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時よ止まれ、人形よ汝は美しい

今日は3月17日なのでサイナ番外編です


「は?サイナの写真集?」


もう見るからに悪いこと考えてますよ、と言わんばかりのニヤケ面でやってきたペンシルゴンが提案したそれに、俺は思いっきり眉を顰めた。


「なんでまたいきなり……ていうか何企んでるんだよ、プロパガンダか?」


「あのねぇ、衣服ミニマリストの社会不適合者なサンラク君は知らないかもしれないけど……」


割とマジで打ち込んだ右フックだったが、向こうも警戒していたのか回避される。数秒ほどの沈黙ののち、にっこり笑顔で笑い合った俺たちは会話に戻る。


「サイナちゃんはね、それはもう大人気アイドルなワケ。わかる?」


「まぁアイドルグループ完コピのロボだしな」


「そういう話じゃ……ああもういいや、端的に言うね。サイナちゃんの写真集を独占販売すると巡り巡って……」


桶屋が儲かるとかか?


「私がこの世界の天に立つ」


「今ここでお前をキルすれば俺は世界を救った勇者になれるか?」


「前科一犯でしょ」


悪いな世界、俺はクリーンな男なので大災害ペンシルゴンは気合いで受け切ってくれ。


「あのねぇ、君が大ポカやらかしてパブリック配信されたオルケストラ戦は控えめに言ってバズりにバズったわけ、分かる?」


とはいえ、と俺の顔面に指を突きつけたペンシルゴンは話を続ける。


「でも話題の半分はサイナちゃんなわけ、そりゃあもうサイナちゃんは大ブームなんだよ? エルマ型へのプロポーズチャレンジは長蛇の行列、断られてもワンチャン狙って翌日また列を作る、そうでなくとも未契約の征服人形にいの一番にアプローチするべく殴り合い血の流し合い……」


ああそう、としか言いようがない。征服人形の総数がどれ程なのかは知らないが仮に50タイプ100機ずついるとして5000機……需要と供給は完全に破綻している。


「私も早い段階でニーナちゃんと契約できたのは僥倖だね、たまに一緒に買い物して周りにマウント取れるし」


「うーんカスの趣味」


「やだなぁ、確かに私の美の前には万物は(カス)むけどさぁ」


無敵かこいつ。


「話戻すけど、今このゲームには遠巻きに指咥えて征服人形を見ることしかできないプレイヤーが恒河沙の数ほどにいるわけ」


「全人類人口を超えてるじゃねーか……まぁ言いたいことは分かった、需要ってことだろ?」


ペンシルゴンの言い分の通りなら、サイナは(俺の不手際で)全世界公開された配信によって現状世界一有名な征服人形になっている。

だからこそ、写真集なんて出せばいくら値段を釣り上げてもウッハウハってわけだ。


「で、ギャラは?」


「ボランティア」


左ストレート、回避された。


「5:5」


「製本技術あるわけ?1:9」


「サイナ無しで風景画集でも出すのかよ?4:6」


「3:7だね、流石にこれ以上は譲れない」


まぁよしとしよう。ドアの隙間から顔を突っ込まれた気がするが、元よりちょっとした副収入なのだからそこそこの儲けでも良しとしよう。本気で稼ぐならマブのところに突っ込むだけだし。






というわけでプロジェクト「エルマ=317写真集〜球体関節の歌姫〜」が発足したわけだが。


「死ねオラァ!!」


「黙りゃクラァ!!」


おー、見事なクロスカウンター。

バカとバカが崩れ落ち、事切れたのを眺めながら俺は欠伸をするのだった。


まぁ何が起こったかといえば、ボランティアとして使い潰す前提でこき使ってくれて構わないから優先購入権をくれ、と立候補した着せ替え隊(バカども)がやってきて。

写真集っていうならそりゃあ当然衣装は複数必要だろうという流れになり。


「カス共がッ! 俺が総意(テッペン)だッッ! わ゛ぁったか!!」


そして今、スク水だのビキニだのスモッグだのを全員殴り倒したサバイバアルが、満を持してチャイナドレスを推薦したのだった………


「サイナ、アンドリュー査定的には?」


「回答:そのタイプの場合アウトかと」


「くそぉぉぉーーーーーーーーっ!!」


そして誰もいなくなった……と。

膝をついて動かなくなったサバイバアルを放置して俺は殴り合う着せ替え隊を楽しげに眺めていた総監督ペンシルゴンに問う。


「で、どうすんだっけか?アイドル衣装は3パターンあるらしいが」


「肯定:デフォルトコスチュームとしてシュテルンブルーム共通衣装、個人専用衣装、グループ内ユニット衣装の三種類を初期装備として保有しております」


「いいねいいね、まぁでも三種類とか少なすぎだからもっと衣装用意しないとね〜」


「具体的には?」


「最低30、完全に同業他社をねじ伏せるなら50」


「正気か?」


「え?一月コーデとかならそんなもんでしょ」


あ、無茶振りとかではなく当たり前、と……煽るとかバカにするでもなくサラッと流されたあたりガチのようだ。


「で、その衣装はどうするんだ?」


「んー、最高の着せ替え人形が着てくれるわけだからね。口の固いのに何人か声をかけたら金を払ってでもやらせてくれって言うからさぁ……払ってもらったよね、金」


新手の詐欺だろこんなの………なんか今俺が面倒になって逃げたら目の前のこいつより服作ってるプレイヤーに申し訳が立たない気がしてきた。


まぁそもそもの話、この写真集制作にサイナが乗り気ってのが俺から逃走の選択肢を遠ざけている。


「当機は契約を行った機体ではありますが、征服人形の基礎プロトコルである啓蒙活動においては遂行の"推奨"が発生します」


「つまり?」


結論(つまり):どんとこい、です」


さいですか、と。ドヤ顔でサムズアップするサイナが問題なら俺がとやかく言うこともないだろう。あと単純にここでノーと宣言するとバカどもがしがみついてきそうな気配がする……


「さーて! 思う存分殴り合ったならここからは地道な裏方作業だよ着せ替え隊諸君! 撮影スポットの指定、人払い、獣払い、その他諸々! きりきり働いて貰うからねーっ!!」


サバイバアル以外は大体瀕死状態なので、死にかけのプレイヤーたちが「おー」と応えている姿はさながらゾンビの群れのようであった。






・第一撮影スポット「涙光の地底湖」


今は懐かしい涙光の地底湖にやってきた。ここは主にシャケとウミヘビ(湖だからミズウミヘビ?)とザリガニが生息しており、序中盤にかけては良い経験値稼ぎスポットだ。

とはいえ、今はその薄く青と緑の中間のような色に発光する神秘的な地底湖、という部分が主目的だ。


「サンラク君、こういう写真撮影には一つ真理があるんだよね」


「というと?」


「文明のかけらもない大自然の真っ只中に突っ立ってるだけで"映える"」


というわけで撮影開始……の前に。


「よーしお前ら!とりあえずこっち襲ってくるモンスターいくつか間引くぞー!」


応、と着せ替え隊の何人かが湖の中へと飛び込んでいく。俺は陣頭指揮を執っているサバイバアルに話しかける。


「生き餌か?」


「いや、水中戦が出来る連中だ。デストロブスター以外ならソロで狩れる奴らだからな、サーペントを狩りゃあデストロブスターも湧いてこねえだろ」


成る程……全部狩る必要はないのか。ところで今、飛び込む瞬間に湖から飛び出してきたデストロブスターの鋏に捕まって引き摺り込まれていった着せ替え隊なんだが。

プレイヤーの死はNPCが石に躓いて転ぶ怪我よりも心配されないもの。人一人がロブスターの餌にされたところで誰も気にはしないのだ………………十分後、「いやーびびったびびった」と帰ってきた本人も含めて。


というわけで一時的なレイクサーペントの枯渇、及び餌が無くなったことでデストロブスターも湖面に寄らなくなったので撮影開始。テーマは「湖面に立つ歌姫」だそうで。


「具体的にどう立たせるんだ?」


「征服人形ならこう、水面ギリギリに浮くとかできない? ジェットパックみたいなのとかあるじゃん?」


実際にやってみた。


「実行:水面より1ミリ浮上した状態を維持しています」


征服人形は本体(それ)単体では空を飛べないが、外部補強することによって様々なアクションを可能とする。というか戦術機だって使うことができる。

とはいえゴツいメカを撮影するわけにもいかない、なんというか需要の方向性が明後日の方向に行ってしまうからな。ただそっちもそっちで金づるの匂いがするが。

というわけで、腰の後ろ辺りに接続された飛行機能を持つウィングによって水面スレスレのところで滞空するサイナの姿は、オーダー通り「水面に立っている」姿、と言っていいだろう。

だが、ペンシルゴン監督の視線は鋭い。


「うーん…………なんか違うよね」


「何がだよ」


「あの飛ぶための羽………やっぱ”逃げ”なんだよね。アレがある限りどう誤魔化しても「立ってる」じゃなくて「飛んでる」「浮いてる」なんだよ」


つまりなんだ。


「浮く、じゃなくて立たせたい、と」


「そうなるね」


「どうにもならねえよ」


とはいえ思いついたアイデアをそのまま捨てるのも勿体無いので何か実現案がないかを皆で考える。何せここはファンタジー、リアルじゃできない解決法もあるはずだ。


「水面を凍らせて足場を作るのは?」


「足場にするなら湖底まで氷を伸ばさないとダメだし映り込むだろ」


「ワイヤーか何かで吊り下げるのは?」


「この天井で行けるか?」


あちらを伸ばせばこちらが引っ込む。段々と動きの激しい踊りを始めた会議であったが、ここで沈黙を貫いていたペンシルゴン一声が鶴の一声を上げた!


「足場を入れたくない……を、逆に考えよう」


「何?」


「サイナちゃんという存在を語る上で欠かせないもの、それが写り込むなら許容範囲にできる」


サイナを語る上で外せないものを足場に……?

一体何を指しているのか、ペンシルゴンは一体何を…………………おい、ちょっと待て。


「なぜ俺を見る」


「サンラク君ってさぁ、上下逆さに立てる(・・・)よね」


はいはいなるほどね? 俺が上下逆さに立って、その足の裏にサイナが立つ、と。


「それ俺思いっきり水中に沈むよな?」


「さらに言うと絶対口と鼻から空気出さないでね、このゲーム吐息でちゃんと泡できるんだから」


「水死体になれと!?」


「あと聖杯あるでしょ、あれで性別変えてね。同じ水死体ならせめて見た目いいほうがマシでしょ」


実際にやってみた。


「……………」


水の中から見た水面、すなわち水と空気との境界を「床」に見立てて立つ。それ自体はまぁ数度の試行で可能だった。

とはいえ無限にその体勢を維持できるわけでもないので撮影断行ッ!


「いいよいいよサイナちゃーん! ちょっと視線上向けてみようか!」


奴は撮られる側であって撮る側ではない気はするが……餅は餅屋とはまた違う気もするが、旨い餅を知ってるのは食う側も同じか。ごぼぼぼぼ


「こら足場! 呼吸しない!!」


死ねとおっしゃる?







・第二撮影スポット「サードレマ上層」


「テーマは「お嬢様のお忍びデート」で」


「相手役は誰ですか? 事と次第によっては今この場で私は暴れます」


過激派着せ替え隊の女性が両脇を固められて連行されていった。サバイバアル曰く帰ってくる頃には"いい子"になっているそうだ。なんつーかこいつら気風がディストピア系のSFなんだよな……

サイナが換装した現代風の私服にし(オシノビ・カモフ)か見えない衣装(ラージュ・パッケージ)に興奮しすぎて連行されたor連行していったことで半分以下まで数が減った着せ替え隊を半目で一瞥しつつ、市井に紛れているようで紛れていないようなサイナへと視線を戻す。


「文明レベルズレてないか?」


「許容範囲内かと。補足するなら………」


サイナはそう言うとその場でくるりと回り、渾身のドヤ顔を決める。


「場に”合わせる”以上に、当機(わたし)自身に”似合う”組み合わせ(コーディネート)を。それこそが最大のインテリジェンスです」


「お゛ぬ゜っ」


この世のものとは思えない呻き声が背後で聞こえた気がするがあえて振り向かないことにした。やだよ俺、振り返ったら脳波異常をシステム検知されて強制ログアウトされたプレイヤー見るの。

後ろを振り返り、凄い間抜けな死に方をしたドブネズミを見るかのようなペンシルゴンの視線が俺の仮説に真実味を持たせている………


「……とりあえず、撮影始めよっか」


「悪い、さっき連行されてった女がカメラマンだ」


ものすごーーーーーーーーーく長い溜息を吐いたのは果たして俺か、ペンシルゴンか。俺も奴も頭痛が酷い顔をしていたのでどっちが無意識的にため息をついたのかは分からなかった。


というわけで小休止。カメラマン……というか脱落した連中がいい子になって戻ってくるまで今後の打ち合わせ。


「いやだからあそこで撮影は無茶通り越して………」


「うーっす戻りました~」


「めっちゃいい子になりましたもう連行されません!」


「は? サイナちゃんの現パロデート服ヤバすぎでしょこんなん実装するとか運営ヤバす」


1人また連行されていった。まだいい子ではなかったらしい………


「いや無限ループか!」


「もしかしてこれ壮大なボケだったりする?」


「いや本当すまん、流石にちょっとふざけすぎてるな……おうお前ら! いい加減シャキッとしろ!!」


流石のクランリーダーストップが入ったので、ようやっと真面目なお仕事が始まった。


「あ、そうだサンラク君ちょっとコレ着てそこら辺に立ってて。うん、そこそこ。あ、こっち向かなくていいよ背中向ける感じで………オッケー、じゃあ撮影開始!」


「…………うん?」


なんか自然な流れで俺も撮影範囲に立たされてないか? しかも、文句を言おうにも振り向いたら顔を撮られるわけで…………


「あのこれ何かしらの策略に巻き込まれてないか俺」


「あはは、そんなわけ」


「「……………」」


「何を企んでいるペンシルゴンーッッッ!!」


「撮影中なんだからそこから動かないっ!!」


くそっ、一体何をされているんだ俺は!!


「はいサイナちゃんちょっと目線あっちに向けてみよっか。うん、いいねぇ!!」


ねえ本当俺何されようとしてんの!?





……


…………


………………



そうして、ペンシルゴン監督の指示の元、撮影は続いた。なんなら日を跨いだ。

監督が「天候に妥協するなッ! 昼に撮りたい写真は昼に撮る!! 妥協はファンに見抜かれる!!」とキレたせいで昼に集まって撮影する羽目になったし、なんなら旧大陸だけではなく新大陸にも行く羽目になった。


そして被写体であるサイナはといえば、既に何度着替えたか数えるのも億劫なほどに衣装を変えてポーズを変えて撮影され続けている。

覚えてる限りだと執事服、アイドル衣装、アイドル衣装(1)、アイドル衣装(2)、アイドル衣装(1)(1)、アイドル衣装(1)(ネコミミ)、アイドル衣装(1)(1)(1)………正直それさっきの服と何が違うの? と言いたくなるような服がいくつもあった気がする………


「サイナお前よく疲れないな………」


「指摘:当機(わたし)征服人形(コンキスタ・ドール)です。こういった啓蒙活動は主目的の一つであり、更に補足するなら有機生命体のような血流の循環阻害、乳酸の蓄積など……つまるところ疲労とは無縁であり………」


「いや気疲れ(・・・)の方の話な。征服人形だって心まで無機質じゃねーだろ、単純に飽きないか?」


「───」


「なんだよ?」


何故か目を丸くしてこちらを見るサイナであったが、数秒してわざとらしくこほん、と前置きして俺の問いに応える(・・・)


「───お気遣い感謝します契約者(マスター)。ですが問題ありません、当機わたしのインテリジェンス・メンタルはこの程度では一切劣化しませんから」


「さいですか…………放っておいたら腐る有機生命体の俺はもう気疲れしまくってるがな………」


あとどんだけ続くんだよこれ…………







「…………凄すぎて絶句しちゃった。あれがサイナちゃんとウィンプちゃんを射止めた会話術……」


「ツチノコさんあれ素面(シラフ)か今の」


「ロボ系キャラに対するパーフェクトコミュニケーションを見た気がした……もしかしてこれマニュアル化して売ったら大儲けできないかしら」


「サバさんあれリアルで気負わずに言える?」


「俺のリアルにそんな機会あると思ってんのか?」


「あぁ…………聞く人間違えっ、あっやめてサバさんPKの目をしてる! 人殺し(PK)の目をしてるって!!」


「殺しゃしねェよ、ちょっと脳に焼き付ける勢いで殴り続けるだけだ、ツラ貸せや」


「あ゛ーーーーっ!?」



………………


…………


……



撮影は困難の連続だった。

何故か顔面にダメージを受けまくる者、野次馬にキレて手を出したために連行された者、野次馬に紛れて「サンラクをPKすればサイナの契約を奪える」という謎の理論で襲ってきた者、対人戦に慣れた奴しかいない虎の巣と知らずに突っ込んできたせいで袋叩きにされた上で椅子に縛り付けて海に沈められた者……………そんな血塗られた裏事情を感じさせない「綺麗な写真」もだいぶ数が揃ってきた。


だが、最後の撮影スポット………問題は起きた。


「監督! やはりこの場所での撮影は不可能では……!」


「…………」


「監督! 先遣隊が全滅とのこと!!」


「全滅したのになんで報告が?」


「全滅した奴らが教えてくれたからな……リスポーンして」


「命の価値よ」


わあわあ、と騒ぎ立てる着せ替え隊の面々を視界の端に入れつつ、問題のフォトスポット………半透明な美と殺意が大地を埋める、奥古来魂の渓谷上層水晶巣崖を見据える。


「あそこで撮影は文字通り自殺行為だろ……」


だがペンシルゴンの言わんとすることは分かる。

水晶巣崖はフォトスポットとしてはシャンフロでも五指に入る景観の良さを誇る。危険度も五指に入るのが問題なのだが。

数多くのプレイヤーが「まぁちょっと入るだけなら、撮影するだけなら」と足を踏み入れては卓球の球より酷い末路を辿るのはありふれた光景だ。


あいつらのぶっ飛ばし、基本的にノックバック(強)なのでラリーが始まった時点で詰みなんだよな。


話を戻すが、アホほど危険なスポットであるからこそ「水晶巣崖での撮影の成功」は後追いに対する最大の壁、そして後追いが現れたとしても「元祖の強み」として成立するわけだ。

とはいえ、無理なもんは無理と言いたいところだが………ペンシルゴンめ、分かって強行しようとしてるのは俺の資金リソースがここであることを前提としていやがるな。

要するに、お前ならなんとかできるんじゃないかと言いたいわけだ。


「サンラク君、なんとかならない?」


「うーん………………できなくもなくもない……が………」


俺の言葉に周囲の視線が集まる。とはいえな………最近の水晶群蠍の知能指数(AIレベル)がどんどん発達してるので果たして通用するかどうかは難しいところだが………


「まぁダメで元々、やってみるか」




最終撮影スポット「水晶巣崖」


あえての初期衣装。背景(フィールド)の美しさにサイナ本人の本来の魅力を以てして釣り合いを取らせる。それがペンシルゴン監督の方針であった。


「いいか、水晶群蠍が侵入者を感知する方法は基本的に振動察知だ。デカい音を立てれば当然気づくし、気づいた個体が立てた音に他の個体が連鎖して反応する……これが袋叩きの原理だ」


連鎖して起爆する爆弾のように、「同類が動いたなら何かがいる」と他の個体が反応することで鼠算が如く次々と水晶群蠍が敵対状態になるわけだ。

だが、もしそうであるならば一つ疑問が生まれる。

近辺の水晶群蠍が同族の音に反応して起動するなら、連鎖的に水晶巣崖全域……いや厳密には渓谷の上層なので”片側”全ての個体が起動するのではないか。だが、ここで幾度となく死んできた俺だからこそ言える。全力で走り回って騒音を撒き散らしても二十体出現すれば多い方だ。

あの黄金の皇との戦いの際には、明らかに二十以上の個体がいた…………つまり、出現数には上限が設けられている、あるいは水晶群蠍が反応する振動には下限(・・)がある。


「単純な作戦だ。陽動班が全力で騒いでヘイトを稼ぐ、その間に撮影を済ませる」


撮影場所の周辺にいる水晶群蠍を、撮影によって生じる振動を感知できる限界距離よりも遠くまで誘導する。

そうすれば無か蠍が生えてでもこない限りは安全な撮影が可能……なはず。


「ンな単純な作戦でいいのかよ?」


「言っとくが陽動班は撮影場所から近すぎず離れ過ぎずの距離を維持し続けながらあのクッソ最悪足場のエリアで生き延び続けないといけないぞ」


あそこはとにかく足場が悪い。そのくせ蠍の方は多少の障害は文字通り粉砕して突っ込んでくる。というか跳んでくる。


「はっ、単純なのに変わりはねえじゃねえかよ……生きるか死ぬかだ」


嗤うサバイバアルが何に思いを馳せているか、大体察せられるが…………


「猿か蛙か、何をイメージしてるかはしらんが相手は蠍だし…………奴ら飛び道具も持ってるからな」


飛ばないからといって、飛ばさない(・・・・・)わけではない。頻繁に使うわけじゃないが、ないとあるでは天と地ほどの差がある。色々なモンスターと戦ってきたが、やはり水晶群蠍系列こそがこのゲームにおける完全生物な気がするぜ。


「じゃれるにしちゃあ悪かねえだろ。おう、回避スキル5個以上持ってる奴ら集まれや。陽動に回るぞ」


「ああ、それともう一個条件があるよ」


ここでペンシルゴンが言葉を挟む。


「撮影背景に一匹の蠍も入れないこと。当たり前だけどプレイヤーもね」


「なるほどな……」


撮影場所にもよるだろうが、どれだけの対人強者だろうがすり潰す質と量の押し寄せを生き延びながら誘導……それも動ける範囲に縛りを設けて、だ。

だが一度啖呵を切った手前、サバイバアルも弱音を吐くことはない。着せ替え隊の中から、機動力に秀でた面子を選出して作戦を練り始めた。


「ていうかサンラクオメーは陽動班じゃねえのか? お前の脚なら誘導も楽だろう」


「撮影中の武装ゼロ状態のサイナを回収する任務があるからな」


征服人形をインベントリアに格納できる範囲はそこそこあるが、そこそこ止まりなのだ。あまり遠くまで離れることはできないし、サイナ側の状況を把握するにも最低でも視認可能範囲にはいなくてはならない。


「ま、俺たちに任せとけや」






十分後。


「無理無理無理無理! 囲み方がガチすぎる!!」


「ちょっ、なんでお前ここに!? あっち担当だろ!?」


「誘い込まれた? 蠍に!? 嘘でしょ!!?」


「水晶投げてきやがる! 猿より賢いぞこいつら!!」


うーん、地獄絵図。

最近の蠍は普通に追い込み漁してくるし投石攻撃(とびどうぐ)も使ってくる。俺が最初に攻略してた頃も味方の損害度外視の総突撃であれはあれで厄介極まりなかったのだが………今はなんというか戦略が悪辣というか。


使い捨ての尊い命たちが気を引いている間に撮影スタートだ。最低限の人数と、極力音を立てない進行で撮影はつつがなく進んでいたが………


「あ、不味いな」


俺は気づいてしまった。


「何、いきなり不吉なこと言い出して」


「あー………」


水晶巣崖の環境はたまにアップデートが入る。

運営のテコ入れ……というよりはシャンフロというゲームのスペック故か、AIが経験を反映して対応してくるのだ。

そう例えば………これまでは水晶群蠍のクラスタが危機を迎え"た"時に現れる存在が、危機を迎え"そう"な時点で現れる、とか。


「残念だったなペンシルゴン、撮影は中止だぜ」


「何この揺れ、百体くらい湧いてくるの!?」


「百体乗っても大丈夫な奴が湧いてくるんだよ……!」


水晶巣崖は渓谷の上層、すなわちこの奥古来魂の渓谷における高所(・・)だ。

その高所がさらに大きく盛り上がる。普段はこの水晶巣崖の大地そのものに"擬態"し、あるいは幼い同族や「皇」の餌として己が身を捧げる事すら厭わぬ献身。だがその献身の本来の役割は種を外敵より守り抜く最大最強の守護者であること。


大地を引き裂くが如く、夜空に掲げられる水晶一直線……巨大なる尻尾。

埋まっていた巨大が伸びでもするかのように起き上がり、通常個体の何十倍も巨大ながらも同じ構造を持つ身体がギシギシと擦れ合う。

身じろぎで落ちる水晶は、それ(・・)と比較すれば砂粒の如しだが、人と比較すればもはや家屋の柱が降り注ぐに等しい。


「…………」


呆然、といった様子のペンシルゴン及び着せ替え隊の面々。

似たサイズのモンスターを見たことがあるサバイバアルですら引き攣った笑みを浮かべている。無理もあるまい、それ(・・)……水晶群老蠍エルダー・クリスタル・スコーピオンは「大きくて強い蠍」じゃない。


「強い蠍が大きい」んだ、アレは。


普通乗用車並にデカい水晶群蠍の、さらに数十倍。立体駐車場がそのまんま動いているようなものだ。勝てる勝てない以前に「戦える相手なのか?」という疑問が先に来る。


「どうするペンシルゴン、あれも退かして(・・・・)撮影続行するか?」


「分かってて言ってるでしょサンラク君」


アレが出たらゲームオーバーの合図だ。軽く鋏を振るだけでこのフィールド全域がちゃぶ台返しされかねないからな。

さらに言えば、あいつが出てくると水晶群蠍の動きが変わる。殺意据え置きのまま、エルダーの行動の隙を潰すような動きにシフトするのだ。

さながら「水晶巣崖」というエリアそのものが敵に牙を剥くかのような絶望っぷりだ。


「ま、機材だのなんだの壊されたくなかったら早めの撤退をお勧めするぞ。見ての通りあいつの攻撃基本全部範囲技だから」


「だろうねぇ……サンラク君はどうすんの?」


「俺? そりゃお前………」


やることは一つしかないだろう。というか、他のプレイヤーも大体同じことしようとしてるんじゃないか?


「エルダーは見ての通り完全に陸上戦艦とかそういう類のモンスターだが……言い換えれば動くこのエリアそのものだぜ?」


戦艦の如し、と形容する以上にピッタリな表現があるとするなら一つしかない。


「動く鉱山が折角出てきたんだ、掘らなきゃ嘘だろ」


「それって私でも一枚噛める?」


参加条件は背中に乗れるかどうか、それ以降は気合いの範疇だ。


「サバイバアルーっ! 背中は宝の山だぜーっ!!」


「最高じゃねえかーっ!」


場所が場所ならダンプカーよりデカい豚に素手で挑んで焼き肉の宴をしてたような野人(サバイバアル)だ。思った通り逃げる選択肢はハナから持ち合わせていないようだ。

頭目の戦意に引っ張られたのか着せ替え隊のメンバーもこの千載一遇のチャンス………需要と供給のバランスなんてクソ喰らえな水晶群蠍素材獲得に目をギラつかせている。


「サイナ、インベントリアに戻っとけ」


「了解:健闘を」


エルダーの背中には通常の水晶群蠍が普通に搭載されているし、エルダーは背中に乗り込んできた敵に対する攻撃手段も普通に持っている、というのは言わないでおく。

初見殺しにはちゃんと引っかかって死んでほしい、そしてその驚きは既知ではなく未知であってほしい……ゲーマーとしてのささやかな願いというものだ。


ちょっとやる気を出しているペンシルゴンを横目に、俺はほくそ笑むのだった………






「………今の()撮れた?」


「バッチリです監督」







そうして、数多の犠牲と悲鳴を積み上げ撮影は終了。

それから幾日かの編集を経て………ついに「エルマ=317写真集〜球体関節の歌姫〜」は完成した。


販売ルートはベヒーモスを利用。リヴァイアサンだと大陸間の壁が結構分厚いし、販売に関する諸々の手間は全てゲーム側……もとい「象牙」がやってくれる。


というわけで俺も見本誌を貰ったわけだが。


「………なんか、多くね(・・・)?」


なんだろう、涙光の地底湖で足場にされた写真があるのはわかる。なんかそれ以外にもやたら俺が写り込んでいる写真が多い気がする。

というか、これもしかしなくても盗撮されてんじゃ…………


そこでふと思い出す、涙光の地底湖でペンシルゴンが口にしていた言葉を。



─── サイナちゃんという存在を語る上で欠かせないもの、それが写り込むなら許容範囲にできる



「あ、あいつ……っ!」


俺も込みで写真集作りやがった……! しかも全部盗撮アングルだし……!!


「確認:……成る程。当機(わたし)のアイデンティティは契約者との関係性に依る部分も大きいのは事実です。であるならば契約者(マスター)と共に撮影されていることも納得できますね」


「九割俺の許可無しで撮影されてんだがな!?」


「さしたる問題ではないのでは? 契約者(マスター)の姿は聖杯による肉体変質後のものですから」


聖杯使用前だと目立ちすぎるから聖杯を使って誤魔化すわけで、そっちが周知されたらカモフラージュの意味がないんだよなぁ!?


「これが完成してすぐに姿を消したし、最初から逃げ切りのつもりだったなあいつ……!」


着せ替え隊も妙によそよそしかったし共犯だったんだろう……


「なぁサバイバアル」


「お、俺は口を割らねえ……」


「割ったら中身が出てくる時点でそれもうほぼ答えてんだよ!!」


ぶら下げた餌(ティーアスのしゃしん)で釣れた重要参考人(サバイバアル)は正座しながらも何やらご大層に黙秘権を行使しようとしていたが、黙らなきゃいけない理由がある時点で真っ黒だろうが。


「ったく………ティーアスにお前の悪口言いまくってやる」


「───サンラク、やっていいことと悪いことがあると思うぜ俺は」


「そっっっっっくりそのまんま返してやるよ」


とはいえもう世に出てしまったのだ、消し去ることはできないだろう。所詮はゲーム内データの、さらに言えば静止画だ。血眼になって消し去る必要もそうはない……と信じたい。


ティーアスに吹き込む悪口を考えていた俺をよそに、サイナは写真集をペラペラと捲っていたが………ふと、ページを捲る手を止める。


契約者(マスター)


「なんだよ?」


「表示:この一枚などは非常にインテリジェンスな写り映えと評価できます。同意を求めます」


そう言って見せてきたのは……撮られた記憶がないので間違いなく盗撮された一枚だが……水晶巣崖でサイナをインベントリアに戻す瞬間を撮影したと思しきページであった。

撮影角度のせいか、光を纏って転送されかけてるサイナの手を俺が取っているように見える幻想的な構図だが、記憶が改竄されているとかでなければ、あの時別に手を取っていなかったはずだ。


「写り映えはいいけどもうこれほぼコラ写真だろ………」


「だから良いのでは?」


「ん?」





「一瞬を切り取り、平面に描く。省かれた奥行きに想いを馳せ、動き続ける現在を固定する……そう見える(・・・・・)ことも、また一つの楽しみではないかと」


「…………随分と詩的だな」


「インテリジェンスですので」


「はいはい」


まぁ本人が満足ならそれでいいんじゃないですかね。





余談だが、アホほど売れたらしい。


──────────────────






468:ペン銀

サイナちゃん写真集事件は嫌な思い出だったね………


469:モ・バイル

ここの掲示板で嬉々として買った報告してた奴らが脳破壊連鎖されてく様子は面白すぎてログ保存したわ


470:グリント・レーゼ

まさかツチノコさん込みのツーショットが半分を占めていたとは………


471:伯尾神

>>468

最高の思い出だが?


472:トツカ

言うて征服人形ブームがさらに加速した一因なんだよなぁ


473:バイコン

まぁツチノコさん噂に聞く半裸男性じゃなくて女性アバターだったので全然セーフ


474:鴉未

征服人形写真集路線が確立されたので割とパラダイムシフト


475:モ・バイル

スクショアップする人は多かったけどなんだかんだ写真集レベルでガチの撮影するやつ割といなかったからな


476:丹羽臨

>>472

まぁそのせいでここの掲示板一時期バカ荒れたけどな、契約成功プレイヤーとそうじゃないプレイヤーで


477:ペン銀

正直次回作今でも期待してる


478:マスラーオ

あれかなり売れてたみたいだけど売り上げどうなったんだろうな


手を繋いでるように見える写真を「いい写真ですね」とピックアップしたという事実を噛むと味が出る

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― 新着の感想 ―
写真集出してくれるんだよなぁ!?頼むぜ!
尊い
[一言] オイラもなぁ… お゛ぬ゜っ ってなりてぇよぉ…
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