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最終話:コラボしていたゲーム実況者

挿絵(By みてみん)



「…行かないの?」


「え…?ああ!行くよ」

 おれが呆然としている間に10m程先まで彼女が歩いていた。


「嬌太郎、道分かる?たぶんこっちかなぁって歩き始めちゃってたけど」

「ちょっと待って今調べるよ…えーっと……ああ、うん。こっちで会ってるみたいだけど少し遠いから途中でバスに乗ろう」

「よかった、間違えてなくて」


 スマホで『浜辺』『ライトアップ』『イベント』と調べたらすぐに出てきた。


 ……。


 ……。


 なに話せばいいんだ…?

 バス停まで歩いている中、バスの時刻の確認以外何も話せていない。

 いつも大学で普通に話してたよな?なのにどうして今こんなに…。

 莉未はどんな顔をしているのだろう、つまらなさそうな顔をしてるんじゃないか?

 心配になりチラっと彼女を見た。

 予想通り視線を下げお世辞にもテンションが高いようには見えない。


「ごめん、付き合わせちゃって」

「そ、そんなことないよ!大丈夫…だよ」


 大丈夫、か…。

 どうしよう、行きたくもないのに連れて行って…本当に大丈夫なのか?

 いやいや、ここでうだうだ言ってても仕方がない、ここまで来たら浜辺まで行って…。


 おれは…。


「具合でも悪い?」

「え?どうして?」

「だって…顔真っ赤だから」

「え!?あ!これは…その…ほら!夕日!夕日に照らされてるからそう見えるんだよ!あははは…」

「そうなの?ならよかった」


 あぶねえ、今からもう顔赤くしてどうするんだよ。


 おれと莉未はその後も会話が弾むことなく夕日が沈む海へ向かった。


 ♦♢♦


 バスを降り例のイベント会場へ向かう。

 今が17時45分だから点灯時刻の18時まで少しだけ時間があるな。


「莉未、何か買いに行く?あっちに屋台とかあるみたいだよ」

「う…うん、…少しだけ行こっか」


 やっぱりなんか嫌がってるよなあ…。

 明らかにテンションが低い。


 ♦


「わぁ、結構人いるね」

「だね、おれ達が知らないだけで結構大きいイベントなのかもね」


 でもまりさんよく知ってたなあ、店やってるとそういう情報もよく入ってくるのかな。


 ■□■□■□■□■□


 一方、麻梨達はというと


「あ、ごめーん。仕事の用件今日じゃなかったーごめんね」


「え?今日じゃないんすか?」

「そうなんですか?でも良かったですね、今から仕事は大変ですもんね」

 瑛人と雪弥が足を止める。


「その代わりにー、みんなに焼肉を奢ってあげよー!」


「え!?いいんですか?麻梨さん!」

 瑠美がキラキラとした眼差しを麻梨に送る。


「おー、いくぞー!」



(きょーたろうくん、きみなら大丈夫だよ)




 やったー!と3人が麻梨のあとに続いた。


 ■□■□■□■□■□


「もうそろそろ時間だからあっちに行こう」

 デッキを指さした。

「…うん、いこっか」


 莉未、嫌なのかな。

 でもおれ…伝えないといけないことがあるんだ。


 光が灯るライトも見渡せそうだし人も少ないからここでいいかな。


「莉未、ここで見ようよ」

「…う、うん」


 莉未の途切れるような声が嬌太郎の不安を募らせる。


 10・9・8・7…。

 どこからか点灯までのカウントダウンの声が鳴る。

 隣りを見ると莉未はライトを見つめていた。

 3・2……。



 ー♢ー♢ー♢ー♢ー♢ー♢ー♢ー♢ー♢ー


 カウントダウンの後に浜辺に設置された青と白のライトが点灯した。

 屋台の照明は消え、白い砂浜が淡い海の色に彩られる。

 デッキから海を眺めると砂浜のライトが反射し光が揺らめいている。

 辺り一面の人が点灯共に、わぁ、と声を漏らす。


「綺麗だね」

「ああ、思ってたより綺麗だ…」

 莉未もたまらず笑顔になる。


 今だよな…ここで言わなかったらいつ言うんだ。

 点灯したライトを凝視し何度も自身に言い聞かせる。


「あのね」

「あのさ」

 隣り合っていた二人が同時に顔を合わせる。


「あ!え…莉未からいいよ…」

「え!?…ううん、嬌太郎からでいいよ」


 な、なんだ?莉未…、何を言おうとしたんだ。


「嬌太郎から…お願い!」


「え?…うん、分かった」

 気になる、おれから言っていい内容なのか?でも言うしかない…。


「莉未」

「…はい」


 心拍数が上がっていく。


「ずっと言おうとしてたことがあるんだ」

「なに…?」

 莉未が視線を外す。


「おれさ…おれ、莉未で良かったって思った。”mm”が莉未で良かったってそう思った」


「…どうして?」


「こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、おれ、”莉未”と”mm”の二人を好きだったんだと思う」


 莉未は黙ったまま耳をかたむけた。


「好きだった、mmのことを。ゲーム実況者として出会ってメッセージのやりとりをしたり通話をしていくうちにどんどん惹かれていった。それと同時に別れた莉未のことも心のどこかで引きづっていたんだ。ほんと、だめなやつよね」


 好きな人が二人も居た、なんてひかれるよな。


「だめなやつ、ほんとだめなやつだよ嬌太郎は」


「……うん。ごめん」


「でもね、私そのだめな人に何度も助けてもらったの。別れてもう話したくもないはずなのに、私の相談に何度も乗ってくれたの。心のどこかで私を助けてくれるのは嬌太郎しかいないって思ってたんだよね。だから私もだめな人」

 そう言って彼女は下唇を噛みしめる。


「え?…、お互い様ってこと?」

 予想外の回答に驚いた。

「…そうかもね」


 二人に自然と笑みがこぼれる。


「なあ”mm”」

「なに?”ロキ”」


「おれ、”莉未とmm”の二人が好きなんだ」

「私も”嬌太郎とロキ”、どっちも好き…」



 光が揺れる海に映る影が重なる。



 ♦♢♦



 ===ロキ配信===


「こんばんわー、ロキです。見に来てくれてありがとね」


 ―――チャット欄 ―――

『きたよー』

『来るしかないでしょ』

『SNS見たよ』

『楽しみにしてたよー』

 ―――チャット欄 ―――


「楽しみにしてくれてる人が沢山いてよかったです」


 ―――チャット欄 ―――

『呼ばんの?』

『早く呼ぼーよ』

『じらすな』

『はよはよ』

 ―――チャット欄 ―――


「ごめんなさい、今呼びますね。みんな来てくださーい」

「はーい、来たよー。ロキくん呼ぶのおそーい。あ、そまりだよ」

「こ、こんばんわ。廃リバーです…」

「ごめんごめん」


 ―――チャット欄 ―――

『そまりきた』

『廃リバーさんだーー』

『ロキのせいだねえ』

『そまりの話し方好き』

『廃さんの声好き!』

 ―――チャット欄 ―――


「おー、来てよかったー」

「僕も役に立てると嬉しいです…」


 ―――チャット欄 ―――

『全員好きな実況者』

『廃リバー謙虚過ぎ草』

『あれ?もう一人は?』

『4人目が居ない』

 ―――チャット欄 ―――


「あ、ごめんなさい。今呼びますね。おーい、入ってきてー」


 ………。


「はい!ごめんなさい、ちょっと遅れました!」


 ―――チャット欄 ―――

『おー!mm』

『やっときた』

『待ってたよー』

『一人だけ遅いの草』

『mmなら許す』

 ―――チャット欄 ―――


「来てくれてありがとmm」

「ううん、来るに決まってるじゃん」

「…じー、そこで二人の世界作るの止めてくださーい」


 ―――チャット欄 ―――

『ロキミリ劇場』

『mmちゃん取ったら〇す』

『まあでも正直お似合い』

『いいんじゃね?ってレベル』

 ―――チャット欄 ―――


「あ!別にそういうんじゃないから!」

「みんな誤解しないで!」

「じー」

「あの…ロキくん、もう始めちゃった方がいいんじゃないかな…。そまりさんの怒りが爆発しちゃうよ」

「え…、じゃ…じゃあもう始めましょうか!」



 その日プレイした桃太〇電鉄ではまりさんが執拗以上におれを陥れようとし順位を放棄、その甲斐あっておれはどん底の最下位。

 首位争いは莉未と雪弥の一騎打ちとなったが、莉未が一歩及ばず雪弥が栄えある1位をもぎ取った。



 ===ロキ配信終===



 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『はあー、3位かー、ざんねん』

『おれのことばっかりいじめてるからだよ』

『莉未さん上手だったね、結構やってるの?』

『やってないよ、運だよきっと』

『まあまた今度何かみんなで配信しようよ』

『いいよー、決まったら教えてねー、おつかれさまー。そしておやすみー』

『おやすみなさい、麻梨さん』


 〈そまりさんがログアウトしました〉


『うん!僕もなんか案考えておくよ!じゃあね』

『ありがとな』


 〈廃リバーさんがログアウトしました〉


『嬌太郎』

『ん?どうした?莉未』

『楽しかったね、みんなでゲーム』

『だね、やっぱり誰かと一緒に配信するのも楽しいよ』

『私もそう思う。でもね?』

『なに?』

『ううん、なんでもない』

『え、気になるなあ』

『へへへ、じゃあね、お休みなさい、嬌太郎』

『ああ、おやすみ莉未』

 ー♢ー♢ー♢ー通話終ー♢ー♢ー♢ー


 ……莉未は何を言いたかったんだ?まあいいか…。

 おれは襲い来る睡魔に勝てずソファに横たわり気づいたら気を失っていた。


 ♦♢♦


 ふわぁ~あ。

 よく寝たな…。

 気づくとおれはベッドに横になっていた。

 はあ…、とりあえず学校行くか。


 ガチャッ、玄関扉を開けると夜行性のおれの弱点をつくかのように太陽の光が差し込んできた。


 行きますか。


 大学の売店前に着き瑛人と雪弥を待つ。

 瑛人は遅刻しそうだなあ。と、思っていたが時間通りに二人は到着した。


「おはよ」


「おはよ、嬌太郎くん」


「うーっす」


「つーか、まだ時間あるから食堂いかね?おれ朝飯食ってないんだよ」


「ああ、おれも」


「僕は食べたけどついて行くよ」


 おれ達は食堂へ行きラーメンを食べた。


 ズルズルズルッ。

「そういえばさ、なんであの時莉未ちゃんと別れたんだ?もう教えてくれてもいいだろ」


「あー、僕も気になるなあ」


 ズルズルズル。

「ああ、そうだな。もう言ってもいいか。でもここだけの話しだからな」


「おう」


「実は…おれが…莉未に秘密で…を……って感じ。そしたら莉未が怒っちゃったってわけ」

 思い出してみると圧倒的におれに非があるな…。


「お前それ一番やったらだめなことだぞ…」

 瑛人が箸を止めドン引きする。


「うんうん、そういうことって大体の女の子は許してくれないよ思うよ…」

 雪弥の顔が引きつる。


「だよな、おれ…もうしないって決めたよ」


「それで許してもらえるような問題なのかな」

 雪弥が腕を組む。


「んー、女ってのはそういうのずっと引きずるからな」

 そう言うと瑛人はラーメンをまた食べ始めた。


「だよな…。あ、おれちょっと売店寄るから先行くわ」

 食うの早くねえか?と言う瑛人の空になった器を見せ食堂を出た。


 売店に行く途中、「おはよ」と後ろから聞きなれた声が聞こえ振り返った。


「あ、莉未、おはよ。昨日はお疲れ様。ありがとね」

 遅くまで配信してたから莉未もきっと疲れているだろう。


「嬌太郎もおつかれ」

 莉未がほほ笑む。


「あ…あのさ、莉未」


「ん?どうしたの?」


「…今更なんだけどさ、おれ…コラボしていたゲーム実況者が莉未でよかったよ」


「え!?……ずるいよ」


「ずるい?」


「それ!私が昨日言おうとしてたの…!」


「そ、そうだったの??」


「…うん、だからずるーい!」


「ごめんごめん、あ!そうだ次はどんなゲームでコラボ動画出す?」


「え?うーん…『マイ○ラ』『モン〇ン』『VALOR〇NT』……何がいいかな?」


「そーだなあ…じゃあさ、全部やろっか!」


「全部!?いいけど、でもすごく忙しくなるよ…?」




「おれと莉未・・・いや”ロキ”と”mm”なら余裕でしょ!」

「そうだね!」




 教室に向かいながら笑顔で打合せをして歩く二人のゲーム実況者の後ろ姿は、この前別れたカップルというには無理があるくらい幸せに溢れていた。












 ―――― 1年後


「やっと着いた…か」

 空港に着き瑛人がぐったりとする。


「18時間も飛行機に乗るのってこんなに疲れるもんなんだね…」

 雪弥が深呼吸をする。


「ほら、さっさと行くぞ。もうすぐバスが来るんだからさ」

 キャリーバッグを引き2人に声を掛ける。


「瑛人くん、雪弥くん、大丈夫?」

 莉未が心配そうに中腰になり2人の顔を覗く。


「いこいこー、美味しいの食べに行くよー!」

 まりさんが構わず駆けだす。


「あ、ちょっとまりさん、ドイツ語全く勉強したことないのに先頭切るのはおかしいって」

 みんなを置いて走るまりさんを追う。


 おれ達は卒業旅行でドイツに来ていた。


 まりさんに4人でドイツへ行くと伝えたら、目の色を変えて『ウチも行くー!』と言い出し本当についてきてしまった。

 瑠美も来たがっていたが溜まりに溜まっていた補修の関係で親に首根っこを掴まれていた。


 何故おれ達学生がドイツを選んだのかというと…。


 莉未の親戚のありがた~いお土産 且つ おれが莉未の許可なく食べてしまった。


『地元限定品の高級チーズ』を買うために。





この度はご清覧いただきありがとうございました。


恥ずかしながら完結することができた小説はこれが初めてとなります。


皆さまが読んで下さっていたことが、この拙作を書ききる原動力になっていました。


今後もまた連載物を書いていく予定なので、この作品に少しでも興味を持ってくださった方がいたらそちらも見に来てくれると幸いです。






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