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予想外の助っ人

 

『おつかれさーん』


 たまらず地面に仰向けになって息を整えていると、ロベリアから労いの言葉が贈られた。

 生憎、今の俺は疲労困憊すぎて応える体力も無い。


「ちょっとー、僕の労いを無視するな!」

「いまそんな体力無いから……後にしてくれ」


 俺の影から出てきたロベリアはぎゃあぎゃあと喚き立てる。

 体力が有り余っている様子を恨めしく思いながらも、軋む身体を動かしてなんとか起き上がった。


「今更なんだけど、あらかじめ沼を全部凍らせてから渡れば良かったんじゃない? ジェフの魔法の威力ならそれくらいは出来たと思うけど」

「それは……、まあ、出来るだろうけど。威力が高すぎるとその分、暴発して跳ね返ってくる威力も等価になるんだ。最悪、全身氷漬けも有り得ただろうから没にした」

「なるほどねえ」


 雑談の最中に、壊死しかけている両腕を持ってきていたナイフで切り落とす。


 水面を凍らせるのと、セベクを氷漬けにするのはどちらも凍結魔法だが、実は二つとも威力を調節していた。

 氷上を渡らなければいけないから足の方は瞬時に人体が凍るほど強力に。

 対して、腕の方はセベクが寒さに耐性が無いと分かったからそれほど強い魔法は使わなかった。


 だから腕への魔法の暴発もこれくらいの軽度なもので済んでいる。


 こうして魔法の威力調節も出来るようになったということは、少しは成長しているはずだ。

 地力が足りないから戦闘には機転を利かせなければならないが、超速再生なんて便利な能力も会得できた。

 これまでよりかは楽に戦えるだろう。


「ていうかジェフ、あれ見てみなよ。すっごい面白いんだけど!」


 何やら独りで馬鹿騒ぎしているロベリアに視線を向けると、どうやら先ほど俺が渡って来た氷の道の事を言っているみたいだった。

 不思議に思いながらも目を向けると、確かに。そこにはあまり見慣れない光景が広がっていた。


「そうだなあ、セベクロードと命名しよう!」


 俺が沼を渡りきるのを阻止しようと、数歩進むたびに沼底からはセベクたちが顔を出して襲いかかってきた。

 それを片っ端から凍らせながらここまで来たものだから、氷の道を覆う壁のように氷漬けのセベクがずらっと取り囲んでいる、なんともシュールな建造物が目の前に出来上がってしまった、というわけだ。


「後で砕いて帰ろうかな……」

「えっ! なんで!? こんな面白いものなかなか見れないしこのままにした方が絶対良いって!」

「いや、でも見栄え的にこんなのがあったらビビるんじゃないか?」


 何が良いのか分からないが、ロベリアは俺の意見には断固反対だった。

 あんなものの何が面白いのかまるで分からないが、押し問答する方が難儀する。


 この問題は取りあえず置いといて、ふと沼の向こう側に視線を向けるとあるものが目に付いた。


「……なんかこっちに向かってきてないか?」

「んー、ほんとだ。あれってガルムじゃない?」


 遠目から確認すると、やはり見間違いなんかではない。確かに、向こう側にいたガルムが一匹こちらに向かってきていた。

 俺が作った氷道を真っ直ぐに突っ走ってくる。


 けれどあれはせいぜい俺一人が渡れるくらいの強度だ。ガルムが踏みつけた場所から崩れて沼へと沈んでいく。

 それでも全速力で駆けてくるガルムにはさほど障害にはならないようで、せっかく作った氷道を無残にも壊しながらこちらへとどんどん近づいてきている。


「流石に二連戦はきついんだが」

「でもなんであいつ一人だけこっちに向かってくるんだろ。しかもあれ、群れのボスってやつじゃない?」


 ロベリアが言うように、件のガルムは白い毛並みをしていた。

 もしかして何か目的があって向かってきているのだろうか?

 けれど、それも不可解すぎる。第一、ただの魔物がなぜそんなことをする?


 分からないことだらけだが、何にせよ。襲われたらひとたまりもない。

 自衛の為に戦闘態勢に入った。その瞬間に、盛大な水飛沫を上げて何かが沼から這い出してきた。



「グルアアアァァアア!」


 俺の目の前に現れたのは一際大きな体躯のセベクだった。


「わあ、これまたでっかい……これはきっと沼の主ってやつだ!」

「なんでそんな冷静なんだ!?」

『だって僕はジェフの影に隠れちゃうからね~。ま、後は頑張ってよ』


 いつの間にかロベリアは俺の影に引っ込んでいた。

 元々俺の戦闘訓練に付き合わせているのだから手助けを乞うのはお門違いなのだが、こうも清々しいと文句も言いたくなる。

 けれど、生憎そんなのは後回しだ。


 どうやらこのセベク、怒り心頭みたいだ。

 それもそのはず、仲間たちを殆ど氷漬けにされたんだから、血眼で俺を殺しに来るってものだ。

 体躯も通常の二倍ほど。それに加えて皮膚も分厚く堅い。

 手強そうな相手だが、種族が同じなら弱点も同じだ。


 巨体から振り上げられた腕を避けて、既に完治した右手に凍結魔法を纏わせてセベクの体躯へと触れる。

 これで、他の奴らと同様に凍るはずだ。


 けれど触れた瞬間、俺は違和感に眉を潜めた。

 こいつ、やけに体温が高い。


 爬虫類って、こんなに体温が高いものなんだろうか。

 ドラゴンならまだしも水辺が生息地な魔物がこんなに高温なのはおかしい。


 おかしいついでに困ったことも一つ。

 こうも高温だと、少し触れただけでは凍ってくれない。

 魔法の威力を上げれば良い話だが、そうするとこの巨体を完全に凍らせる前に俺が先に凍ってしまいかねない。

 今までのような戦法ではこの沼の主には勝てないって事だ。



 打つ手無しの状態に防戦一方になっていると、セベクの巨体の背後から白い影が飛び出してきた。


 背後から奇襲を掛けてきたのは、先ほどこちらに向かってきていた白いガルムだった。




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