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ガーゴイル地獄

 

 向かってくる火球を避けることが出来ず、咄嗟に腕でガードする。

 纏わり付いた炎が腕を焼いていくが、こんな状況は慣れっこだ。痛みも許容範囲でこれも問題にはならない。


「今の魔法の類いじゃないか!?」

『見たまんまそうなんじゃない?』

「普通のガーゴイルって魔法も使えるものなのか?」

『まさか! そんなわけないじゃん! 僕もこれには驚いてる。魔道兵器でもあるまいし』


 なるほど。どうやらこのエリアにいるガーゴイルはイレギュラーというわけか。


『そもそも自立個体であること自体あり得ないっていうのに、それに加えて魔法も使えるなんてバケモノだって! こいつらだけで軍隊作れるんじゃないの?』

「そんなヤバい代物なのか……」


 確かに、ロベリアの言う通り。魔法が扱えると分かった時点で攻略難易度は今までで一番だ。


 これまで相対してきた敵は、物理攻撃しか使ってこなかった。

 力業で正面から来られるのなら幾らでもやりようはあるのだが、このエリアではすべてが正反対。

 奇襲に加え、魔法攻撃。どれを取っても厄介だ。

 けれど、だからといって打つ手がないわけではない。


「やられっぱなしっていうのも、面白くないよな」


 再度口を開けた、ガーゴイルの火球による追撃を避ける。


 さっきは不意を突かれたが、魔法による攻撃にはある程度猶予があるみたいだ。二、三秒の溜めがある。相手の行動から目を逸らさなければ避けるのは容易い。動きもそれほど素早いわけではない。

 ここだけ見るとそれほど手を焼く相手とは思えないが、それは相手が一体だけの話だ。


 不意に鳴った背後からの物音に振り返るとガーゴイルが二体、俺に向かって口を開いていた。


 ――氷の(つぶて)と電撃の塊。


 ほぼ同時に放たれた魔法を、転がってすんでの所で躱す。


『こいつら結構多才なんだね~。見てて楽しいかも』

「俺は生きた心地がしないんだが」


 ロベリアに文句を吐きながら周囲を見回す。


 ここに来てこの古代遺跡という環境が、こいつらガーゴイルにとって好条件であることが分かった。

 遺跡の崩れかけた壁が遮蔽物となって、迫ってきているガーゴイルの察知を鈍らせる。殺風景な景色も相まって、一瞬気づくのが遅れてしまう。

 相当やりにくい場所だ。


『それで、こいつら相手にどうするつもり?』

「爆発させて破壊する。弱点のコアがある場所っていうのは外から見ただけじゃ分からないんだよな?」

『正確な場所は分からない。けど狙うなら頭か胴体じゃない? 定石ってやつ』

「わかった」


 とりあえず、俺の目の前にいるこいつだけでも先に倒しておかないと。

 古代遺跡の死角を縫ってどこから新手のガーゴイルが現れるかわかったもんじゃない。

 長引かせればそれだけこちらが不利になる。


 背後のガーゴイルにも気を配りながら、俺の前に立ちはだかった一体に接近する。

 振り上げた爪を易々と躱して、懐に潜り込む。



 溜めた魔素を一気に放出した凄まじい爆発と共に、対峙していたガーゴイルは粉々に爆発四散した。

 舞い上がる粉塵の中、崩れ落ちた瓦礫からコアである魔石を拾って、魔素を流し込むと砕け散った。


 このガーゴイルたちのコアは魔石で創られている。

 ということは物理による力業では突破は難しい。魔法で倒そうにも生半可な威力では太刀打ち出来ない。

 攻撃よりも防御、耐久性に特化した魔物だ。

 それにこの数を相手にするのなら冒険者泣かせというものだろう。


「これ、今までで一番キツいかもしれない……」

『倒すのに骨が折れそうだよねー。僕は見てるだけだけど』

「そうじゃなくて、腕が」

『ああ、なるほどね』


 皆まで言わずにロベリアは察したようだ。


 言わずもがな、ガーゴイルを破壊するほどの爆発を使うとなると、俺の腕も無事では済まない。

 千切れた腕を目にするのは、やはり精神的によろしくはない。身体的にも最悪だ。

 腕はすぐに治せるがこれをあと何回繰り返せば良いのか。それを考えただけでも気が滅入る。


 爆発によってガーゴイルが砕けた瞬間に、腕は再生させたから出血は極力抑えられた。

 元通りにはなったが、脳裏に焼き付いた激痛はそうそう消えてはくれない。


「せめて腕が吹っ飛びさえしなければ」


 再生した腕を眺めて独りごちる。

 そんなうまい話あるわけがない。


『ぼーっとしてると次来るよー』


 ロベリアの言葉にはっとして周囲を確認すると、背後にいた二体のガーゴイルの他にも隠れていたであろうガーゴイルが数体視界の端に映った。

 今やっと一体倒したばかりなのに、倒す前よりも増えている。


 現状にうんざりしながら、俺はガーゴイル地獄に身を投じるのだった。



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