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よくわかる魔法教室

 

「まずは何でも良いから魔法を一つ使ってみてくれないか?」

「わ、わかった」


 ボスの指示に従って、俺は意識を集中させた。


 しばらくすると、手のひらにはこぶし大くらいの大きさの炎がゆらゆらと揺らめいてきた。


 再度、魔法を使用してみて分かったが、どうやっても俺の限界はこれくらいのようだ。

 以前と変わりは無いし、特に際立った変化もない。


 ちらりとボスの様子を伺うと、なにやら食い入るように俺を見ている。

 俺と言うよりも俺が出している炎の方だ。


 何か気になることでもあるのだろうか。


「これ以上はどうやっても無理そうだ」

「ふむ、基本は出来ているみたいだから問題は無いね。魔素の形態変化と制御も人並み以下だけど、きちんと出来ている」

「……どうも」


「ジェフが魔法に不得手なのは、やはり技量の問題だね」

「才能が無いってことだろ? 何度も言わなくてもわかってる」

「いいや、ジェフは何もわかってない。見たところ基礎はちゃんと出来ているよ。魔法を使うには順々にステップを踏まなければならないんだ」


 ボスが言うにはこういうことらしい。



 一、目に見えない魔素を形態変化させて炎や氷などに留める。


 二、それを霧散しないように枠を決めて形作る。


 三、そこまで出来たら自分の技量にあった威力まで増大させる。


 四、それを保ったまま相手目がけて放出する。



 大まかに言えばこれが魔法を使用するに当たっての手順だと言う。


 言葉で説明されれば難しく感じるが、実際に使うとなるとそこまで難易度は高くない。

 現に俺も出来はアレだが、きちんと魔法としての形は保てている。


「先ほど、ジェフはこれ以上は無理だと言ったね。それはなぜだい?」

「なぜって……上手く説明は出来ないけれどこれ以上威力を強めると形を保てないというか、そんな感じがしたから」


 感覚的な事を言葉にして伝えるのは難しい。

 しどろもどろになりながら答えると、ロベリアが「はい!」と勢いよく手を上げた。


「それが原因なんじゃない? ジェフが魔法使えないの」

「……というと?」

「無意識に制御してるってこと!」


 無意識に制御、と言われてもピンとこない。


 そもそも魔法の基礎はボスが先ほど言ってくれた通りだ。

 その手順を外れたり、自分の技量に合ったレベルでなければ、魔法として使えたものじゃない。


「うん、ロベリアの言うとおりだ。優秀な生徒を持てて先生嬉しいよ」

「やったー褒められた! どう? 羨ましいだろ! ガウルには逆立ちしても無理だもんね」

「……俺はなにも言ってないだろう」


 いつもの戯れが繰り広げられる中、俺はまったく意味を掴めないでいた。

 それを見かねてボスが説明をしてくれる。


「無意識にしてしまうことの大凡は、身体の防衛反応が働いているからだ。危険だと分かっているからその先には進めないと脳が判断している」

「……今の話と俺が魔法を使えるようになるっていうのは関係があるのか?」


 けれど、いまいち話の要領を得ない。

 難しい顔をしている俺に、ボスは補足をしてくれた。


「それじゃあ少し視点を変えてみようか。ジェフが出して見せた炎。あれをもっと強化するにはどうしたら良い?」

「どうしたらって……炎の威力を上げる?」

「正解。火力を上げれば良い。簡単な話だよ。篝火の火力を上げるには薪をくべればいい。威力の底上げは、魔法に込める魔素を増やすんだ」


「でもそれだと制御できない」

「ふむ、その通りだ。けれど、それは単に制御できないだけで使えない訳ではない」


 試しにやってごらん、とボスは俺に匙を投げた。


 釈然としないが、ここは言われたとおりにやってみよう。


 先ほどのように、手のひらに炎を作り出す。

 出来上がったのは、こぶし大の見慣れたもの。


 ここから先は……確か火力を上げるんだったか。込める魔素を増やせば良いんだったな。


 魔素の扱いには慣れていないが、さっきの魔石の要領でいけば力を込めればなんとかなりそうだ。



 意識を集中させると、こぶし大だった炎が大きく形を変えた。

 手のひらに収まりきらないほどの炎の柱が俺の右手から立ち上る。


 まるで火の中に油を入れたみたいな勢いに気圧されていると、一瞬遅れて鈍い痛みが神経を走った。



 それもそのはず、俺の右手を炎がこんがりと焼いていたのだから。



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