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丑三つ時に惡魔は嗤う  作者: Shatori
3.我が胎を満たす、朱い赫い臓物よ
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25.君は一体何なんだ

 七不思議その壱番、飛樽を討伐した翌日。

 僕、魔使君、委員長の三人はいつも通り登校していた。

 深夜二時に結界内に突入し、家に着いたのは三時を過ぎていた。

 そこから寝ても四時間ほどしか寝ていない。


 けれど、寝不足に悩まされていた僕は、疲労によりぐっすり眠れたこともあって、むしろ調子がいい。いつもより深く眠る事が出来ていた。

 委員長は「管理者としての仕事は大体があの時間帯だからもう慣れたわ」と一言、魔使君も「私は睡眠を必要としないから」と二人も問題ない様子。

 ……睡眠を必要としないってどういうことだ?


 そんな理由で、僕たちは生活リズムを乱すことなく、いつも通りの日常を送る事が出来ていた。



 ◇ ◇ ◇



 その日のHRが終わるとすぐに、僕は魔使君に呼び出された。

 場所はいつもの空き教室。もはや恒例の場所になりつつあった。


 呼び出された理由は何となく見当がついている。

 扉を開けると、夕焼けに染まった教室に彼一人。

 委員長は用事があると足早に帰った為、この場にはいない。


「――来たね」


 ニコリと笑った魔使君に促され、僕は彼の向かいに座った。


「それじゃあ、聞かせてくれないかな。私と別れた後、飛樽の領域内で君達に何があったのかを」


 やっぱり本題はこれだった。

 別れ際に後で聞かせろって言われてたし、分かり切ってたことだけど。

 特に断る理由がない僕は、二つ返事で了承した。


 それから僕は、何があったのか順を追って話した。


 脳内に声が聞こえてきたこと。

 警備員として配置された魂がうじゃうじゃいたこと。

 そしてそれらを魔術で倒しながら進んでいったこと。

 委員長が何かを感じ取って開けた扉の先で、オルトロスと戦闘になったこと。


「……オルトロス?」


 僕の言葉に相槌を打ちながらメモを取っていた魔使君だったが、『オルトロス』という言葉に反応した。


「うん、二つの頭を持った犬が現れたんだ。特徴的にオルトロスって呼んでたんだ」

「……聞かなくてはいけなことが増えたな」

「――何か言った?」

「いや何も。さ、続けてくれ」


 小声で何か言った気がするが、彼に促され話を続けた。


 委員長と協力して何とかオルトロスを打ち倒せたこと。

 その先の部屋には、金で作られた財宝が沢山保管されていたこと。

 その中にあった石像、そして聞こえてきていた声の正体が、四神の朱雀だったこと。

 朱雀の協力もあって、領域の核だった『満月』を破壊できたこと。

 魔使君と別れてからあった事を、僕は話した。


「ふむ、なるほど……。随分面白いことが起きていたんだね」


 ペンを置きながら、魔使君は僕を見る。

 その目はキラキラと輝きを放ち、心の底から楽しんでいることが分かる。


 彼は圧倒的な強さと、底が見えない未知が合わさって不気味に感じるが、こういった子供のような一面も見せてくる。


「加茂茜から聞いたよ。戦闘中何度も君に助けられた、と」


 委員長、そんなこと言ってたんだ。なんだかむず痒いな……。


「随分と、魔術を使いこなしていたそうじゃないか」


 ……なんだろう。褒められていると思うんだけど、言葉にどこか棘があるような。

 手を合わせ、僕に向けて微笑んでいる。

 口角は上がっているのに、笑っていないその目は、すべて呑み込まれてしまうと感じるほどに暗く深い。


「え、っと……」

「君は、何故魔術を使えるんだ?」

「――……え?」


 彼は未だ微笑んでいる。


「時代が進み、科学が発展する度に人類は大きく進歩してきた。存在する多くを、科学によって解明してきた」


 僕から一瞬たりとも目を離さず、淡々と魔使君は続ける。


「しかしその代償として、人類は魔術を捨てた」


 対して僕は、彼の言葉が、「何故魔術が使えるのか」という問いが僕の何かを揺るがした。

 まるで根底が崩れ去ったかのような喪失感に、冷や汗が吹き出て、視界が揺れる。


「魔術を忘却へと捨て、空想の産物だと押し上げた人類は、次第に内に巡る魔力をも認識することが出来なくなっていった」


 不可視で、科学技術では検知出来ない魔術を、人類は存在しないもの、幻想によって作られたものだと断定した。

 そのまま時代と共に、魔力の存在すら忘れ、いつしか人類は『使えない』のではなく『使う選択肢』すら失ってしまった。


「……でも君は違う」


 魔使君の眼が僕を射貫く。夕陽を受け輝くその瞳に、僕は呼吸すら忘れ、動けなくなった。


「吉岡君、……いや吉岡悠馬。君は()()()()()()?」


 その問いに、僕は答えることは出来なかった。

 それどころか、彼の眼すら真っ直ぐ見ることが出来なくなっていた。


 そんな僕を見て、魔使君は目を細め、追求しようと口を開く――。

 その時だった。



 静寂を切り裂くように、チャイムが鳴り響いた。

 時刻は午後五時。完全下校を告げるチャイムだった。


「……時間切れ、か」


 心底残念そうに魔使君は立ち上がる。


「君は何なのか。その答えはまたいずれ聞かせて貰うとしよう」


 それだけ言い残し、彼は「じゃあね」と教室を後にした。


「ちょ、ちょっと待って!」


 後を追おうと教室を飛び出したが、もうどこにも彼の姿はなかった――。

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