宝の持ち腐れ
ボスの言葉は正直理解できなかった。けれど、妙に説得力はあるように思う。
「どういう意味ですか、ボス」
俺の代わりにガウルが先に尋ねる。
元々、俺は魔法は使えない。それはここにいる誰しもが知っていることだ。
魔石での魔素測定の結果がどうであれ、今の俺の状態から魔法が使えるようになるとは到底思えない。
「今の魔素測定、どうして魔石が消えてしまったと思う?」
「……わからない」
「この魔石を使っての魔素測定はもちろん魔素の量を測るものでもあるけれど、それとは別にもう一つ分かることがあるんだ」
「わかること?」
「魔素の瞬間的な爆発力。要は魔法を使用するに当たっての威力のようなものだね。それが強ければ強いほど魔法の威力は上がる。けれどこれは、必ずしも魔素の量とイコールではないんだ」
「もちろん、魔素が多ければその分強力な魔法も扱える。半魔にとってはそれが力の源泉だからね。そこは揺るがない。さっきロベリアが言ったように、魔石を粉々に砕くだけなら幾らでもやりようはある。時間を掛けてゆっくりと砕いていけば良い。けれど、それならば誰にでも出来てしまう。問題なのはそれを短時間で済ましてしまうということだ。もちろんそれを成すには莫大な魔素がなければ成立しない」
「つまり、ジェフは私よりも魔法の素質はある、ということだねえ」
ボスは驚きもせず、淡々とそんなことを言う。けれど、俺にはまるで実感がない。
実際に使えるのなんて、暗闇で明かりを灯したり火を付けたりそれくらいだ。
そんな俺がボスよりも凄いと言われても、はいそうですかとは信じられない。
俺の心情を察したのか、「でも」とボスは言葉を続ける。
「残念なことに、才能の方はまったく無いみたいだけどね」
「じゃあ、やはり魔法は使えないんじゃないのか?」
どれだけ魔素があったからといって技量が無ければ魔法は使えない。
けれどボスは俺の問いにかぶりを振った。
「普通に魔法を行使しようとするならそうなるね」
「……普通に?」
どういうことだろう。
まるで普通以外の方法なら魔法を使えると言っているように聞こえるのだが。
「あー、確かにあれならジェフでも使えるかも」
ボスの話を聞いて、ロベリアが合点がいったように声を上げた。
「でもあれなあ。ふつーに考えてまともじゃないし、頭の悪い使い方だしオススメはしがたいかも」
「そんなにヤバいのか?」
「うん、下手すると死んじゃうかなあ」
「えっ!?」
さらっと告げたロベリアに、開いた口が塞がらない。
魔法って、使うだけで死ぬものなのか?
使用者にそんなリスクがあるものなんて聞いたことがない。
「し、死ぬのか? 魔法を使っただけで?」
「それくらいのリスクはあるだろうね。もっともそれは普通の生物に限ったことで、ジェフなら死ぬことはないだろう。……手足の一本や二本はなくなるだろうけど、たいした問題ではないね」
ボスは笑いながら俺の疑問に答えた。
けれどボスの態度とは裏腹に、そんな軽々流せる内容ではない。
今、手足がなくなるとか言ったか? 俺の聞き間違いじゃなく?
そもそも、手足の一、二本ってそれ、ほぼほぼ全部持っていかれてるじゃないか!
たかだか魔法を使うってだけでリスクが大きすぎないか?
「手足がなくなるって……これ俺が魔法を使うって話だよな? 攻撃されるとかではなくて?」
「そんなに難しい話ではない。けれど如何せん、当たり前の事すぎて盲点を突いているやり方だから突拍子もない事のように思えるだろうね」
「習うより慣れろと言う。一度試してみたらどうだ?」
痺れを切らしたのか。ガウルが強引に話の腰を折った。
門外漢なものだから、長話に飽きたのだろう。
けれど、ガウルの言にも一理ある。
実際にやってみた方が俺も理解できるはずだ。




