第59話:呼ぶ声
「莉未…?」
「…え?…嬌太郎?」
スマホを片手にきょろきょろとしている女の人はやはり莉未だった。
「ど、どうしたの?こんなところで」
「あ、いやちょっと街に用事があってさ。莉未は何してるの?」
女の人と待ち合わせてるだなんてなんか言いづらいしな。
「用事なんだ、私も…私もね、ちょっと用事があってさ」
ん?なんか少し気まずそう?
……あ、そういえば瑠美ちゃんが言ってたな、今日莉未がデートに行くって。
「そっかそっか、じ…じゃあおれ行くね」
「あ、うん、また明日ね」
デートの邪魔したらまずいからな。
えーっと、mmはどこだ?mm…mm
ん?そういえばおれmmの外見なんて知らないんだった。
聞いてみるか。
スマホを取出しSNSのメッセージを開く。
―――― SNS【mm】――――
『遅れてごめん、mmもういるよね?』
―――― SNS【mm】――――
返事はすぐ帰ってくるだろ。
…ピピピ、ほら。
―――― SNS【mm】――――
『いるよ!ロキどこ??』
『待ち合わせの場所に来たよ!』
―――― SNS【mm】――――
え?
……ってことはやっぱりこの中にmmがいるってことだよな。
ここにいる女性の人数を数えてもざっと10人はいる。
片っ端から『mmさんですか?』なんて声を掛けるなんてこともしたくないしな…。
あ!服装!服装を聞けばいいのか。
―――― SNS【mm】――――
『mmはどんな服着てるの?』
『白いブラウス着てるよ!』
―――― SNS【mm】――――
白いブラウスか…、白いブラウス…白いブラウス……、なんかブラウス率高くないか?
ちょっとこれだけじゃ見分けつかないな。
ああ、移動してもらうか、んー。
―――― SNS【mm】――――
『あの丸柱のとこに移動できる?』
『え?うん分かった!』
―――― SNS【mm】――――
よしよし、これで…。
って、ん??
「莉未何してんの?」
声を掛けると莉未はびくっと背筋を伸ばした。
「な、なにって…。嬌太郎こそ何してるの?どこか行くんじゃなかったの?」
「あ、うん、そうだった。じゃ…じゃあね」
軽く手を振り莉未の視界から消えた。
どういうことだ?
…もしかして、もしかしてだけどさ…おれの勘が正しければ。
おれ、からかわれてるんじゃね?
そもそもmmはおれなんかと会う気なかったんじゃないか?
もう11時か…この近くのどこかでおれを見て笑ってるのか?
…いやでもおれが知ってるmmはそんな人間じゃない。
でもおかしいよな、白いブラウスというヒントはくれた…けど丸柱への移動は無視。
恥ずかしいのか?おれと会うのが…。
それとももう帰っちゃったのか?
分からない…分からない…分からない。
ピピピ、…メッセージ。
mmからだ。
―――― SNS【mm】――――
『もしかしてロキ帰っちゃった?』
―――― SNS【mm】――――
え?どういうことだ?
やっぱりいるのか?
この中にmmが。
―――― SNS【mm】――――
『帰ってないよ。mmこそほんとにここにいるよね?』
『いるよ!ロキどこ?』
―――― SNS【mm】――――
いる…この中に絶対にmmがいる。
…あ!丸柱に白い服の人!
ブラウスではないけどあの人がmmに違いない!
目に留まったのは金髪のショートヘアの背の高い女の人。
ふぅ…行くぞ。
ゆっくり近づき女性の前で立ち止ると彼女はおれの顔を見て顔をしかめた。
「あ、あの!もしかして…」
おれが勇気を振り絞り声を掛けていると後ろから男の人の声が聞こえた。
「なに人の女にちょっかい出してんだよ」
ゆっくり振り返る身長が180センチはあるであろういかつい男が立っておれを見下ろしていた。
「す、すみません!人違いでした!」
男はチッと舌打ちし金髪の女性の手を引きどこかへ去った。
ひ、人違いか…。
「嬌太郎……、用事ってナンパだったの…?」
隣りに居た莉未が蔑むような視線を刺した。
「ち…違うよ!ちょっとこれにはわけがあって…」
「そっか、あの…さ。嬌太郎ちょっと遠くに行ってくれないかな…」
そうだ、莉未がデートの相手と待ち合わせているのをすっかり忘れていた。
「ご、ごめん!じゃあね」
にしてもそいつもひどいやつだな。
いつまで莉未のことを待たせてるんだよ。
莉未もよく待ってあげられるな。
とりあえずこれ以上ここでmmを探すのはまずいな。
でもどうしたら見つけられるんだろうか…?
ピピピッ
―――― SNS【mm】――――
『ロキはどんな服??』
―――― SNS【mm】――――
今度はmmから聞いてきた…ってことはいる、いるはずだ。
―――― SNS【mm】――――
『白いシャツ着てるよ』
―――― SNS【mm】――――
って…周りにいる連中も白いシャツだらけじゃないか。
―――― SNS【mm】――――
『ロキも丸い柱のとこに来れる?』
―――― SNS【mm】――――
なるほど、これなら絶対合流できる。
―――― SNS【mm】――――
『了解、今行く』
―――― SNS【mm】――――
とは言ったものの、あの柱には莉未がいるんだよな…むこうに行ってみるか。
おれは莉未が居る柱とは別の方へ向かった。
―――― SNS【mm】――――
『着いたよ』
『え?誰も来てないよ?』
『いやこっちにも誰もいないんだけど…』
―――― SNS【mm】――――
もう埒が明かない…。
もういっそのこと声を出して呼ぶか?いつかのまりさんみたいに。
…よし。
「…み…みりー…ど、どこー…」
き、聞こえたか?
何故か誰も振り向きはしなかった。
ここにはいない…帰るか。
からかわれてたんだ、きっと。
もしくはどこかで面白がってるのかもしれない。
mm……でもおれ…。
「ロキー!」
え!?
帰ろうとした瞬間どこからか女の人の大きな声が聞こえた。
「ロキー!」
誰か…誰かがおれを呼んでいる、それも今まで散々聞いてきた声。
「どーー!」
駅に響くその声に周囲の人がざわつく。
mmだ、間違いない。
ここで”ロキ”なんて叫ぶのはmm以外ありえない。
改札を通ろうとしていたおれは声のする方へ向かった。
「ロキー!」
この辺りにmmがいる。
こうなったら…。
「みりー!」
こ、こんなに大きな声を出したのは久しぶりだ。
周りの奇異な視線などどうでもよかった。
早くmmと合流しなければ。
……!…いた!
少し離れた物影から白い袖が見え隠れしそこからおれを呼ぶ声が聞こえる。
走った、運動会以来の全力ダッシュだ。
はあ、はあ、着いた。
おれは息を整え柱の陰をゆっくりと覗いた。
「みり!……え…」
……おれは目を疑った。その陰で声を張っていたのは白いブラウスを着た…
莉未だった。
―――― ……り…み…?…どうして莉未が…。




