信用に値するもの
けれど、そんな俺の一縷の望みは粉々に打ち砕かれてしまう。
「心配だって? 何で僕がそこまでジェフのことを気にかけてやらなくちゃいけないの? そんなことをしたって僕の得にはならないし、第一家族でもない人間にそこまで親身になる必要も感じない」
清々しいほどの否定に、心が折れかける。
棘がある物言いに、なんだか地雷を踏んでしまったかも知れない。
「ジェフってたまに気持ち悪い事を言うよね」
「気持ち悪いって……これが普通じゃないのか?」
「それはジェフが特殊なだけ。他人の心配をして気にかけたところで、巡り巡って返ってくるのは悪意だけだ。それが家族であっても同じ事。心当たりくらいあるんじゃない?」
言われて、思い出すのは両親のことだ。
ロベリアの言い分も理解できる。あんな事がなければ、ミルだって傷つくことはなかった。
「僕はヴァンパイアで、少しだけ長生きだから、そーいうのは今までたくさん目にしてきた。人は簡単に裏切るものだから、易々と信用しない方がいいよ。もちろん、僕のこともね」
けれど、だからってすべての人間が損得勘定で動いているわけではない。
俺がそう思えるのは、俺だけ境遇が違うからだ。
ミルや他の半魔の人たちと同じような差別や迫害を俺は知らない。
ついこの前まで、人間として生きてきて何不自由なく暮らせてきた。
この世界に蔓延る理不尽さを知らないわけではないが、当事者ではないというだけでこの国では生き易さが段違いだ。
だから、ロベリアが何を想ってこんなことを言うのか。本当の理由は俺には理解できないだろう。
痛みや苦しみは本人にしか分からない。周りはただ分かった振りしか出来ないんだ。
「でも、そんなの辛くならないか? 誰かを信用しないのも、できないのも」
そんな考えを持ってしまうのは、とても悲しい事だと思う。
だからってそれは違うと頭ごなしに否定できるほど俺はロベリアの事を知らない。
それでも、こうして俺の戦闘訓練に付き合ってくれている。
その事実だけは疑いようのないものだ。
例え、自分のことを信用するなと言っても、その言葉をすんなり受け入れるわけにはいかない。
「俺の事をどう思おうが自由だけど、俺はロベリアの事は信用に値する奴だと思ってる。そう思いたい。それで裏切られたら、その時はその時だ」
「……そーいうこと言っちゃうの、ジェフってやっぱり信じられないくらいお人好しだよ」
「そ、そうか」
「その選択、後悔しないと良いね」
少しだけロベリアの笑った顔を見れた気がする。
今の微笑みの意図は不明だが、なぜだか優しげな感じがした。
呆けた顔をしてロベリアを見つめていると、うざったいと言わんばかりにそっぽを向かれた。
「腕、治ったみたいだしさっさと次行っちゃわない? こうして付き合ってるけど、僕だって暇じゃないんだ」
「ああ、そうだな」
ロベリアに言われて、腕が完治していることに気づいた。
元通りに動くし、痺れもない。いつも通りだ。
これでこの先に挑める。
「この先には何が居るんだ?」
「んー、スケルトンかなあ」
「スケルトンって、動く骨のあれか? あんなのがこの先に居るって?」
それだったら楽勝じゃないか!
ボスが手強いだなんて言うから、どんな魔物が居るかと思ったがこれならすんなりと次の階層までいけそうだ。
身体に不調がないことを再度確認して、扉を開ける。
目の前には大広間が広がっていた。
そこには、俺の身の丈なんて比じゃない。
下手したらミルの体躯ほどあるのではないかと思うほどに、巨大な骨のバケモノが居た。




