第64話:オフ会
「きょ…嬌太郎…」
「あ…、莉未……」
「…ち…遅刻だよ、また…」
「…ご、ごめん…」
つい最近まで大学で普通に話していた二人の会話が急によそよそしくなる。
「あのさ莉未」
「あのね嬌太郎」
一呼吸おいてふり絞って出した言葉がぶつかる。
「あ、いいよ莉未からで!」
「ううん、嬌太郎からでいいよ!」
「「……」」
二人は顔を赤らめ俯く。
「じゃ…じゃあさ、ちょっと移動しない?…ほら、ゆっくり話したいし…」
「う…うん、そうだよね。うんうん…」
ついて来て、と言いおれは足を進めた。
―――― ガチャ、カランカラン。
ベルがついた木製の開きドアを開け中へ入ると、年配のマスターが出迎える。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
奥のテーブル席に座るとキョロキョロとしながら莉未が問う。
「嬌太郎、こんなお店知ってたの?」
「来るのは2回目。あの時mm…じゃなくて莉未と来る予定だった店なんだ」
「そ、そうだったんだ…。あの時はごめんね」
苦笑いするおれに今度は莉未だけが俯く。
「えーっと…さっき話そうとしてたこと、順番に話そうか」
コーヒーを2つ頼み、話しを切り出した。
「あ…うん、そうだよね。嬌太郎から…嬌太郎からお願ぃ…」
莉未の声が段々と小さくなる。
「わかった。この2~3ヶ月間さ、おれと莉未はロキとmmとして…その…ほら、仲良くしてきたじゃん…?莉未は一度も疑ったことはなかった?」
「あ…あるよ、1回だけ。でも今考え直してもよく分からなくて…」
莉未は届いたコーヒーカップをそっと手にし軽く首をかしげる。
「いつのこと?」
「えっとね、マイクラの配信で隠し通路を作ってたことがあったじゃない?あの作り方とまるっきり同じ方法で嬌太郎が学祭のゲームサークルの出し物で隠し通路を作ってたの。それでmmとしてメッセージで探りを入れたらその日に学祭で同じ隠し通路を作ってって頼まれたって言うから確信したんだよ。なのに配信してるはずの嬌太郎と大学からの帰り道でバッタリ会って…」
なるほど、でもあれは…。
「あの時配信してたのは実は瑛人だったんだよ。どうしても配信してみたいって言うから安物の変声機を使ってやらせてみたんだよ」
あの時、飯買ってくるから配信するのは待ってろよと言ったのに、瑛人はそれを無視しておれの買い出しの最中に勝手に配信を始めたんだったな。
おれが買い出しを終わらせてそれから配信をスタートさせてたらそこで”ロキ=おれ”という事実が莉未にバレていたということか。
「そんなことしてたの?ずるいよ」
「いや、故意でやったわけじゃないし、大体その時莉未に正体がバレかけてるなんて知らなかったから」
「そ…そっかあ、そうだよね。じゃあさロキは気づいたことなかったの?」
緊張が解けたのかおれの目をじーっと見つめてくる。
「気づいたっていうか、変だなって思ったことはあるかな。コラボゲームにRA〇Tを提案してきたこととか。だってあのゲームはおれがその日に莉未に教えたゲームだったから」
「……それはほんとにごめんなさい…」
コーヒーカップに両手を添え縮こまっていく。
「あ、いやだめとかじゃなくて!違和感を感じただけだから」
その後もコラボ相手として決まった時の話しや初めて通話した時の話し、その通話時点で何故気づかなかったのかなどお互いの思いを打ち明けた。
「あ、そうだ。今度オフ会やるんだけど莉未も来ない?」
「オフ会?誰と?」
「ああ、えーっと、そまりと廃リバーだね」
「えぇ…緊張するなあ…」
「いやその辺は大丈夫だと思うよ」
「え?どうして?」
「まあおれがついてるから安心してよ」
「え?…でも…わかったよ…」
日時が決まったら連絡するよ、と話し店を出た。
♦
駅まで歩き、同じ電車に乗るためホームで隣り合う。
なんだろう、付き合ってた頃を思い出すな…。
いつもこうして同じ電車を待ってたっけ。
ほら行くよ?呆然とし、電車が着いたことに気づいていなかったおれに莉未が声を掛ける。
しばらく電車に揺られ莉未のアパートの最寄り駅に着く。
「送るよ」
「ううん、大丈夫。今日はありがと。じゃあね」
「……あ、うん。…じゃあ」
久しぶりに見た莉未の笑顔に言葉が遅れる。
♦♢♦
翌日大学へ行くといつもの待ち合わせ場所に瑛人と雪弥が来ていた。
瑛人は腕を組みあからさまにイライラしている。
「おい伏見嬌太郎!!」
え??ど、どうしたんだ…?瑛人の怒号によろけた。
「聞こえてんのか!?伏見嬌太郎!」
なんでフルネーム?
…てかこの前あんな風に突き放しちゃったのに気まずいな。
「…な、なに?」
「おれも参加させたら許してやる!」
「は?…何が?」
隣を見ると苦笑いを作る雪弥が居る。
「オフ会だ!オフ会ってやつにおれも参加させろ!」
「はあ?なんで瑛人が?」
「うるせー!おれも参加だ!」
雪弥がうっかり話してしまったのだろう。
「わ、わかったよ…、まず落ち着けって」
ドードー、と鎮める。
「…はあ、まあ正直オフ会とかはどうでもいいんだ。ただお前一人で抱え込むなってことだよ。あの時もどうせおれらに何も話せずに一人でモヤモヤしてたんだろ?」
バレてたか、やっぱり瑛人には隠し事はできないな…。
「…ああ、ごめんな」
おれみたいな陰キャと一緒に居てくれて、その上いつも支えてくれていた。
バカだなおれは。
「嬌太郎くん、瑛人くんはあれからずっと嬌太郎くんのことを心配してたんだよ?『あいつ大丈夫かな』とか『早く戻って来いよな』とかさ」
雪弥がクスッっと笑いながら瑛人を横目で見る。
「おい!雪弥!お、お…おれはそんなこと言ってねーからな!」
瑛人が汗をかき分かりやすく吠える。
「ありがと、二人とも。じゃあ瑛人も行こうよオフ会。土曜でいいかな?まりさんもその日ならちょうどいいって言ってたし」
「行ってやるか、mmってやつの顔も見てみたいしな」
瑛人が腕を組み、ウンウン、と頷く。
「僕もmmさんと会ってみたかったんだよね!」
…まあその”mm”さんも会ったことある人なんだよなあ。
「じゃあ街中の喫茶店で15時で。まりさんがその時間がちょうどいいよってさ」
ちょうどいいという言い回しが気になったが敢えてスルーしていた。
2人に日時を言い渡しそのまま3人で教室へ向かった。
不思議と今週は莉未と講義が重なることなかったためLI〇Eで日時を伝えた。
♦♢♦
オフ会当日。
瑛人と雪弥、まりさんは現地にて集合でおれと莉未は電車で合流し一緒に向かうことにした。
雪弥とまりさんは面識があるので大丈夫だろうと踏んだ。
前日電話した時にも伝わってきたが莉未は相当緊張しているようだった。
電車に乗り3つ目の駅へ停まるとドアが開き莉未がかなり緊張している面持ちで右手と右足、左手と左足を揃え乗車してきた。
「えーっと、莉未?大丈夫?」
「……」
「おーい、りーみー」
「…え!?どどど…どうしたの?」
どうやら大丈夫じゃないらしい。
「まあ座りなよ」
空いている席に座り深呼吸させ、莉未の緊張をほぐす。
「あのさ、今日助っ人呼んだんだよ。莉未が緊張すると思って」
「助っ人?」
ポケッとする莉未に続ける。
「うん、瑛人が来てくれることになったんだよ。だからそこまでアウェイではないよ」
「瑛人くんが?どうして?」
「あー、えーっとね、その店で…働いてるのが瑛人の知り合いらしくてさ、ほら…なんかいろいろサービスしてくれるんだって」
テキトーすぎ、でもまあ…。
「そうなんだ!瑛人くんが居るならちょっと安心かも」
疑わないよね。
「うんうん、だから大丈夫だよ」
莉未と話しているうちに街に着き店へ向かった。
その途中向こうの3人がもう合流したから先に店内に入っていると連絡がきた。
5分ほど歩きおれ達も店に着いた。
「嬌太郎…」
「ん?」
「私…やっぱ帰る…」
「え!?どうして?大丈夫だって」
店の前に着いた瞬間莉未の顔が青ざめてきた。
「…でも…」
「おれが一緒にいるから」
心配し、俯く莉未を見つめると、莉未はゆっくりと目を上向けた。
「ほんと?」
「あ…ああ、うん、ほんと」
この感じ、なんか久しぶりだな…。
今度はおれが目を逸らす。
ふぅ…、深呼吸し一度感情をリセットする。
「じゃあ行くよ」
「うん」
莉未がコクリと小さく顔を縦に振った。
ガチャッ
「いらっしゃいませー」
「えーっと、相馬で予約してた者の連れです」
「はーい、あちらですね。どうぞー」
店員は右手奥の6人掛けテーブル席を指さした。
「え?嬌太郎…今、相馬って…」
「ああ、うん。えーっと…あ、居た居た」
席に近づくと座っていたまりさんがニコッと歯を見せ、立上った。
「きょーたろうくんとりみちゃん!待ってたよー」
そうか、まりさんはmmの中が莉未だということを一方的にだけど知ってたんだな。
「ん?莉未ちゃん?」
「え?莉未さん?」
まりさんの声に気づき瑛人と雪弥がこっちを向く。
「あれ?麻莉さんと雪弥くん?なんでここにいるんですか?それと瑛人くん」
瑛人と雪弥に莉未の頭上には?マークが浮かんでいる中、まりさんはただ一人みんなが揃ったことに喜んでいる。
―――― まあここまでは想定の範囲内。




