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思いがけないお出迎え

 目を覚ますと、ダンジョン内の自室のベッドの上だった。


 きょろきょろと周囲を見回して、俺の他には誰も居ないことに安堵する。

 ここ最近は目を覚ますたびに変なことに絡まれているから用心してみたのだが、いらぬ心配だったようだ。


 覚醒した俺の身体は綺麗さっぱり元通りだった。

 潰れた右手も、裂けた腹も、噛み千切られた左腕も、すべて治っている。


 分かりきっていた事だが、毎度こうだと慣れてくるものだ。

 不気味だなんだと騒いでいた頃が遠い昔のように思う。


 ぼんやりする頭を叩き起こしてベッドから起き上がると、すぐさま部屋から出て人がいるであろう談話室へと急行する。


 おそらく、自室まで運んでくれたのはロベリアだ。

 礼を言おうと、談話室の扉を開けると、開口一番聞こえた声は彼女ではなく別のものだった。



「おはよう、ジェフ」


 声を掛けてきたのはボスだった。


 テーブルに着いて、落ち着いた様子でガウルの淹れたであろう茶を飲んでいる。

 その隣には、ガウルがいる。見慣れた光景だ。


「怪我はもう良くなったのかな?」

「ああ、すっかり元通りだ」

「それは良かった」


 たいして心配もしてなさそうな言動を適当に流して、室内を見回す。

 ロベリアの姿がどこにも無い。


「ロベリアはどこにいるんだ? 礼を言いたいんだが」

「ここには居ないね。今は街まで出ているよ」

「……そうか」


「やかましい輩が居なくて良かったではないか。病み上がりにあれは堪えるだろう」

「別に、そんなことはないが……ん?」


 会話の最中に、あるものに気がついた。

 ガウルの首の後ろだろうか。長い毛に覆われてよく見えないが、何かがもぞもぞと蠢いている。


 生き物のように見えるが、この前まではそんなものはいなかった。

 俺が寝ている間にイヌネコでも飼い始めたのか?


「それ……」


 なおも動き続ける物体を指して指摘すると、ガウルはああ、と相づちを打った。


「ガウル、出してあげると良い。君の体毛が長すぎて出てこられないみたいだ」

「わかりました」


 ごそごそと首の後ろを弄って取り出したものを、テーブルに乗せる。

 俺の目の前に現れたのは、全く予想だにしないものだった。



「ミル!?」


「ギュイィ」


 手乗りサイズならぬ肩乗りサイズまで縮んだミルが、テーブルの上にいた。


 てちてち、とテーブルを伝って俺の傍まで来ると、俺目がけてジャンプする。

 服にしがみついて胴を登っていき、最終的に行き着いたのは俺の肩口。

 横を向けば、息が掛かる距離にミルの頭がある。


 驚いて固まっている俺を余所に、ミルは満足げに俺の頬を舐めた。

 心なしか嬉しそうで、何度も舌で舐め上げて、それから頬ずりをしてくる。


 正直たまらなく可愛いが、それを堪能する前に聞かなければならない事が一つ。


「どうやらそれが本来のサイズみたいだねえ」


 けれど、問い質す前にボスが説明してくれた。


 人間の七歳をドラゴンに換算すると産まれたてとそんなに違いはないらしい。

 ドラゴンは長寿だと言うし、千年生きる生物からしたら七歳なんて在って無いようなものみたいだ。


「こんなに小さくなって……」


 指の腹で下顎を撫でてやると、グルル、と喉を鳴らす。

 前の大きさでも可愛らしかったが、このサイズだとさらに愛くるしい。


「元のサイズに戻ってしまったけれど、体内の魔素が減ったわけではないから体躯の大きさは自分で変えられるはずだ。問題はそうした場合、元の大きさに戻るのに時間が掛かる事だが、そこは上手くすればなんとか出来るだろうね」


 俺としてはずっとこのサイズのままで居て欲しいのだが、緊急時にはそういった事も有り得るのだろう。

 俺には詳しいことは分からないが、ボスがなんとかしてくれるらしいので任せることにした。



「さて、楽しいダンジョン攻略はどうだった?」


 いきなりの問いかけに、数時間前の出来事を思い出す。

 一応はあのスケルトンには勝利したが、辛勝だった。

 勝てたのだから、少しは力が付いてきたと思いたいが、課題が残った戦いだったと思う。


「楽に攻略できるとは思ってなかったが、あんな調子ではとても時間内にはクリア出来そうもない」


 一番の問題点をあげるとしたら、持久力のなさだろう。

 扱う魔法は強力だが、一度の使用にかかるコストが莫大すぎる。

 再生力があったって、クールタイムが長すぎるとかえってそれが仇となる場合もある。


 本来ならその欠点を補うように立ち回るのが正解なのだが、それ以外の武器を俺は持っていない。

 要は地力が足りない、と言うことだ。


「魔法を扱えるようになる以外に、近接戦闘にも慣れないといけない、というわけだ」


 掻い摘まんで告げたボスの言葉に頷きを返す。


 ガウルのような腕力や脚力があれば良いのだが、無い物ねだりだ。

 結局は努力するしか道は無い。


「ああ、それと。再生力を強化したいと言うのなら容易いことだ」

「何か手段があるのか?」

「ジェフに備わっている回復力というのは、身体が傷ついたら自動的に治してくれるものだ。けれど、それの根源は魔素が関係している。君の頭の悪い魔法の使い方と一緒ということだね」


 ボスが言うには、再生力を高めるには意識すれば良いらしい。

 もっと簡単に言うと、早く治れと念じて力を込めるのだとか。

 自動回復しているところにさらに魔素を込めてやればすぐ治るよ、とのことだった。


 数時間前のダンジョン攻略で魔法――魔素の扱いにはだいぶ慣れた。

 言葉で聞いたところでピンとこないが、実際に試してみたら案外難しくなさそうな気もする。


「でもこれには一つ注意点がある。リスクの話だ」


 人差し指を立てて、ボスは声音を変えた。


「魔法と違って魔素を体外に放出するのではなく、それを使って身体を再生する事になる。よって、生えてくるのが人間の腕とは限らない。亜獣化症の原理と同じだよ。もっとも、私も試したことはないから、実際にやってみるまでは結果は誰にも分からないだろうけどね」


 つまり、身体を治した分だけ人間とはかけ離れていく、ということか。


 こんな身体になったが、いまいち人の道を外れたという自覚が薄かった。

 もちろん、身体が治るなんてそれだけで異常なんだが、そう思うのは俺がまだ人の身体を残しているからだ。

 ガウルのようにあからさまに半魔とわかるような体躯ではない。


 だから実感がなかったのだが、ボスの言葉で目が覚めた気がする。


「まあ、これをリスクと捉えるかどうかはジェフ次第だ。街で暮らすなら人間の身体の方が都合が良いけれど、形態変化したところで案外、使い勝手が良いかもしれないよ」


「ああ、そうだな」


 元々、人間の身体にはそれほど固執はしていない。

 俺にはミルが居ればいい。

 それに、余計な事に執着して大事なものを護れなければ世話は無い。


 俺の一番はミルで、それ以外は二の次だ。

 俺の身体がバケモノになろうと、それだけは揺るぎない。




ミル(小)のイメージはイグアナやトカゲを想像してください。それのドラゴンバージョンってことで。


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