アルバート・ラッセル・グラン
『昨日の事なんだけど、ジェフの申し出受けてやっても良いよ』
「……良いのか? あれだけ渋ってたのに」
デートを計画してすぐに、ロベリアへお願いをしに行くと彼女はもの凄く渋っていた。
「遊びで行ってるわけじゃない」とか「そもそもそんなに詳しくない」とか。
けれど、他に聞こうにもボスはダンジョンの外には出ない。ガウルも然りだ。
あの中で一番詳しいのはロベリアしか居ない。
そう判断して尋ねたわけだが、返答は芳しくはなかった。
少し考えさせてと言うロベリアに、昨日はすごすごと引き下がったわけだが今日はどういうわけか一転している。
こういうのは大抵裏があるわけだが、ロベリアも例に漏れずだった。
『その代わり一つだけ条件があるんだけど』
「なんだ?」
『僕もそのデートとやらに連れて行くこと!』
瞬間、ぴたりと俺の足が止まる。
小間使いをやらされるんじゃないかと思っていたが、まさか一緒に連れて行けとは。こればっかりは予測できなかった。
「…………い、いやだ」
『そんな嫌そうにしなくてもよくない? デートなんて言ってもただのお出掛けでしょ』
「ただの!? ミルと一緒に出掛けるのは本当に久しぶりなんだ。それを部外者に邪魔されたくない。絶対ダメだ! それだけは断固拒否する!」
全力で拒絶すると、ロベリアは「うわあ……」と、よく分からない呟きを残した。
けれど、どうしたってこれだけは譲れない。俺はミルと二人きりで出掛けたいんだ。
『別に兄妹水入らずを邪魔するつもりはないよ。ジェフの影に入れてもらえればそれでいいし、静かにしてるから。僕は居ないものとして楽しんで』
「そういう問題じゃない!」
『そうは言っても僕もこればっかりは……ああ、そっか!』
急にロベリアが叫んだかと思えば、俺の影から顔を出した。
「やっぱり僕が着いて行くのは無しで」
「……よかった」
「その代わり、ジェフには僕の代行をお願いしようかなあ」
「代わりに何かしてくるってことか?」
「そうそう」
着いて来られるよりそっちの方が助かる。
了承すると、ロベリアは再度影に潜って説明を始めた。
それを聞きながら俺も歩き出す。
『ジェフは、アルバート・ラッセル・グランっていう人間、知ってる?』
「アルバート・ラッセル・グラン?」
どこかで聞いたことのある名だ。
聞き覚えがあるのは、名の方ではなく家名の方だろう。
ラッセル・グラン――確か、王家を代々護ってきた騎士の家系だったか。国王直属の討伐隊を率いているのも、グラン家の当主が務めていたはずだ。
代々そういう習わしで、現在の討伐隊の隊長も相当腕が立つと聞いた事がある。
アルバート・ラッセル・グランは、その腕利きの隊長様の名前だ。
「一応、知ってはいるが、そいつがどうかしたのか?」
『この間、少し話したと思うけど僕がやらなくちゃいけないことに、そいつが関係してるんだ』
「……というと?」
『どうにかしてアルバート・ラッセル・グランを無力化しなくちゃいけない。要は暗殺ってことだね~』
「……えっ!?」
いまさらっと言ってくれたが、そんな軽く流して良い事ではないのは明らかだ。
しかも暗殺って言ったか?
突拍子もない話に頭が着いていかない。
「いま……暗殺って言ったか?」
『手っ取り早い方法ならそれだって話。そいつが死んでようが生きていようがどっちでも良いんだ。目的はターゲットの無力化だから、最悪拉致って監禁でもいいわけ。でもそれだと色々と現実的ではないから、例えとして暗殺って言っただけだよ』
「……確かに、難しそうだ」
アルバート・ラッセル・グランは冒険者界隈でも有名どころだ。
冒険者の間でも度々話題になっていた。実力も歴代一だと聞いている。
そんな相手を拉致って監禁なんて無理難題すぎる。もちろん暗殺だって一筋縄ではいかないだろう。
「もしかして、それを俺にやってくれってことじゃ……」
『ジェフに? ないない、それはない』
尋ねるとロベリアは笑って答えた。
『ジェフにそんなことさせるなんて考えてもいないから』
「じゃあ、俺に頼みたい事って何なんだ?」
『アルバート・ラッセル・グランについての情報が欲しいんだ。僕が街に出てるのはその為だよ』
夜になるとロベリアは外へと出向く。
ボスも街に行っていると言うが、ロベリアが何をしているかまでは把握していないようだ。
なるほど。夜な夜なこの為に出掛けているというわけか。




