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形態変化

 

 近づいてくるガーゴイルを片っ端から爆破していく。

 途中から処理が追いつかなくなるからと、コアの破壊はロベリアに任せた。


 コアを破壊しなければガーゴイルは完全には倒せない。けれど、砕けた身体を元に戻すにはそれなりに時間が掛かるみたいで、俺のように超速再生は出来ない。

 だから俺の後ろで瓦礫をかき分けてのんびりやってるロベリアでも事足りる、ということだ。



「これで最後……だよな?」

「そうみたいだね~。僕もこれで最後っと」


 最後の一体の魔石をロベリアが壊して、ホッと一息つく。

 後ろを見返せば瓦礫の山。


 積み重ねた努力を見返して感慨に浸っていると、俺の様子を見てロベリアが声を上げた。


「さっきから気になってたんだけど、再生遅くなってない?」


 ロベリアの指摘に左腕を見遣る。

 自分でも薄々気づいてはいたが、やはり気のせいではなかったみたいだ。


 最後の二、三体から、徐々に再生速度が落ちてきているとは感じていた。

 今も欠けた左腕を再生はしているが、この調子だと完全に元に戻るまで数十秒は掛かる。


「これってやっぱり魔素の使いすぎってやつか?」

「たぶん、そうじゃない? 今回かなり過酷だったし、腕治すのだって結構魔素を消費するはずだよ」


 身体の再生には魔素を消費するとボスが言っていた。それに加えて魔法の使用。

 俺の持っている魔素量はずば抜けているらしいが、それでも底なしというわけではない。

 使った分、魔素が減少すれば自ずと再生力も下がる、ということか。



「――ッ、なんだ……」


 自身の身体の変化に納得していると、いきなり鋭い痛みが左腕に走った。


 感じたことのない異変と違和感に眉を潜める。

 身体の再生時に痛みを感じることはない。感覚的に痛覚はなくなってはいないが、鈍くなるからだ。麻痺している状態に似ている。


 恐る恐る左腕に目を向けると、そこには俺の腕があった。

 欠損していた部分は元通りになっていて、指先の感覚もしっかりとある。


 一つだけ違うところを上げれば、吹っ飛んだ肘から先の部分。皮膚の代わりに、まるで岩でも接着したかのような堅い殻が引っ付いている。

 手のひら、指先も同様の状態だからゴツゴツとしていて非常に動かし難い。金輪際、細かな作業は無理そうだ。


 冷静にそんなことを考えつつ、それでも混乱したままの俺は取りあえずこの変わり果てた左腕をロベリアに見てもらうことにした。


「うわあ、これまた厳ついことになって……」

「これって、ずっとこのままなのか?」

「ボスに聞いてみないとなんとも言えないけど、そうなんじゃないかなあ。一応、ジェフは半魔なんだし、魔素の使いすぎか何かが原因で形態変化しちゃったんじゃない?」


 ぺたぺたと俺の左腕を触りながらロベリアは答えた。

 確か、完全に身体が変化してしまったら元には戻せないってボスも言っていたはずだ。

 脳内の記憶を掘り起こして、少しだけ落胆する。


 実際、こうなったからと言って不便なことはあまりないとは思う。

 指先もまったく動かせないわけではないし、堅くて人間の生身よりも重量がある左腕は普通に殴っただけでも相当な威力が出そうだ。

 接近戦が主体の俺の戦闘スタイルには抜群に噛み合っている。


 けれど、何事もいきなりすぎた。

 ショックがないわけでもないし、心の整理を付けろと言ったってすぐには無理というものだ。


「え? なに? もしかして落ち込んでる?」

「……少し」

「そんな悪い事でもないって。まあ、最初はもの凄く不便だろうけど、慣れればまあまあ快適になるし」

「そこは気にしてない。ただ少しショックで」


 訂正するとロベリアは「なあんだ」と気の抜けた声を出した。

 少々、変わり身が早い気もするがロベリアは元々こんな奴だ。気にするだけ無駄だろう。


 俺のフォローをやめて、変化した左腕をじっと眺めていたロベリアが難しい顔をしながらこんなことを聞いてきた。


「そーいえば、これ。一つ気になる事があるんだけど」

「なんだ?」

「ミルと同じじゃないんだね。兄妹だからてっきりドラゴンの鱗でも生えてくるかと思ってたんだけど違うんだ」

「そういえば、そうだな」


 何気なく放ったロベリアの疑問に俺も首を傾げる。

 言われてみればその通りだ。


「兄妹なのに違うなんて事あるのか?」

「うーん、そもそも家族だからってみんな半魔になるかって言われるとそうでもないからなあ。血筋は同じだからまるっきり違うって事もないんだろうけど、やっぱりあれじゃない? ボスが弄ったから」

「人工的に半魔になると同じとはいかないのか……」


 あまり気にしている様子は見られないが、これくらいはミルと同じが良かった。独りだけ人でもないドラゴンだなんて可哀想だ。

 せめて少しでもおそろいだったら慰みくらいにはなれたかもしれない。


「あっ!」


 そこまで考えて重大な事を失念していた。

 これはもの凄くマズいんじゃないか?


「どーしたの?」

「これ、ミルになんて言おう……」


 考えなくてもわかる。こんな状態でのこのこミルの前に姿を現わせばまた心配を掛けてしまう。


「え、そこ重要なところ?」

「当たり前だ! こんなの見たらミルが卒倒するかもしれない」

「大袈裟だなあ」


 呆れた様子でロベリアが嘆息する。


 どう思われようが俺にとっては大問題だ。

 隠し通せればそれに超したことはないのだが、もし今後も左腕以外にも変化してしまったらと考えると、カミングアウトは早めの方が良さそうな気もする。


「別に隠さなくても良いんじゃない? そんなになってもジェフのこと、嫌いになる子じゃないでしょ」

「それは……そうだが」

「そもそも、こんな危なっかしいことしてるんだから今更心配させるだとか、それこそ余計な心配だし」

「うッ……それを言われたら言い返せない」


 正論に撃沈させられて項垂れる。


「そんなことよりも、さっさと戻って顔でも見せてやった方が喜ぶんじゃない?」

「……うん、そうだな」


 ロベリアの言葉に顔を上げる。もっともな物言いだ。

 余計な事に悩んでいないで、早くミルの元へ戻ろう。


 そのためには、このエリアの出口にじっと佇んでいるアイツをどうにかしなければ。



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