彼女は看板娘
バイトしてるウィンプのファンアート見てなんとなく思いついた息抜きが5000字近くいっちゃったとさ、ちゃんちゃん(視線を戻せば山盛りの〆切)(本編を書けばかたれ)
「いらっしゃいませー」
たどたどしいながらも、こなれた流暢さを持つ声が店内に響いた。この店を訪れ、その声を聞いた男の目尻が下がり口角がつり上がる。
「う~ん、いらっしゃっちゃいましたぁ~」
「あなたきせかえたいのひとでしょ? あそこのせきがあいてるわよ」
「は~い」
ニコニコと、笑顔でありながらも”濃い”と何故か確信できてしまうような笑みを浮かべた男はその笑みの向ける先……このカフェで働くウェイターの案内に従って店内の席の一つに座る。
「ハァイ」
「チッ……」
「一般的に愛想の悪い男は減点評価だぜ」
「ようブラザー、元気してたか? 遺言ならいつでも聞くぜ」
「おう、向こう50年は遺言考えるのをサボっていいくらい元気だぜブラザー」
案内された先、テーブル席で優雅に紅茶を飲む山賊風の男という明らかにこの空間において異質な存在に対して舌打ちする男であったが、こちらもこちらで眼帯をつけた海賊というどう見ても荒くれな見た目をしている。山賊と海賊という相反する存在を同じ席に案内したウェイトレスの正気を疑うところであるが、それは彼らが同じ組織に所属しており、さらに言えば両者ともにこのカフェの常連であるという前提を知らなければの話だ。
「で、ちゅうもんは?」
───来た。
その一言に、海賊の姿をした男はごくりとつばを飲み込んだ。この一瞬こそが、男がこの店に足繁く通う理由なのだから。どこか試すような視線を向ける山賊姿の男の視線を受けながら、データの世界でそれを行っても何の意味もないと分かっていても本能的に唇を舐めた男は………その言葉を紡いだ。
「ルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~をひとつ……それとワインを」
「るぶりゅむすかーれのだちむし、しおさいをうけたちゅがっ……いちゃい………しゅがろえをそえて、をひとつと、わいんをひとつ……」
男たちは喝采した。
◇
ここは新大陸、前線拠点の端にひっそりと建っているカフェ「蛇の林檎」新大陸支店……またの名を「海蛇の林檎」。
ここでは味覚制限さえ解除されていれば存分に舌鼓を打つことが出来る料理の他にも、名物と呼べるものがある。それこそがここ最近「店員」として働くようになった一人の少女……名をウィンプと言う。
───彼女を知ったきっかけは?
「そうですね、我々が”伝道師”と呼ぶ人がいるのですが……彼女が連れて来たのがウィンプさんを知ったきっかけです。今では日々の稼ぎの殆どをここで使っています(笑)」
───彼女の魅力とは?
「活舌ゥ………ですかねぇ。もちろん他の魅力が魅力足り得ないとかそういう話ではなく、全てが100点だとするなら私にとっては活舌が120点だった……と言いますか。知ってますか? 彼女は一度発音に失敗したメニューはちゃんと練習して発音できるようになるんです。ただそれでも噛んでしまった時のとても悔しそうな顔は非常にレアとされていて、ブロマイドは高値で取引されており………」
「あんたたち、なにやってるのよ」
「「ウィンプちゃん!!お水ありがとう!!!!」」
「ひっ」
客同士で謎のインタビューごっこをしていた二人がとんでもない笑顔で、しかし細心の注意を払った手つきで水の入った木のコップを受け取る様子に気圧されたウィンプであったが、これがこの店での日常茶飯事ではあるのだ…………どれだけ経験しても一向に慣れない異常事態であるというだけで。
思わず天井の梁に視線を向けるウィンプであったが、そこには何もない。ただ天井があるだけだ。
「…………」
「ウィンプ君、お客様がご来店だ」
「……あっ、いらっしゃいませー」
天井をじっと見つめていたウィンプに、厨房から料理を持って現れた禿頭の男性が諫めるように声をかける。彼はこの「海蛇の林檎」新大陸支店の店長だ。旧大陸に十五店舗ある「蛇の林檎」の、十五人兄弟の店長たちとは年の離れた兄弟であるらしい………名を聞くと、いつも苦笑いしながらはぐらかす。
「わ、可愛いNPCだ………!」
「あっちのせきへどうぞ」
「ね、スクショ撮っていい?」
「え?」
「ほらピースしてピース………えっ?」
来店したプレイヤーによる不意打ち気味に撮影されたスクリーンショット。だがそこに映っていたのは、いつの間に移動したのかテーブル席からウィンプを庇うように立った二人の極悪髭面であった。
「「ピース……!」」
「えちょっ誰? ちょっ、近っ………えっ、え?」
「ここは飯食うとこなんだよ、な?」
「写真撮影なら他所でやれや………!」
笑みとは元来、威嚇から派生したものだ。即ち笑みには相手を威圧する要素が含まれている。まさしくそれを実証するかのような笑みを浮かべながら不躾な来店者へと詰め寄る髭面の密度に不気味なものを感じたのか、客になったかもしれなかったプレイヤーは逃げるように退店したのだった……。
「………ウチは別に一見お断りってわけじゃないんですがね」
「悪ィな店長、奴の分まで俺らが注文するぜ」
「こちら、ルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~でございます」
この蛇の林檎に一見プレイヤーが寄り付かない原因でありながらも、同時に「海蛇の林檎」新大陸支店のメイン収入源となりつつあるある意味殺人鬼よりも厄介な開拓者の集団に属する者達の言葉に、店主は諦めの溜息をほんの少しだけ吐き出しつつも完成した料理をテーブルへと運ぶ。
その時だった。
ざわり、と店内の空気が引き締まった。それはある種の威圧感………あるいは、無表情ながらも常に穏やかな雰囲気を漂わせる店主をしてわずかに緊張する程の、来訪。
「………きちゃった」
「ご来店されたか……」
本能的にそれを察知したもの、経験則と”兄”達から忠告として聞いた知識から答えに辿り着いたもの………「蛇の林檎」に隠された本当の役目において、まさしく至高の存在。
彼女が現れる時、あらゆる存在は風が跪いたことを知覚する。風だけではない………嵐の日であれば雨が、雷すらもが彼女の前では緩やかになる。
「来た」
「いらっしゃいませ、ティーアス嬢……」
「い、いらっしゃいませー……」
入口……ではなく、何故かスタッフルームから店内へと出てくる形で現れた幼い少女。
仕事中ではないためか、かわいらしいデザインのワンピースを着たその少女の名は賞金狩人ティーアス。時を支配しされど時の寵愛を受けし者、比類なき”世界最速”………あるいは、「蛇の林檎」としての運営に置いて一種のブラックリストに殿堂入りした大喰らい───!!
「ティーアスたんタイムだ!」
「マジかよオイ祭りだぜ! リアルタイム遭遇とか超レアエンカだろおおお!!」
そして、クラン【ティーアスちゃんを着せ替え隊】にとっては、偶像崇拝対象の降臨である。
基本的にティーアスがどの「蛇の林檎」に出現するかは、着せ替え隊の賢人達による血の吐くような調査でもはっきりとはしていない。なにせ”プレイヤー最速”の人物をして「師」と仰ぐようなNPCなのである。ワールド全体の減速と自身の加速を両立する究極の絶技「超越速」に対抗できる者は存在しない。
件のプレイヤー最速の人物ですら「辛うじて何やってるか視認することは出来るけど抵抗は無理、パフェ食われるしこの前は無理やり口の中にケーキ詰め込まれた」と白旗を振る有様なのだから。それはそれとして死ぬほど羨ましい。
そんな人物の足跡など辿りようがなく、さらに言えば賞金狩人専用の転移手段があるらしく一度転移してしまえば仮にティーアスを追跡できる速度があったとしてもランダムでどこかに移動してしまうのでやはり追跡は不可能。
故に、彼らは各地の「蛇の林檎」に張り込むという原始的な方法でティーアス、あるいはティーアスに次いで人気の高い賞金狩人ルティアの到来を待つのだ。あ、すいませんトゥールさんはちょっと……という思いを抱きながら。
とはいえ目の前に現れたからといってまさか抱き着くわけにもいかない。そんなことをした日には………
「「…………」」
そんなことをした日には、どうなるかを彼らはよくよく知っている。基本的に頼れる兄貴分である自分たちが所属するクランのリーダーは、何か現実でも格闘技をやっているのか分からないが……怖いのだ。ゲーム的に一発で高いダメージを与えられるとかそういう話ではなく、実際に相対した時の威圧感とでも言うべきか。
まるで本当に現実で喧嘩しているような、それも自分では全く歯が立たない相手と……そんな怖さで圧し潰されながら粛清されることになる。
とはいえ、その人物は最近ちょっとした理由で性癖がどんどんねじれて煮詰まってきているため、怖いことは怖いが親しみもどんどん増してきているのだが。
故に着せ替え隊はただ黙する。そしてただ見つめるのだ。花は手折るものではない、根ざし息づき生き生きとしたその姿こそが最も美しいのだ。そう、その為なら断崖にしがみつくことも厭わない………あわよくば自分の性癖にストライクな服を着て欲しい。
それこそがティーアスちゃんを着せ替え隊鉄の掟、それこそがティーアスちゃんを着せ替え隊鋼の結束なのである。
「ご、ごちゅうもんは………」
その時、海賊(彼の職業は海賊ではなく戦王である)の男は気づいた。ティーアスが己の注文したルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~をじっと見ていることに。
その瞬間、男の脳裏に電撃が走った。それは……鉄の掟に反するかもしれない、鋼の結束にひびを入れるものかもしれない。だが、同時にクランリーダーが常々言っている言葉に忠実であるかもしれない………
───俺達は、ティーアスたんの健やかな人生を支える歯車でいい。
「お、おい………?」
答えは一つだった。
ふらふらと目の前の皿を持ち上げた同輩に声をかけた山賊風(ジョブ:剣豪)の男の声もどこ吹く風と、海賊姿の男はまだ手を付けていなかったルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~を一息で全て口の中に流し込んで神速の咀嚼を経て嚥下。そしてティーアスを見過ぎず、しかし視界から外さないようにしながら一言。
「うーん……このルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~めちゃくちゃ美味いな………素材の新鮮さ? って奴は火を通しても損なわれない、まるでルブルムスカーレが舌の上でぴちぴちと跳ねているようだった………」
「…………」
その言葉を聞いたのか聞いていないのか、ティーアスは視線を男から外すとウィンプにこう告げた。
「ルブルムスカーレの出汁蒸し~潮騒を受けた甘露蘆薈を添えて~をふたつ」
「るるるむすかーれのだしむし、しよさいをうけたすがろえをしょえてをふたつ!」
───男は、勝利者となった。それも二冠。
「お前、なんてことを……!」
「…………」
「こいつは流石にサバさんに報告しねぇといけな……おい?」
「遺言、考えるかァ~~~~…………」
今なら卒業論文よりも長い遺書が書ける。新卒社会人である男はぼさぼさの顎髭を撫でながら歓喜の表情で遺言を考えていた。




