魔石測定
「つまり、魔法は使えるには使えるけれど、戦闘で使用できるレベルではない、ということかな」
「ああ、間違いはない」
ボスの確認に静かに頷くと、すかさずロベリアが話に割って入ってきた。
「魔法が使えないって分かってたなら、ジェフ、殴られ損じゃない?」
「いや、さっきまでは完全に使えない状態だったから、もしかしてと思ったんだ。結果はこの有様だったわけだが」
以前と違い今は色々と状況が変わった。
だから少しは強化されていると期待したが結果があれでは目も当てられない。
「この際、ジェフが魔法を使えないということは一旦置いて。その原因は何かを考えようか」
「原因なんて、ただ単に才能が無いからじゃないのか?」
「確かにそれもあるけれど、他も考えられる。魔素の量が極端に少ないと魔法は使えないし、後はジェフが言ったように扱う技量……才能が無い場合も難しい」
「うーん、この場合どっちもじゃない?」
「そうなると、こいつはいよいよ役立たずということになるな」
ニヤニヤと笑みを浮かべてガウルは恐ろしい事を言う。
冒険者を生業にしていた時も特に名を上げられるような技量なんて持ち合わせていなかったが、おかしな身体にされた後もそれの二の舞は勘弁だ。
「この際だからはっきりさせておこうか」
そう告げるとボスは空間からなにやら道具を取り出した。
手のひらにすっぽり収まって握れるくらいの大きさの鉱石だ。それを人数分テーブルに置いていく。
「魔石は頑丈な鉱物でね。物理的な衝撃で傷が付く事は無い。けれど魔力……魔素による衝撃には滅法弱いんだ。その性質を利用して魔素の測定によく使用される」
「どうやって測るんだ?」
「魔石に魔素を注ぎ込んで、その割れ方なんかで測定するんだ。ジェフは感覚が掴めていないだろうからもっと簡単に言うと、握って力を込めれば良い。といっても物理では傷は付かないからどれだけ握力が強くてもそれが魔素の測定に影響を与えることはないよ」
試しにやってみよう、とボスが魔石を握りしめた。
三秒ほど握りしめて手のひらを開くと、さらさらと粒子になった魔石が指の隙間からテーブルへと落ちていった。
「うげえ、えげつなっ!」
それを見たロベリアが驚嘆の声を上げる。
けれど俺にはいまいち凄さがわからない。
「そんなに凄いことなのか?」
「当たり前でしょ! 普通はこんなふうに粉々にならないの! しかもこんなきめ細やかな粒子になったりはしないし……ものすごーく時間を掛ければ出来るかも知れないけれど今の見てた!? 三秒だよ三秒! あり得ないからね!」
ロベリアの力説に、ボスは笑って魔石の粒子を払った。
今まで普通に受け入れていたが、空間魔法なんて常軌を逸したものをポンポン使うんだ。ボスがただ者ではない事は察していたが、ロベリアの話を聞くに相当な人物みたいだ。
「いまいちジェフの理解が得られていないようだから、今度はガウルがやってみせて」
「うっ、俺がですか?」
「その方がジェフもわかりやすいと思う。一緒に普通の石ころも握りしめてパフォーマンスもして見せてあげたらどうだろう」
「……わかりました」
渋々、ガウルが魔石を握りしめる。左手には地面に落ちていた普通の石ころを握りしめた。
グッと力を込めて、手を開くとそこには表面に少しヒビが入った程度の魔石が残っていた。対して左手の石ころはものの見事に粉々だ。
「俺はそんなに魔素が多くはないから、この程度だ。魔法は使えなくはないが、それで戦うよりは身体の強化に使用する方が何かと勝手が良いからな。断じてお前のように魔法が使えない訳ではない」
「あ、ああ。そうみたいだな」
機嫌が悪いのか、少し八つ当たりのようにも感じるガウルの言動に、なるべく刺激しないように言葉を選ぶ。
けれど、そんな俺の努力を無に帰すかのようにロベリアが立ち上がった。
「ちょっと、ガウル。魔石割れないからってムキにならないでよ」
「ムキになどなっておらんわ!」
「ふーんだ。この勝負じゃ絶対勝てないからって、ジェフに八つ当たりとか大人げない犬っころなんだから!」
吠えたロベリアが真っ二つに割れた魔石をガウルに投げつける。
いつの間にかロベリアも試していたみたいだ。
綺麗に二つに割れた魔石は、ガウルが軽々と避けて地面に転がっていく。
この二人の結果を見るに、やはりボスは別格だ。魔素の量もそうだが魔法の技量もとんでもない。
こういうのを天才と人は呼ぶのかもしれない。
「さて、最後はジェフの番だ」
ボスの一声で喚き散らしていた外野が一瞬で静かになった。
それを合図に魔石を握りしめる。
もしこれで割れるどころかヒビも入らなければ、俺は本当に役立たずだ。
強くなるなんて夢のまた夢。ミルだって護ることも難しい。
ギュッと力を込めて、恐る恐る手を開く。
――そこには何もなかった。
さっきまで握りしめていたはずの魔石がどこにも存在しない。
ボスのように粉々の粒子になった、というわけではない。
その粒子さえも、どこにもないのだ。
「――えっ?」
素っ頓狂な声を上げて周りを伺うと、ガウルとロベリアが面食らったように固まっている。
俺も意味が分からないが、彼らも目の前の現状に理解が追いついていないようだ。
――ただ一人を除いて。
「おめでとうジェフ。君はちゃんと魔法が使えるよ」
告げて、ボスは祝うように俺へと拍手を送った。




