クラスチェンジ
ゲートの向こう側は、いつもの談話室へと繋がっていた。
先に向かったダンジョンマスターとガウルの他に、ロベリアもテーブルに座して退屈そうにしている。
ダンジョンマスターが招集したんだろうか。
ロベリアには、初対面であまり良い印象を抱かれなかった。おそらく俺の事は嫌ってそうだが、そうは言っても仲間のようなものだ。
仲良くは無理でもそれなりに友好的に接していきたい。
「……おはよう」
「は? なに?」
「いや、だから……寝てたんだろ?」
「そうだけど。パーソナルスペースの取り方おかしくない? 僕、生ゴミと仲良くなった覚えないけど」
「生ゴミ……ではなく、ジェフだ」
「まだ名前教えてもらってないから、今のはノーカンってことで」
「お前ら、姦しいぞ。少しは静かにしたらどうだ」
「はあ!? ガウルこそ、毎回小言が五月蠅いんだけど!」
「ボスは今日一日、ご多忙なのだ。喚くな、耳に響くだろう」
「ガウルのお節介の方が小煩いと思うけどなあ!」
「君たち、本当に仲悪いねえ」
こんなやり取り、つい数時間前にも遭遇したような気がする。
のほほんとしているダンジョンマスターを尻目に、テーブルに着くと一息つく。
傍らに外した仮面を置いたところで、じゃれあいが終わったのか。ロベリアが口火を切った。
「というか、ボスに聞き忘れてたんだけど。この……ジェフ、だっけ? なんなの?」
びしっと指を指されてロベリアがダンジョンマスターに問い質す。
こういう場合、自分の事なのだから俺が答えるべきなんだろうけど、今置かれている状況がどういうものなのか、俺もよく分かっていない。
ミルのことがあって、なあなあになっていた。
「ジェフはダンジョン内で死にかけてたから拾ってきたんだ」
「ふうん。ただの人間にしてはクソ不味いみたいだけど」
「食用で置いているわけではないから、食べるのはやめて欲しいかなあ」
笑み混じりで告げるダンジョンマスターの言葉に、うんうんと頷く。
ここにいる奴らは前科があるから、こうして釘を刺して貰わないと俺も安心できない。
「他に聞きたいことはあるかい?」
「質問がある」
「なにかな」
「今までのことを察するに俺に何かしたんだろうが、詳しく説明してくれ。自分の身体だけど、冷静になったらとても気味が悪い」
酷い怪我を負っていたのが傷跡さえも跡形もなく消えているし、先ほど戦った時に負った打撲などもいつの間にか治っていた。
流石にいつまでも気のせいなんて言葉で済ませることはできない。
「小難しい事を話しても理解できないだろうから簡潔に説明しよう。君があまりにも酷い傷を負っていたから、それの治療の為に少し身体に細工をした。原理は亜獣化症と同じだよ。人工的に魔素の潜在量を増加させたんだ」
「……つまり、いずれは人ではなくなるってことか?」
「どうだろうね、それはまだはっきりとした事は言えない。なにしろ私も初めての試みだったんだ。上手くいくか不安だったけれど、見たところ今の君は安定しているように見える。無理をしなければ身体への急激な変化は起こらないだろう」
口答の解説に、どうリアクションしていいのかわからない。
もしかしたら、とは思っていたから卒倒するようなことにはならなかったが、何事にも心の準備というものがある。
「泣き喚くかと思ったが、やけに冷静じゃないか」
「これでもショックは受けてる」
茶化すガウルに、言葉で返して項垂れる。
「あの傷じゃあ手当てしたとしても助からなかったし、治癒能力を高めるために施術したけれど、流石に腕が生えてくるとは思わなかった。不便も何もなく特に変わりないんだろう? いやあ、気持ち悪いなあ」
楽しげにするダンジョンマスターを睨む気にもなれない。
ミルを想えば、人間からクラスチェンジしたところでなんだという話だが、自分の異常性を目の当たりにすると精神的にきついものがある。




