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第60話:ひとりぼっち

 挿絵(By みてみん)



 声が聞こえる方へ走った。

 そしてゆっくりとそこを覗く。


「みり!……え…」

 おれは目を疑った、そこで声を張っていたのは莉未だった。


「り…み…?」


「きょ…きょうたろう…?」

 この物陰に居るのは絶対にmmだと確信していたがそこに居たのは莉未だった。


「…な…なに、してんだよ…」


「そ、そっちこそ…どうしてここに…」


「おれは…おれは…」

 呼ばれたんだ”ロキ”って…、なのにここにいるのは…。


「…莉未、今でかい声出してたよね…?」


「え、何も言ってない、私じゃないよ。誰も呼んでないもん」

 彼女はおれに背を向けた。


「え……、おれ声出してたよねって聞いただけで誰かを呼んでた、なんて聞いてないよ…」


「え…え!?ま、間違いだよ!ちょっと言い間違えしたの。…ごめん私行くねっ」

 そう言うと莉未はゆっくりと改札の方へ歩き出した。


「さっきさ……ロキって、そう呼んでたよね」

 おれが聞こえるか聞こえないかの小さな声を掛けると莉未は一瞬立ち止り振り返ることなくまた歩き出した。


 これって……。



 莉未の小さな背中を見送ったあと、おれは今日mm……いや莉未と行く予定だった喫茶店に一人で入った。

 いつもは飲まないブラックコーヒーにこの日は苦味を感じなかった。


 まさかコラボしている実況者が元カノだったなんてな…。

 どうしておれは今の今まで同一人物だと気づかなかったんだ。

 音質が悪いとはいえどうして通話時に気づけなかったんだ。

 そもそも莉未がゲーム実況をしていたなんて知らなかった。


 …おれは莉未のことを何も知らなかったのかもしれない。


 これからどうする。

 もう”ロキ”と”mm”として付き合っていくのは無理だ。


 ……明日来ないだろうな。


 ♦♢♦


 翌日の10時


 今日は莉未とおれのペアで合同研究の中間発表がある。


 先日約束した場所で待つがやはり莉未は現れなかった。


 おれへの連絡などもちろん来ないので教授に莉未から連絡があったかを聞きに行くと、今日は体調不良で休むとのことらしい。


 そのままアパートへ帰り(おもむろ)にPCを起動した。

 SNSと通話ツールもブロックされているのでmmのチャンネルを見てみることにした。


 カチッ、カチッ



 ……え…、ないぞ…。

 mmのチャンネルがない。


 何度も何度も検索をかけたが確認することはできなかった。

 コラボ動画の詳細からリンクで飛ぼうとしたがそれもできなかった。


 削除したのか…?


 でも普通に考えたらそうだよな、実況者であることをずっと隠してきていたのにこんな形でバレてしまったのだから。


 シャットダウンしベッドに倒れ込んだ。


 そういえばあの時…最初からおかしかった。

 別れたその日の夜に二人ともそれぞれ自棄になって生配信していたな。

 それで視聴者から息合うんじゃない?とか言われてそのままコラボ…思い返すとなんか笑っちゃうな…。


 別れた直後にまた一緒になって通話したりしてるんだから。


 でも楽しかった…な。

 mm…じゃなくて莉未とゲームの打合せをしたり一緒にゲームをしたりしていられた時間が無性に楽しかった。

 それがもうなくなってしまうと考えると胸が絞めつけられるほどつらかった。


 明日…明日莉未と話そう。

 話せばなんとかなるよな…きっと。


 おれは届くはずのないメッセージを待ちながら寝落ちした。


 ♦♢♦


「え?莉未が来てない?」


「ああ、なんか風邪引いたらしいぞ、莉未ちゃんの友達が言ってた」


 教室に入り莉未の姿がないので瑛人に聞いた。


「あれ?昨日莉未さんと中間発表じゃなかったの?」

 雪弥が出席カードを後ろに配りながら問う。


「いや、昨日来なかったからさ…」


「じゃあ昨日から体調悪かったってわけだな。お見舞い行ってやれよ」


 行けるわけがないだろ…。

 きっと部屋に籠ってるんだろうな、莉未。




 ―――― その後、1週間ほど莉未は大学を休み続けた。


「そういえば莉未ちゃん大丈夫か?ここのところずっと休んでるけどよ」


「うん、流石に心配だよね」


 食堂で昼飯を食べながら莉未の話題に移る。


「知らないよ」


「見舞い行けばいいのによ、心配してくれるのが元カレだとしても嬉しいかもしれないぜ」


「僕もそう思うよ、それに二人は仲悪いわけでもないんだからさ」


「…簡単に言うなよ」


「いやアパート知ってるんだから行ってやれよって話しをしただけだよ、まあ無理にとは言わねえけど」



「二人には何も分からないよ」

 お見舞いとかそういう話しじゃないんだよ。



「なんだよその言い方、そもそも先週から嬌太郎が莉未ちゃんのことを心配してたから言ってんだぞ?」


「もういいよ」


「ど…どうしたの?嬌太郎くん…」

 雪弥が心配そうに見つめる。


「どうせおれの気持ちなんて分からないんだから、ほっといてくれ」


「ああ!?お前なんなんだよ!」

 バンッ!瑛人は立上り片手でテーブルに叩いた。


「おれ行くわ」

 半分も食べずトレイを持ち席を立った。


「待ってよ!嬌太郎くん!」


「雪弥!ほっとけ、あんなやつ」

 瑛人はおれを追おうとした雪弥の腕を引っぱった。


 瑛人と雪弥を置去りにアパートへ向かった。



 プルプルプルッ。

 ん、ああ、瑠美ちゃんか。



 ―――― LI〇E通話【瑠美ちゃん】 ――――

『嬌太郎!!莉未ねぇに何かしたの!?!?』

『何もしてないよ』

『絶対嬌太郎が何かしたんだよ!!だって莉未ねぇに嬌太郎のこと聞いたらすぐ電話切られたんだもん!!』

 ―――― LI〇E通話【瑠美ちゃん】 ――――


 そりゃそうだ、今おれの話しなんてしたくもないだろ。


 ―――― LI〇E通話【瑠美ちゃん】 ――――

『あ、講義始まるからじゃあね』

『あ!ちょっと!!』

 ―――― LI〇E通話【瑠美ちゃん】 ――――


 プツッ。


 …なにしてんだよ、おれ。

 瑛人と雪弥にあたって、瑠美ちゃんにもテキトーな態度とって…

 そんなことしてもなんの解決にもならないのに。


 はあ、mm…じゃなくて莉未との繋がりが切れただけでこんなにも腐るなんて。

 …なんかもうどうでもよくなってきたなあ。

 ……おれもゲーム実況者…辞めるか。

 どうせ昔も一人孤独だったのだから。



 ―――― ブルル、スマホのバイブが鳴った。…誰だ?



 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――

『やっほー』

 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――


 まりさん?


 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――

『どうしたの』

『な!なんだその態度はー』

『べつになんでもないよ』

 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――


 正直まりさんとメッセージしていられるほどのメンタルは保ていないんだよ。


 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――

『ねー、ちょっと店来れなーい?』

『なんで?』

『ウチさ大怪我しちゃって手伝ってほしいのだよ』

『え!?大怪我!?大丈夫なの!?』

『だいじょーぶじゃないから頼んでるのー』

『いつ行けばいいの!?』

『いまー』

 ―――― LI〇Eトーク【まりさん】 ――――


 急すぎる…けど早く行かないと!講義も終わって帰るところだったしちょうどいい。


 おれは急いでまりさんの古着屋へ向かった。


 電車を降り駅を出て店を走ろうとした時、目の前にまりさんが腕を組んで立っていた。


「え?な…何してるの?仕事は?てか怪我って…」

 彼女のつま先から頭ののてっぺんまで見たがパッと見怪我らしい怪我は見当たらなかった。


「おーす、きょーたろうくん」

 いつもの青いキャップを被り屈託のない笑顔で出迎えられた。


「おーす…って、だから何してるのって、怪我は?」


「うーん、ぜーんぶ嘘だよー」

 片手でピースサインを作る。


「は?…じゃあおれ帰るけど。やめてよそういうの、心配して損した」

 こんな時にくだらない冗談はやめてくれよ。




「…心配、したよ」

 まりさんに背を向け帰ろうとした時、ボソッと声を掛けられた。


「なにが?」

 どうせまりさんも瑛人や雪弥みたいに的外れなことを言うんだろ。


「また一人ぼっちに戻ってないかな、ってさ」


 え…。


「それってどういう…」


「きみのことは全部分かるのさ。…あ!ストーカーではないぞ?」


「…テキトーでしょ、どうせ」


「ちーがうよ。きょーたろうくんさあ、この前mmちゃんと会ったでしょ」


「え…なんで知ってるの」


「ほらねー、知らなかったけど知ってたんだよー」


 なんなんだよ、この人…。


「なー、きょーたろうくん」


「ん?なに」


「ラーメン、食べにいこっか」





 ―――― この時のまりさんの優しい笑顔におれは不意をつかれた。





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