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丑三つ時に惡魔は嗤う  作者: Shatori
3.我が胎を満たす、朱い赫い臓物よ
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27.手がかりを求めて

 GW(ゴールデンウイーク)初日。朝九時。

 最低限の荷物を入れた鞄を横に、僕は靴紐を結んでいた。


「……どこか出掛けるの?」


 背後から声がした。

 靴紐を結びながら横目で確認してみると、恐る恐る尋ねてくるお母さんがいた。

 きっと昨夜の事を気にしているのだろう。


「うん。図書館に行ってくる」

「そう……。出来たらGPSを――」

「じゃ、行ってくるから」


 鞄を抱え、僕は家を飛び出した。



 昨晩、自室に戻ってからスマホで『12年前 6月13日 迷子』で調べてみた。

 出てきたのは『あの有名俳優が新ドラマの主演に決定!』とか『有名女優が有名俳優とスピード婚⁉』とか『大手企業の不手際で顧客情報が流出⁉』とか――……。

 迷子に関する記事は一つも出てこなかったのだ。


 ネットでニュース番組を調べても、動揺に手がかりはなかった。

 他に情報を得られるのは……と考えて、新聞ならもしかしたらと思い至った。

 そこで今日、市立の図書館へ向かうことにしたのだ。

 図書館であれば、過去の新聞も置いてあるだろう。



 ◇ ◇ ◇



 電車に揺られ数分。目的の図書館に着いた。

 市立の図書館なので、流石に大きい。期待が持てる……。

 この図書館に過去の新聞が置いてあるのはリサーチ済み。ただ何年前まで置いてあるかは書かれていなかった。


 ……えぇい考えていても仕方がない! 自動ドアをくぐり中に入る。

 何百冊も本が刺さってある本棚がズラリと並ぶ。

 一体この施設には本が何冊あるんだ……?

 おっと違う違う。今日の目的は新聞だ。


「すみません、昔の新聞って置いてますか?」


 受付にいたお姉さんに聞いてみる。

 想像以上に図書館が広い。

 新聞を探すのに時間をかけていられない。


「あぁ、こちらですね~」


 受付のお姉さんからしてみれば、朝からやってきて新聞の位置を聞く変な高校生に見えたかも知れないが、普通に案内された。ちょっと安心。

 新聞コーナーがあったのは、図書館の奥。少し影が差巣ような場所で、付近には誰もいない。

 ずらりと並べられた新聞達は、年代ごとに分けられていて、一番古いモノで三十年前のものだった。

 良かった。十二年前の新聞はありそうだ。


「ええっと一,二,三……あった、六月」


 確か僕が迷子になった日は十三日だったはず。

 だから読むのは十三日の夕刊か、十四日のものを読めば除法は得られるはず……。

 けど記憶違いな可能性も捨てきれないため、念には念を入れ六月の新聞全て読むことにした。

 ドスンと持っていた新聞の束を脇に置き、僕は見落としがないよう慎重に新聞を読み進めていく。






 ――……しんどい。


 活字ばかりの新聞は、見ていて目が疲れてくる。

 三日分読んでは休憩を繰り返し、少しずつ、だが確実に読み進めていく。


 端から見た僕は、大量の新聞を読み漁り、偶に目頭を押さえ悶える不審者に見えるのだろう。

 時折チラチラと視線を感じるが、特に気にせず読むことに集中する――……








「――う閉館ですよ!」


 この日も書かれていなかったな。さて次――


「もう閉館ですよって!」


 なんだよ肩揺らして邪魔だな。


「……なんです?」

「あ、気づいた。もう閉館なんだ、ここ」

「え⁉」


 窓の外を見てみるともうすでに日は落ち、かけられた時計を見てみると、針は十九時を指していた。

 僕がこの図書館に来たのは朝十時だったはず。

 ……どうりで眼が痛いわけだ。


「それにしても……凄い集中力だったね、キミ」


 脇に積まれた読了済みの新聞の山を見ながら、おじさんは笑う。

 疲れ目のせいで視界がぼやけるが、名札を見るに、この人は本多さん。ここの館長さんらしい。


「……すみません、今片付けます」


 広げた新聞をかき集め立ち上がると、長時間座っていた影響でバランスを崩してしまった。


「……私も手伝うよ。その方が早く済む」


 倒れそうな僕を支えてくれた館長さんの提案を甘んじて受けることにした。

 何せ一ヶ月分の新聞を元に戻さなくてはいけない。

 ……あぁ、どこまで読んだんだったか。

 あまり記憶がないが、「迷子」に関する記述がなかったことだけは確かだ。


「それにしてもこんなに沢山新聞を……何か調べ物かい?」


 新聞を日付順に並べながら、館長さんが尋ねてきた。


「え、あぁ、はい。僕昔迷子になったことがあるんですけど、その時のこと詳しく知りたくて」

「おやおや、そうだったのか……で、それは何日の出来事なのかな?」

「えぇと確か、十三日……」


 自分で十三日と口にしたことで、疲れて朧気な頭でも気づくことが出来た。


「――あれ、十四日の()()()()()……⁉」


 まさかどこかに落としたのか⁉

 すぐに振り返って見てみるが、机の上にも道中にも、新聞は落ちてはいない。


「んん? 十四日の新聞? ……あぁそうだそうだ、思い出しましたよ」


 キョロキョロと辺りを探していると、館長さんが何かを思い出したとポンと手を叩いた。


「確か十二年前の六月十三日……いや十四日の朝だったかな。印刷の機械が故障して、全国新聞が止まったんですよ」

「……そんな、事が」

「そうなんですよ。それで当時新聞がない~って騒ぎになりましたね~。いやぁ懐かしい」

「そう、なんですか……」


 それから残っていた新聞を全て元に戻し、図書館を後にした。

 館長さんには深々とお礼をしたら「迷子のこと、頑張ってね!」と激励まで貰ってしまった。ずっと居座ってた僕に、優しい人だった。


 お母さんに今から帰ることを連絡した僕は、大きなため息をついていた。

 ……まさか新聞すらないなんて。



 ――落ち着け。一旦整理しよう。

 まずネット。どれだけ調べても、関連するものは一つも出てこなかった。

 次にニュース。これもネットで調べたが、取り上げている番組は何一つ見つからなかった。

 最後に新聞。そもそも、その日の事について書かれた新聞自体が存在していなかった。

 つまり、十二年前の六月十三日。僕、吉岡悠馬が迷子になったと言う《《記録がどこにもない》》――!



 頑なに当時のことを話さない両親と、一切の記録がない事。

 この二つが偶然だとは思えない。

 きっとこの日には何かある――……。



 だけど手がかりがない!

 知る術がない!



 ……こうなったら両親に無理矢理にでも吐いて貰うか?

 魔使君辺りならそう言った魔術を知っているだろうし――……。


 そう考えていたとき、懐かしい顔を思い出した。


「……そうだ、じぃじ達なら」


 父方の祖父母。

 僕が小学生の頃に何度も帰省していた。

 もしかしたらその時に、両親から何か聞いているかも知れない――!


「その可能性があるなら……!」


 真っ暗に閉ざされた僕の視界に、一筋の光が差し込んだ。

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