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第61話:きっと大丈夫

挿絵(By みてみん)



「ラーメン、食べにいこっか」


「え?」


「ほらほらー、いっくよー」


「え、ちょ…ちょっと!」


 まりさんは呆気に取られていたおれの手を引き走り出した。

 着いたのはまりさん行きつけのいつものラーメン屋だった。

 2回ほど一緒に来たことはあるがその2回とも確か22時過ぎ。

 今日は19時と、ちょうど込み合っている時間帯だった。


「あららー、ちと混んでるねー。ほかのお店いこっか」

 店の前に10人ほど並ぶ行列を目にまりさんは残念そうに後頭部をポリポリと掻いた。


「待とうよ」


「え?」


「…どうせ食うならここがいい」

 何故かまりさんと行くラーメン屋はここに以外考えられなかった。


「わかった…うん。きょーたろうくんがそこまで言うなら付き合ってあげよーじゃないか!」


「ありがと」


 ♦


 ズルズルズル、ズルズルズルズル…


「くはぁ~!美味かったー!今日も美味しかったよー店長!ごちでしたー」


「あ、ご…ご馳走様でした」


「おう!麻莉!…とお兄さん!また来いよお!」

 黒いバンダナを巻いたゴツい店長にお辞儀し店を出た。


 ガラガラガラッ。

 店を出るとまりさんはポケットから電子タバコを取出し咥えた。


 あれ…タバコ吸うってことは緊張しているってサインだったよな。


「あ、これ別に緊張してるとかじゃないからねー。ラーメン食べた後は吸いたくなるんだー」


「そうなんだ」

 なんだ、なんかとんでもないことを言うのかと思った。


「あのさ、きょーたろうくん」


「ん?」


「前にも言ったかもだけど、ウチはきみと一緒にゲームできてよかったよ」

 まりさんが、ふぅ~、と息を吹く。


「純粋に楽しかったんだー。連絡取れなくなって少し離れちゃった時もあったけど、やっぱりきみとゲームをするのが好き。んでー、一緒にコラボ動画出したり配信したこともすごく楽しかった」

 彼女は遠くを見ながらほほ笑んだ。


「でもさ…」


「しーっ、最後まで話させて」

 振り向き唇に人差し指をあてた。


「あ、うん…分かったよ」


「ありがとね。そんでね、きみと会えてよかった。えーっとこの場合の”会えて”っていうのは、リアルでってことね」


「…どうして?」


「どうしてって…そりゃー、もっと仲良くなれたからだよー。現にきみはこうしてウチを心配して駆けつけてくれちゃったりしたのだからー」


「…あのさ、何が言いたいの?」

 まりさんは、おれに何か伝えようとしている。


「だーかーらー、ウチがどんな外見かも知らずに一緒にゲームしてくれていて、リアルで会った上でも一緒にゲームしてくれてるし一緒にラーメンも食べてくれてるじゃん?」


「そりゃ、別に”そまり”が”まりさん”だと分かったところで何も変わらないでしょ」


「そこそこ!つまりね、きょーたろうくんはウチの外見とリアルな性格を知った上でも、一緒に居てくれたんだよー」

 今度は人差し指をおれに差した。


「もちろんウチだってきみのリアルを知ったって会うまで以上に仲良くできると思ったよ-?てかすっごく仲良くなったじゃーん」

 タバコをポケットにしまった。


「だからね、きょーたろうくん」


「え…うん」


「ウチが言いたいのは、べつにリアルのことはそんなに気にしなくてもいいってこと」

 優しい風がまりさんの髪をふわりと揺らす。


「簡単に言わないでよ、みんな…みんな分かってないんだよ…だってさ…」




mm(みり)ちゃんは莉未(りみ)ちゃんだった、でしょ?」




 落ち着いた口調に胸を突かれた。


「な、なんで知ってるの…?」


「ほらね、やっぱりそーだ。知らないのに知ってるんだよなー」


 またはったりか…にしても。


「やっぱりまりさんって、ストーk…」

「じゃないよ!ウチそんなに暇じゃないもーん」


 まあこれでも一応店長だもんな。


「mmちゃんが莉未ちゃん、何がだめなの?莉未ちゃんが元カノちゃんだから?」


「どこまで知ってるんだよ」


「はい、また当たりー」


 なんだこの人…。


「でもさ、さすがにコラボ相手が元カノはきついよ、それにこの前別れたばっかりなのに」


「ねえねえ、どうして別れたの?この前大学で見た時仲良さそうだったじゃん」


「それは言えない。仲は…今はそんなに悪くはないけど」

 何度か話しあっていがみ合わないで普通に過ごしていこうって決めたからな。


「ふーん、まあ話したくないならいいけどさ。でも大丈夫だよ。ウチが知ってるきょーたろうくんならきっと大丈夫」


「大丈夫って…、てかどうしてそんなにおれのことを気にかけてくれるの」


「そんなの決まってるじゃん!大好きだから。きみのことが大好きだから!あ!友達としてだよー!」

 その言葉を最後に、バーイバーイ、と声高らかにまりさんは去って行った。


 …きっと大丈夫、か。


 まりさんの言葉が染み渡ったような気がした。


 ♦♢♦


 翌日。今日は土曜なので大学は休み…しかし教授に中間発表を早くしてくれと急かされている。

 だが莉未と連絡を取れないので打合せすらできないでいる。

 来週も来ないつもりなのだろうか、出席日数も足りなくなってくるのに。

 真面目な莉未は今まで講義を欠席したことはなかった。


『きみならきっと大丈夫…』


 まりさんの言葉が頭から離れない。


 そういえば今更だけどまりさんっておれにフラれたのによく一緒に居てくれるよな…。

 振った本人が言うのもなんだけど。

 でも嬉しかったな、あの時はもう一緒にゲームすることもできないと思っていたのに。

 まりさんはどういう心境で……ん?…あの時のまりさんの境遇って…。


 もしかして今のおれ境遇となんか似てないか?


 まりさんは失恋してもまた一緒にゲームをしたいと思ってくれたからおれに声を掛けてくれたんだよな?

 おれも失恋のあとお互いに正体は知らずとも楽しくゲームをしていた。

 そして今おれは…mmが莉未だと知ってしまったけど……、また一緒にゲームをしたいと思っている。


 だから…だからまりさんはあんな風におれを元気づけてくれたのか?


 普段は何も考えてないような人なのに…、ほんとはいつもおれのことを気にかけてくれてたんだな…。

 これまでも要所要所で彼女に助けてもらっていたことを思い出した。




 まりさん、おれやらなきゃいけないこと、決めたよ。





 ―――― 椅子に座りPCを起動させた。





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