけか」


 ひとしきり観察した後、俺の心中を察したのか。ボスが丁寧に解説してくれた。


「何もそんなに不思議な現象でもない。鉱石加工をする時なんかに利用される。切れないほどに堅い鉱石も、熱して急激に冷やすと簡単に割れるんだ」


「こんなふうにね」と俺の左腕を叩いてボスは告げた。


 いきなり腕が崩れた時は不気味だったが、こうして説明してもらえると途端に納得できる。

 ともあれ、ほっと胸を撫で下ろしていると、俺の心労を余所にボスがとんでもない事を言い出した。


「これ、もう少し調べてみたいんだけど……出来れば解剖がしたいなあ」

「それは……ちょっと。今は疲れているし早く休みたい」

「それじゃあ、充分に休んだ後で構わないよ」

「……」


 興味本位で解剖されるのはごめんだ。

 けれど、ボスは俺の気持ちなどつゆ知らず、解剖一択でゴリ押ししてくる。

 断ろうにも断れないでいると、助け船が現れた。


「ボス……なんだ、帰っていたのか」


 部屋の奥から現れたガウルからは微かに草木の匂いがした。

 外にでも行っていたのか、手提げ籠にはよくわからない草が大量に入っている。


「薬草の採取、終わりました」

「おかえり、ガウル。それじゃあ、早速調合しないと鮮度が落ちてしまう」


 ボスの指示にガウルは頷いて踵を返す。

 俺のことは見事にスルーされた。おそらくそれほど興味もないのだろう。


 この奇妙な一党の中で、一番人となりが分からないのがガウルだ。

 ロベリアやボスとは何かと話す機会もあるし、会話をしていればどういう人間なのかは知れてくる。けれど、ガウルに関してはさっぱりだ。


 そうは言っても本人が俺に興味が無いのだったら、どれだけコミュニケーションを取ろうと歩み寄っても無駄になる。

 人伝に聞いてみようにもロベリアはガウルを嫌っている。唯一知っていそうなのはボスだ。確かロベリアもそんなことを言っていた。

 今度時間があったら尋ねてみよう。


「というわけで、私は用事が出来てしまったから解剖の件はまたの機会にお願いするよ」


 頭の痛くなるような台詞を吐いて、ボスはローブを翻してガウルの後を追っていった。



 一人残された俺は、深い溜息を吐き出して自室に戻るのだった。



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