ぜんいちのおしごと!
速攻で書き上げられるだろとタカをくくってたのに想像以上に難産だった番外短編
"やぁシルヴィ、今日は僕達「Gigabyte」のインタビューに応じてくれてありがとう"
Silvia:ハァイ、いつも貴方達の雑誌は読んでいるわ
"本当かい? おい見てるかボブ、お前が徹夜で作った雑誌をシルヴィが読んでくれてるってさ"
Silvia:もう少し格ゲーについての記事を充実させてくれると嬉しいのだけれどね
"HAHAHA、ボブのやつが本気で格ゲー一色にしかねないから勘弁してくれ"
"さて、今日君に聞きたいのは他でもない……君の無敗伝説が終わりを告げたことについてだ"
"そして君がしばらく活動停止するという発表……「Gigabyte」の読者は君が何故活動を止めてしまうのか気になってしょうがないんだ"
Silvia:んー、まず最初に言っておくけれど、別に思い詰めて精神が不安定に……とかそういう事ではないのよ?
Silvia:結果的にはKeiに負けちゃったけど、勝つか負けるかのギリギリって点ではミスターかぼちゃ頭との戦いも最高にエキサイティングだったし
"あぁ、爆薬分隊の隠し弾だね"
"リアル・カースドプリズンが突然現れたって界隈は大パニックになったのは記憶に新しいね"
Silvia:是非とも彼とは再戦したいわ……いえそれはそれとして、今回の敗北は来るべき時が来たって感じね
Silvia:私にとって敗北というものはどこか他人事のように思えていたの
Silvia:なにせいつだって私は敗北を与える側だったから
Silvia:でも今回負けて、ようやく私も負けを受け取る側というのを体験できたわ。これは得難い体験ね
"じゃあ、負けてどう思った?"
Silvia:………(Silviaはにっこりと微笑んだ)
Silvia:さいっっっっっっこうに悔しいわ! 次にKeiと戦う時はボッコボコにすると神様に誓っちゃうくらいにはね!
"Oh……てっきり僕達は負けた事で君が落胆していると思ってたんだ"
Silvia:ふふふ、私も驚いているわ。私って結構大人しいと思ってたんだけど
"そんな戦意漲るシルヴィだけど、どうして活動を休止するんだい?"
Silvia:ああ、それは「Zodiac Cluster」との契約なのよ
"なんだって?"
Silvia:ほら、私ってこれまでずっと無敗だったから何年か前、ついうっかりスポンサー達に言っちゃったのよ
Silvia:私は負けるまで休まない! もし負けたらその分だけバカンスさせてくれー……ってね
"あぁ、つまり……"
Silvia:それを本気にしちゃったスポンサー達が私にくれた長めのバケーションってわけなの
"なるほど、じゃあプロゲーマーをやめるわけじゃないんだね?"
Silvia:愚問ね、今私が引退しちゃったら全世界のファンと、私に勝ってない全世界のゲーマー達を悲しませちゃうもの
"全くもってその通りだよ、もし今回のインタビューで君が引退するだなんて言ったら明日から僕達は喪服で出勤しなくちゃいけなくなる"
Silvia:だから改めて宣言しましょう。私は引退しないし、敗北に心が折れた訳でもない……バカンスを楽しんだらまた皆の前に現れるから楽しみにしててね!
"その言葉を聞けただけでも、このインタビューが掲載される刊は売り切れてしまいそうだよ"
"あぁそうだシルヴィ、君はバカンスを楽しむといったけどどこに行くんだい? ハワイ? それともグアム?"
Silvia:ふふふ、それはシークレットよ?
「…………ふふふ」
とあるマンションの一室、ゲームをするために必要なすべての条件を最上級の素材で満たした部屋の中、携帯端末で翻訳されたその記事を読む青年の顔に笑みが浮かぶ。青年の名は魚臣 慧。今プロゲーマー界隈を騒然とさせる大きな渦、その中心にいると言っても過言ではない人物であり、それ故につい先日まで大変多忙であった人物である。
デビュー以来、冗談抜きで文字どおり無敗を誇っていたシルヴィア・ゴールドバーグに初の黒星を刻みつけるという偉業を成し遂げたプロゲーマー(ついでにイキリまくった直後に即落ちしたプロゲーマー)……の他にももう一つ通称「爆薬分隊の隠し弾」と呼ばれる謎の二人組の手がかりを唯一知る人物として兎にも角にもそればかり質問されていたのだ。
かたや「原作より邪悪」とまで評されるクロックファイア、かたや「リアルミーティアス」と互角に渡り合った「リアルカースドプリズン」。その正体は一体誰なんだと聞かれ続け、その度になんだかんだではぐらかし続けるのは、慧本人が招いた結末とはいえ彼を疲労させるには十分な苦労ではあった。
そんなわけで久しぶりの予定が一切入っていない休日、ベッドで横になりながら自分が負かした全米一のインタビューを見ながらだらしのない笑みを浮かべるのも仕方のないことではあった。
と、慧の住むマンションのインターホンが鳴る。
「…………?」
はて、と慧は疑問符を浮かべる。
慧は住むマンションは基本的に一階のエントランスで大抵の処理は済まされる。荷物などは一階で処理された上で受取人の部屋まで自動で運ばれてくるし、来訪者も同様に下まで降りずともモニタで確認する事ができる。
であれば部屋の扉につけられたインターホンが使用されるという事態は非常に稀な出来事であり、考えられる可能性としてはこのマンションの住人が押したという可能性だ。
「そういえば昨日引越し業者が来てたっけ」
慧の住むマンションは現役プロゲーマーとしてそれなりに稼いでいる、それこそ二人分のホテル滞在費を受け持つ程度には懐に余裕がある慧が住んでいるだけあって、それなりの富裕層が住む場所だ。随分とアルファベット表記のダンボールが多く運ばれていたし、海外から誰か新しく入ってきたのだろうか、と推測する。であればこのインターホンは隣人への挨拶だろうか、と。
「はいはい、いくら休日でも部屋の外に出るくらいの動きは出来ますよっと……」
ピッ、と電子音が鳴ってドアが自動で開く。
「はいどちら様………」
「ハロー慧!」
ピッ、と電子音を鳴らしてドアを手動で閉めた。
「………? …………?? ………………????」
再びオープン。
「ハイこれ引っ越し蕎麦! ジャパニーズ十割!!」
どずん! と両手で抱えなければならないほどの大きさのダンボールが置かれる。ちらと覗く中身はギッシリと詰め込まれた蕎麦、蕎麦、蕎麦……
「いや十割蕎麦ってそういう意味じゃ…………っていうかなんでここにいるのさシルヴィア!?」
慧の部屋のインターホンを鳴らし、扉の前に立っていたのは此度の渦……もう一人の中心点であるシルヴィア・ゴールドバーグその人であった。
「Fu, Fu, Fu………イッツァバカーンス! 」
にんまりといたずらが成功した悪童そのものな笑みを浮かべ、シルヴィアは高らかに自分がここにいる理由を語る。つい先ほどまでシルヴィアのインタビュー記事を読んでいたからこそ、その言葉の意味を理解出来る慧はすなわち現状がどういうことで、これから先どうなるのかをなんとなく察して引きつった笑みを浮かべる。
「え………隣室?」
「Exactly(その通りでございます)!」
これから一週間ほど三食蕎麦になること、そして隣にシルヴィア・ゴールドバーグが引っ越してきたという事実を黙っているべきか誰かに話すべきか……某所では「ユニーク自発できないマン」と揶揄される慧の、非常にユニークな日常が始まるのだった。
なお毎晩眠らせてくれない模様(前作ギャラクシアヒーローズ、シャンフロなどなど)
八割デリバリーという中々アレな食生活を見かねた実質同棲と言ってもいい現状、六手くらい先を行かれてるぞ頑張れ夏目ちゃん




