古代遺跡に潜むもの
最終エリアは古代遺跡だ。
ゲートを開けて進むと、森とは打って変わって寂れた古代遺跡が俺の前に顔を覗かせた。
やけに殺風景だが油断は出来ない。
慎重に歩を進めていると、あることに気がついた。
「……やっぱり」
『どうかした?』
「あれ、少しおかしくないか?」
俺が指を指す先には石像があった。
石像と言っても少し変わっている。
人間を模したものではなく、獣のような見た目をしていて翼が生えていた。
似たようなものがそこかしこに設置されていて、まるで侵入者を監視しているかのようだ。
『どこが? ふつーの石像じゃない?』
「まあ、そうなんだが。綺麗すぎる気がする」
立ち並ぶ石像も不気味だが、それ以前にこの場所には不釣り合いなほどに小綺麗だ。
見渡す限りに広がっている古代遺跡は相当古いものらしく、石床や建物の壁なんかは崩れてしまっていて見る影もない。
そんな廃墟の中に、立派な石像が連なっている。これは怪しすぎる。
「あれは絶対罠だよな」
『ガーゴイルってやつだ。魔物って言うよりは魔術師が作るゴーレムみたいなものかなあ』
「ということは、ボスのお手製ってことか」
それを思うと簡単にここを突破出来る気がしない。
ボスは言っちゃ悪いが少し頭のネジが飛んでいる。だから、このエリアも何かしらの細工をしていると考えて良いだろう。
「そもそもガーゴイルって何なんだ?」
名前だけは知っているが見ない魔物だ。弱点とか特性とか、とにかく情報に乏しい。
『一般的な土塊のゴーレムと作りは変わらないはずだよ。弱点も内部にあるコアを破壊すれば倒せる。一つだけ違うところは、土塊と違って石像だからもの凄く堅いってこと』
ロベリアのアドバイスを受けて分かったが、この手の相手には相性が悪い。
そもそも無機物って時点で対抗策が限られてくる。
炎も氷も重力操作も石像相手では有効打にはなり得ない。
一つだけあるにはあるが、あれは出来れば極力やりたくない。
全長一メートルはあるであろう石像を破壊できるだけの爆発なんて、俺の腕を通り越して身体半分くらい持って行かれそうだ。
想像しただけでも悲惨なのは目に見えているし、ガーゴイル一体相手にそこまで労力を払う事を考えたら気が滅入る。
でもそれしか方法がないならやるしかない。
腹を括った俺は、まずは相手の出方を見ることにした。
「あれって近づかなければ襲ってこない、んだよな?」
『侵入者用の罠として使われる事もあるしそうじゃない? でもなー』
「何か気になることでもあるのか?」
『だってあれ、ボスが創ったものでしょ? 絶対普通じゃなさそう』
ロベリアの憂慮に、確かにそれは有り得そうだと頷く。
ボスのことだし面白いからと色々と弄くり回している可能性もある。
どうやって攻略しようかと思案していると、あることに気づく。
「……数が減ってないか?」
目の前の道に連なっていたガーゴイルの数が減っているような気がする。
それに気づいた瞬間、背後からの衝撃に俺は前のめりになって地面へと倒れ込んだ。
状況を判断する暇も無く後ろを振り向くと、そこにはいつの間に近づいたのか。
ガーゴイルが、石造りの尻尾を振りまいて佇んでいた。
二足歩行でじりじりとにじり寄ってくる姿はまるで生きている動物そのものだ。
おそらく先ほどの衝撃は背中を爪で切り裂かれたのだろう。
それほど傷は深くないし、痛みも我慢できる程度。すぐに治るはずだ。問題にもならない。
問題があるとすれば、今この瞬間だ。
「ガーゴイルって自立して動くものなのか?」
『僕の知ってる奴でそーいうのは見たことない。ゴーレムを創るのってかなり難しいみたいなんだ。だから近づいた人間を襲うとか、単純な命令しか組み込めないらしいんだけど、そこは流石ボスって感じ』
「感心してる場合じゃないだろ!」
急いで体勢を立て直すとすかさず距離を取る。
今のは完全に油断していた。ガーゴイル・石像・罠という先入観で近づかなければ襲ってこないものとばかり思っていたのが仇となった。
眼前のこいつ一体だけが自立個体だとは思えない。もしかしたら俺の背後に並んでいる奴らも動き出すかもしれない。
そうなれば前後で挟まれる。圧倒的に不利だ。
幸いにも今ので分かったが、ガーゴイルの攻撃はそれほど威力は無い。
動物のように爪も牙も鋭利ではない。対面ならそれほど苦戦はしないはずだ。
――と、思っていたのだが。
目の前のガーゴイルが突然、大きく口を開けた。
噛みついてくるのか、と身構えていると俺の予想とは裏腹に、ガーゴイルは開け放った口から火球を吐き出したのだった。




